夜を繋いで君と行く
「うん。」
「り、りつー!」
「…ふふ、うん。今の、可愛い。」

 律の口元に笑みが戻って、怜花は少しだけホッとした。

「…もっと、やる?」
「うん。ちょっといろんなバリエーションで呼んでみて?」
「いろんなバリエーションって…私声優じゃないからそんなにポンポン声、変えられないよ!」
「…そっか。じゃあ、…そうだなぁ。子供を呼ぶみたいに、とか?」

 律が子供だったらと想像を巡らせて、怜花はコホンと咳ばらいをした。

「い、いくよ。やります。」
「…うん。」
「りーつー!」
「…うわぁ、今のも可愛いじゃん。…じゃあ、叱るときは?」
「律!」
「怒ったらそういう声になるんだ。初めて聞いたかも。」
「律に怒るようなことがないからだよ。…ちょっと、元気出た?」
「…うん。怜花が呼んでくれる『律』で、…安心した。」
「…良かった。他には?」
「…もっと、いいの?」
「うん。…が、頑張ります。そういう心意気でいるから、今。」
「はは、かっこいいなぁ、怜花って。ずっとそうだよね。…じゃあ、そんな怜花に甘えよっかなぁ。」
「うん。…やっと言ったぁ…結構頑固だよ、律…。」
「…うん、ごめん。…なんかやっぱり、…全然違うんだなって。怜花の呼んでくれる名前だけが特別で、…大事なんだなって、改めてわかった。」

 怜花は両手で律の手を包み込んだ。

「…特別だよ。律だけ、特別。」
「…うん。あの、さ…一個ずつ、上書きしてもらっていい?」
「上書き?」
「うん。…他の女にされて、嫌で。それをもっていたくないから、怜花に同じことしてもらって消してもらいたくて。…そもそも、他の女に近付かれるなよって話ではあるんだけど。」
「あの、私と律のいつもの距離くらいまで近付いたってこと?」
「…うん。ごめん。」
「そ、そうじゃなくて!それはあまりにも相手が非常識じゃない!?彼女がいるいないに関わらずさ!接触もそうだけど、名前も下の名前…呼ぶの…?」
「…舞台挨拶の最初のあたりは普通に苗字だったのに、北海道からなんか、『律さん』って呼ばれて…それが一番だめだったから、怜花にいっぱい、呼んでもらった。」
「…それは、…そんなの、疲れちゃって当然だよ…。だって舞台挨拶なんて場でそんなことされたら嫌って言えないし、誤解するお客さんだって…。」

 そこまで言って、怜花はハッとした。律の瞳が悲しげに揺れた。

「…誤解させたいんだよ、あの子は。作品を踏み台にして、話題と注目を集めて、自分に靡かない俺のことが欲しいの。自分を飾るアクセサリーとして。」
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