夜を繋いで君と行く
* * *

 怜花が電話を切って、今一度スマートフォンを見ると着信が入っていた。相手は九重だった。すぐさまかけ直すとコール音2回で九重は出た。

「夜分遅くに何度も電話してしまい、申し訳ありません。九重です。」
「むしろすみません、出れずに。」
「いえ。二階堂さんから電話でもきましたか?」
「えっ?」
「…あの記事が出てなお、二階堂さんは声を荒げて怒る様子もなく部屋に戻られましたから。怜花さんに電話をしていたとしたら納得です。」

 九重の声には疲れと悔しさが滲んでいた。

「私が電話したんです。心配になってしまって。九重さんも大丈夫…ではないかもしれませんが、身の危険などはありませんか?」
「私は大丈夫です。こういう局面で矢面に立たされるのは私たち裏の者ではなく、二階堂さんのような表に立つ側の人間です。そのような方を適切に守ることができませんでした。申し訳ありません。」
「そんな!謝っていただくようなことではないです。記事も読みましたが、画像も荒くて二階堂の表情までは見えませんし、その…こう言ってはなんですが、巧妙な感じというか…。」
「おっしゃる通りです。…良かったです。これで怜花さんを不安にさせたり、二階堂さんへの不信感が生まれたり…みたいなことになってしまったらそれこそ本当に取り返しがつかない…。」

 九重の少し苦しそうな声が、さっきの律に重なる。二人が一生懸命、理不尽に晒されながら耐えていることがわかって、いてもたってもいられない気持ちになる。とはいえ、自分にできることなど何一つ思い浮かばなくて怜花はぐっと唇を一度噛んだ。しかし、これは言わなくてはならないと思い、ゆっくり口を開いた。

「今も二人のことが心配ではありますけど、不安も不信感もないですよ。ただ、その…二人が変な人に囲まれてしまったり、明日の舞台挨拶で心無い質問が来て…二階堂がたくさん傷ついてしまったら嫌だなとは思います。でも本当にそれだけで、お二人が安全に帰って来れればそれでって思っています。」
「…そう、ですか…。安全についてはおそらく…まぁ大丈夫だと思うのですが、二階堂さんの心のケアという面におきましては、怜花さん以上に適任の方がいるわけではない、というのが実際のところです。」
「…は…い…?」

 少し、話の方向が変わってきたように感じて、怜花はやや抜けた声で返してしまう。

「怜花さん、折り入ってご相談があります。これは唯一無二のあなたにしかできないことで、あなたにしか頼めないことです。」
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