夜を繋いで君と行く
「仕事だから仕方なくとか言ってたけど、そんなの全部嘘だし。だってこんなに可愛いのに、好きにならないとかある?」

 怜花は言葉に詰まった。言ってやりたいことは山ほどあるが、『通じない』ということがわかった相手に対してどんなアプローチをとればいいのかわからなかった。

「私の欲しいものが手に入らなかったことなんて、一度もないんだから。」

(…そういう理屈。まるで『あの子』みたいなことを言うのね。)

 ゆりあのこの一言で、急に理解が進んだ気がした。本当に可愛いかどうかなんて、きっと関係がない。この子がそれだけでやっていけてしまうと思わせてきた環境が確かに存在していたことだけはわかる。

「…星宮さん、一つだけ、いいですか。」
「…何よ。」
「これは、二階堂のマネージャーとしてではなく、ただ一人の、普通の女としての意見ですが。」
「だから、何?」

 怜花はゆっくりと長く息を吐いてから口を開いた。

「…可愛いだけでは、だめなんですよ。そんなに人生は、『ずっと』はあなたに甘くない。」
「は、はぁ?」
「可愛いだけじゃ、生きていけないんです。…選ばれたいなら、あなたも選ばないと。誰でもいいなら、それはどうでもいいんです。」

 美人だね、綺麗だね、可愛いねと見た目を褒められていた時期がある。『可愛い』という言葉を異常に欲しがる妹がいるという現実もある。だからこそ『可愛い』という言葉はそれなりにずっと、嫌な言葉だった。

『お姉ちゃんよりも私の方が可愛いって言ってくれたんだー!』
『お姉ちゃんよりも私の方が可愛げあるもんね、ね、ママ?』
『お姉ちゃんよりも私の方が可愛いのに、なんで!?』

 目を閉じると、まるで今言われたかのように鮮明に思い出せるくらいには何度も同じ言葉を吐かれている。ゆりあだけじゃない。『可愛い』だけで生きていけると思い込んでいる女が他にもいるのだ。だが、それで生きていけると肯定したくはなかった。それを認めてしまえば、せっかく少しずつ好きになりかけている『可愛い』という言葉をまた嫌いになってしまう。

「…だけ、って言葉が重いんですよ。『可愛い』は簡単に消費されて、使い潰されてまた次の『可愛い』に移っていく。特に女はそうですよ。若いから可愛い、世間知らずそうで可愛い。…それって消費です。『消費』と『特別』は違います。…すみません、語りすぎました。失礼します。」

 怜花は早口で謝罪すると、足早に控室に戻った。帰り支度の済んだ律がそこにはいて、その後はゆりあと遭遇することもなく、劇場を後にした。
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