夜を繋いで君と行く
日常を壊す手紙
* * *

 3月に少し仕事の忙しさが緩まった律が車を何度も出してくれて、引っ越しらしい引っ越しではなかったものの、自分の必要とするものは動かし、冷蔵庫などの大型家電は処分した。そして3月の中旬頃からはほぼ律の家に住むようになり、4月はあっという間に来た。
 新しいクールはあまり仕事がないらしい律は、怜花よりも遅く家を出て、怜花よりも早く帰ってくるなんてことが増えた。少しずつ料理を覚えた律は、米を炊くことと味噌汁を用意することまではできるようになり、あと一品のおかずのレシピを見てはうんうん唸っている。そんな姿を見て怜花がくすっと笑うような、穏やかな日々が続いていた。

「あ、そういえば。」
「うん。」

 風呂を終え、ソファでカモミールティーを飲んでいた時だった。

「今日ポストに怜花宛の手紙、入ってた。前の住所から転送されたっぽい。」
「……手紙?」

 渡された封筒はダイレクトメールなどのようなものではなく、明らかに個人が使うレターセットのような封筒だった。

「名前見た感じ、実家かなと思って。」

 マグカップを落としそうになる手を何とか押しとどめて、テーブルにカップを置いた。そしてゆっくりと受け取った封筒を裏返した。

「っ……なんでっ……。」

 はらりと封筒は怜花の手から離れて落ちていく。

(どうして今なの?私が居場所を見つけたら、いつもこれ…。)

 怜花の視界がみるみる歪んでいく。息ができない。目が見えない。瞬きをしても、何も見えなかった。

* * *


「怜花、大丈……。」

 律は息を飲んだ。一瞬で怜花の表情が歪み、その大きな瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていったからだった。
 ごしごしと目をこすっても、そんなことはまるで意味がないと言わんばかりに涙が溢れていく怜花を前に、すぐ近くに立っていた律はすぐさま目をこする怜花の手を取った。そして怜花が座るソファのすぐ横に座り、怜花の背をさすった。
 手紙は封も開けられず、落ちたままだ。

「はーい、とりあえず息しよ、怜花。息が止まっちゃってるよ、変なひくってやつになってる。」

 一度頷いた怜花だったが、呼吸が整う気配はなかった。怜花の泣いたところは今までに見たことがあったが、こんな風に泣きじゃくる怜花は初めて見る。静かにただ涙を落とす怜花のことも見ていられなかったのに、こんな風に苦しそうな怜花のことを抱きしめずに見つめ続けなくてはならないのは律にとっても苦しかった。

(……抱きしめたい、けど、そんなことしたら怜花の様子が見えないし、苦しくさせちゃう。……なんだこれ、見てんのがしんどすぎる。)

 怜花の方が何百倍も苦しいのはわかっていた。それでも今この場面で『抱きしめる』ことよりも先にしなければならないことがあるのは明白だった。
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