年下ワンコと完璧上司に溺愛されて困っています。
 プシューッ。
 缶ビールを開けて、ぐいっとひと口。

「ぷはぁーーー!」

 冷えた炭酸が喉を駆け抜け、やっと一息つけた気がした。
「ああ、今日はハードだったなあ……。こんな日は飲まなきゃやってられない」

 テーブルの上には、冷蔵庫にあった残り物でサッと作ったおつまみ。
 それをつまみながら、今日一日の出来事が頭をぐるぐると巡る。

 夕方までは市場調査。
 来週から赴任する高峰部長の話。
 そのあと……(あおい)とスーツ男の、あの衝撃的なキスシーンを目撃。
 会社に戻って泣き崩れたら、謎の清掃員さんと遭遇。

 ミーティングはなんとかこなした。
 資料の一部が更新前のままだったけど、すぐリカバーして報告できたし。
 その後は後輩のフォローもして……。

「……我ながら、よくやったよ。わたし」

 ビールを飲み干しながら、思わず自分をねぎらう。
 でも一番の衝撃はやっぱり碧だ。

 思い出すと、また胸の奥から怒りが込み上げてくる。
(怒り?嫉妬? どっちにしろ、あんなの許せるわけないでしょ)
(別の男とキスしてる最中に、こっち見て手を振るとか……何考えてんのよ!)
(しかも最初は強引にキスされてる?って思ったけど……結局受け入れてたじゃん……)

「はあぁ~~~……」
 大きなため息をついた瞬間、スマホが震えてビクッとした。

 LINEの通知。差出人は——碧。

『今からおねーさんの家、行っていい?』

「はあああああ!? どの面下げて!? こんな時間に!? ……って、あ、今日は月曜。バーは定休日か」
 いやいやいや! あのスーツ男に抱かれてたんじゃないの!?

 動揺して放置していると、追い打ちをかけるように「ウルウル目の子犬スタンプ」が数回。

「クッ……! あざとい……!!」

 それでも既読スルー。
 次に送られてきたのは「首をかしげる?マーク付きのワンコスタンプ」。

「ええい、うるさいっ!」

 私は「だが断る!」スタンプを即座に返した。
 その瞬間から、碧からの通知はぴたりと止まった。

 スマホを伏せてテーブルに置き、残りのビールを一気に飲み干す。
 そのまま布団に潜り込むと、どっと疲れが押し寄せてくる。

(……もしかして、このまま直接家に来たりしないよね……)

 少しだけ心配になったけれど——結局、碧が来ることはなかった。
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