ふたりはミラクルエンターテイナー!
第二章

1.

「ねっ、早くあたしも連れてってよ。さもないと、この布あたしがもらっちゃうんだから」
 えぇ~っ!? でも、でも、モエさんって……。
「姫さま! モエ姫さま! どうなさいましたか?」
 バタバタとあわただしい足音が聞こえてきました。
「いけない、ばあやだわ。ほら、早く乗せてよ!」
 モエは、ドレスのすそがしわくちゃになるのもかまわずに、窓からひょいっとネルのほうきに飛びうつりました。
「わわっ!」
 とつぜんのことにネルはびっくりぎょうてん。
 いつもは大とくいなはずの空飛ぶ魔法がうまく使えません。
 まるで見えない指でつままれたみたいにピタッと空中で止まっています。
「どうしたの、あなた魔女なんでしょ?」
 首をかしげるモエに、ネルは思わずムカッ。
「モエさんこそ、なんなの? アイドルだと思ったら、じつはこの国のプリンセスでおまけにいっしょに連れて行けだなんて」
 けれども、モエはニコニコとしたまま、
「だって、アウロラ王国とは別の世界に行くことがあたしの夢だったんだもん♪ こんなチャンスのがすわけにはいかないでしょ? さぁ、しゅっぱーつ♪」
 と、ネルの肩にポン! と手を置きました。
 すると、
「わーっ!」
 ネルもコントロールできないほど、ほうきのスピードが上がりはじめ、ネルたちは一気にギュギュギューンッ! と空高く舞い上がりました。
「まあ、姫さま! これはいったい!?」
「モエ姫さまが、あんな高いところにうかんでるぞ!」
 ばあやさんも、お城の兵士たちも、空を見上げてはみんな大さわぎ。
 ところが、
「きゃあ、すごい。夕日に手が届きそうよ。まるで、おっきなオレンジの実がなってるみたいね」
 モエは空を飛んでいることにはしゃいでばかり。
 おどろくお城のひとたちのことなどまるで気にしていません。
「モエさん、お願いだからおりて! このままじゃ国じゅうがパニックになっちゃう」
 ネルは心からそうたのみました。
 パンぞうも、真剣な顔つきで
「そうだぞ、オレたちは遊びにきたわけじゃねーんだ。さっきもネルが言ってたとおり、ドレスの材料を集めてんだよ。とびっきりのドレスを作るためのな」
「とびっきりのドレス?」
 モエは、にっと笑ったかと思うと、
「ねぇねぇねぇ。空飛んだままでいいから、そのお話くわしく聞かせて! ぜーんぶ教えてくれるまで、あたし、あなたたちからはなれないからね!」
 と、ネルにギュッとしがみつきました。
「えぇーっ!」
 この子、ほんとうにプリンセスなの?
 絵本に出てくるプリンセスは、みんなおしとやかなのに。
 こんなにワガママだなんて、わたし、信じられないよ~!
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