雨の日、君に恋をした
第14話 痛い辛い苦しい
アパートに帰ると暗い部屋で悠真が待っていた。
電気をつけると私の存在に気がつき彼がこちらを見た。
「ひな!‥‥‥おかえり」
にこっと笑う。それは紛れもなく私が好きな笑顔だった。
「ただいま」
私は気がつけば、悠真に抱きついていた。
ただ、彼に触れたくて。
私が見てきたものは間違っていなかったのだと、このまま彼だけを見つめていていいのだと、信じたかった。
ただ、それだけだった。
「どうしたの?」
耳元で優しい声が響いた。
「悠真。あのね――」
ずっと、伝えたかった。
あの時、悠真に支えてもらったから、待っていてもらったから、私ずっと寂しくなかったよ。
だから今度は、私が彼に伝える番なんだ。
『だいすきだよ』
その言葉は、ケータイ電話の音でかき消された。
「‥‥‥っ」
開いた瞬間、画面に表示されたのは晴人の名前。
悠真が呟く。
「誰から‥‥‥?」声は低く、鋭く響く。
ひなが口を開く前に、その怒りは爆発した。
「なんで‥‥‥なんで何も言わないんだよ!」
怒りに任せ、悠真はひなを突き飛ばした。
床に叩きつけられ、肺の空気が押し出される。
呼吸が苦しく、声が出ない。
何度も殴られた。痛くて、苦しくて。
「――もう‥‥‥やめてっ‥‥‥」
私の言葉に、悠真の手が止まった。
怒りと、悲しみと、後悔。そんな表情だった。
もう、戻れないんだ。
何かが壊れていく、そんな音がした――
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雨粒が頬を叩く。涙と混じり合って、もう何が何だかわからない。
息は荒く、足も思うように動かない。
私は気がつけばアパートを飛び出していた。
ただ必死で暗い道を駆け抜けた。
そして――崩れ落ちた。
震える指で必死に画面をタップする。
耳に当てた瞬間、「ひな?」と名前を呼ぶ晴人の声が聞こえた。
その声に背中を押されて、ようやく掠れた声が漏れた。
「……たすけて……」
その言葉は弱々しかったけれど、確かに繋がった。
悠真の怒りに満ちた視線が突き刺さる。恐怖に押し潰されそうになる。
けれど――それでも。
誰かに届いた。私の声が、光になった。
もう、どれくらい経っただろう。
何度もかかってくる悠真からの着信が怖くて、ケータイの電源も切ってしまった。
私にはもう、帰る場所なんてない。
あぁ、結局悠真を1人にしてしまったな。
あぁ、結局、私も1人だ。
目も頬も腫れて、床にぶつけた腕と腰がジリジリと痛む。唇は切れていて、雨が当たって血が滲んだ。
何が輝いた自分になりたいだ。
結局、こんな様だ。
この私が、1番大切なものを壊したんだ。
ぎゅっと目を瞑った。
その瞬間、頭上にふいに影が落ちる。
「――ひな!!」
呼ばれた名前に驚いて顔を上げると、そこには懐かしい笑顔があった。