彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
その舌打ちの数日後、秋太は自分の言動を後悔する出来事に遭遇する。
営業部がフランスの大手アパレル企業との重要な商談を進めている日だった。
約束の時間になっても、依頼していた通訳が現れない。
焦った佐藤が連絡を入れると、通訳は急な体調不良で来られないという。
相手の社長は英語をほとんど話さず、頑なにフランス語での交渉を望んでいた。
佐藤は自身の持つ語学知識を総動員してなんとか場を持たせようとするが、専門的な契約の話になると全く歯が立たない。
会議室の外で頭を抱えていた、その時だった。
「どうした、佐藤部長。随分と困っているようだな」
偶然通りかかった秋太が、中の様子を察して声をかけた。
「副社長…」
「貸しは高くつくぞ」
秋太はそう言ってニヤリと笑うと、会議室に入り、流暢なフランス語で相手に話しかけ始めた。
場の空気は和んだものの、契約の核心部分、特に法律や金融に関する細かいニュアンスになると、秋太のフランス語でも相手を完全に納得させることができない。
どうにも話が噛み合わず、再び険悪なムードが漂い始めた。
「失礼します」
その時、会議室のドアが開き、佐藤が京子を伴って入ってきた。
「申し訳ありません。我が社の顧問弁護士です。彼女を介して、再度ご説明させていただけますでしょうか」
秋太は「なぜ彼女を…」と眉をひそめたが、もはや引き下がれない状況だった。
京子は、秋太と相手の社長の間に立つと、一言二言、挨拶を交わした。その瞬間、会議室の空気が変わった。
彼女のフランス語は、ただ流暢なだけではなかった。発音、言葉の選び方、そしてフランス特有のビジネス文化を踏まえた立ち居振る舞い。そのすべてが完璧だった。秋太の言葉で渋い顔をしていた相手の社長が、みるみるうちに表情を和らげ、京子の言葉に深く頷き始めた。
まるで魔法のように、滞っていた交渉はスムーズに進み、わずか15分後、商談は望外の好条件で成立した。
会議室を出て、満足げに帰っていく取引先を見送った後、佐藤は秋太に向き直り、わざとらしいほど丁寧にお辞儀をした。
「副社長、本日はありがとうございました。副社長のフランス語も素晴らしかったですが、おかげで助かりました」
そして、ちらりと京子に視線を送り、こう付け加えた。
「鏡先生が顧問弁護士を辞めなくて、本当によかったですね」
それは、先日浴びせられた嫌味に対する、鮮やかなカウンターだった。
秋太はぐっと言葉に詰まり、悔しそうに唇を噛んだ。
京子の圧倒的な実力を見せつけられたこと。そして何より、佐藤の前で、京子の前で、中途半端で「かっこ悪い自分」をさらけ出してしまったことへの自己嫌悪が、彼の胸を締め付けた。
京子は、そんな二人の間の火花には気づかないふりをして、「では、私はこれで」と軽く一礼し、颯爽と廊下を去っていく。
その完璧な後ろ姿を見送りながら、秋太はただ立ち尽くすことしかできなかった。