彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
京子の心が、行く先を見失って揺れていた、ある週末の午後。
宗田家の広大な屋敷のインターホンが鳴った。モニターに映っていたのは、たった一人で立つ、小さな男の子の姿だった。
「…柊くん!?」
秋太は驚き、慌ててドアを開けた。
「パパに、会いに来た!」
柊は誇らしげに胸を張り、秋太を見上げる。
どうやってこの場所を知り、一人で来たのか。危うさと、それ以上に込み上げてくる愛おしさに、秋太は柊を強く抱きしめた。
「まあ、秋太。その子は…?」
物音を聞きつけた母のトワが、リビングから顔を覗かせた。そして、柊の顔を見た瞬間、息を呑んで立ち尽くす。
「…小さい頃の秋太に、そっくり…」
トワの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女はゆっくりと柊の前に膝をつき、その柔らかな頬に触れた。
「秋太は、おじいちゃんのところに養子に行ってしまって…ずっと寂しかったの。なんだか、あの頃の秋太が、帰ってきてくれたみたい…」
そう言って、トワは柊を優しく抱きしめた。祖母の温かい腕の中で、柊は安心したように微笑んでいた。
その光景を見て、秋太は決意を固めた。
この温かい家族の肖像を、決して失ってはならない。楓と、柊と、もう一度ここでやり直すのだ。
その夜、秋太は京子のマンションを訪れた。
「聞いてほしい。僕は、君と、柊と、もう一度家族になりたい。僕の生涯をかけて、二人を幸せにすると誓う」
真摯な言葉と、まっすぐな瞳。佐藤の言葉が、脳裏をよぎる。楓の心は、激しく揺さぶられた。
そこへ、部屋から出てきた柊が、楓と秋太の手をそれぞれぎゅっと握った。
「ママ、パパと、一緒に暮らしたいな」
息子の純粋な願いが、楓の最後の砦を打ち砕いた。
京子は、秋太から視線を外し、深く息を吸った。
「……わかりました」
毅然とした声が、静かな部屋に響く。
「あなたの為ではありません。柊の為に、戻るだけです」
彼女は秋太をまっすぐに見据え、7年前に交わした約束を、再び突きつけた。
「初めの約束通り。あなたとは、一切、何も関係は持ちません。それでもいいのなら」
それは、彼女に残された最後のプライドだった。
こうして、鏡京子は姿を消し、茅野楓が宗田家に戻ってきた。
広すぎる屋敷での、奇妙な同居生活。夫婦でありながら、必要最低限の言葉しか交わさない。
二人の間には、まだ7年という長くて深い川が、静かに流れていた。