罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

ふたりきり

走り出したと同時に、爽快な風が吹く。
僕がトップだ。
こういうのって、内側をとったもん勝ちだよね。
こんな乗り物に乗るのも、操縦するのも初めてだけどすごく楽しい。
曲がる時すぐ後ろに見えたのは月海くんの車。
やばい、このままじゃ追い越される!
なんて思いながらスピードを上げていく。
くねくね道に入って、どうしても難しいところに入った。
すると後ろから。
「鷹栖お先〜」
さらっと僕を抜かしていく月海くん。
その後琉偉も追いついてきて僕はヒヤヒヤしながら、スピードを落とさないように頑張って走った。
『優勝は黄色さん!おめでとうございます!!』
スピーカーから声が聞こえて、月海くんはとびきりの笑顔を見せてくれた。
優勝は月海くん。
悔しさはあるけど、この笑顔見れたしいっか。
ーーーーー
その後はお化け屋敷に入ったり、シューティングゲームをしたり…。
残るは観覧車のみとなった。
もう5時であたりは暗くなっていて、ライトアップが始まっている時間。
今は3人で観覧車の列に並んでいる。
でも、ふたりで乗ろうって月海くんと話したんだけどな。
どうやって琉偉と別々にする気だろう、と考えていると自分達の番になった。
すると、月海くんが僕の手を引っぱって、スタッフさんに「ふたりで」という。
無理やりふたりきりになった。
僕は心の中で琉偉に謝り、月海くんに続いて観覧車乗った。
ふたりというのはなんだか気まずくて、沈黙が続く。
「今日、どうだった?」
月海くんが何気なくそう聞いてくる。
「とっても楽しかったよ。ありがとう」
僕がそう言うと、月海くんは満足そうに笑った。
それから、僕に手招きをする。
「隣来て」
「えっ、うん…」
少し動揺しながらも、僕は彼の隣に座った。
さっきよりも距離が近くて、妙にドキドキする。
意識しちゃダメなのに。
「俺もすげー楽しかった。家のこととかあって普段外に出れないし、遊園地なんて何年ぶり?ってくらい。それに、鷹栖とだったし」
最後の言葉にドキッとする。
僕が特別みたいな言い方、そんなふうに言われると胸がギュッとなる。
「今日はほんと、ありがとな。あとさ、俺鷹栖に言いたいことあって」
「なに?」
僕が首をかしげると同時に、花火が上がった。
ドンッ!ドンッ!
「ずっと前から、俺は鷹栖が———」
残念ながら、月海くんの言葉は最後まで聞こえなかった。
花火の音にかき消されてしまったから。
「え?ごめん、なんて言った?」
「いや、なんでもない」
誤魔化されてしまった。
聞いておけばよかったと後悔しながら、僕は花火に見惚れていた。
「花火、きれいだね」
月海くんの言葉にうなずく。
「うん。とってもきれい」
実は花火を見るのも初めてだったから、この想いを共感できてすごく嬉しいと思った。
それからあっという間に時間が経って、閉園の時間。
帰り道、琉偉に怒られながら帰った。
「陽翔くん?」
その時、月海くんを呼ぶ女の子の声が聞こえた。
まるくて小さな顔は整っていて、普通の人じゃないって雰囲気で分かった。
淡い茶色の髪と藍色の瞳に視線がずらせない。
僕でもこの子の名前は知ってる。
黒羽莉央(くろばねりお)、世界的にも有名なモデルの子だ。
「莉央?」
胸騒ぎがした気がした。
< 16 / 17 >

この作品をシェア

pagetop