罪な僕は君と幸せになっていいだろうか

ずるいタイミング

今日から12月。
僕は白いマフラーを巻いて厚着で学校に登校している。
はあっと息を出せば白くなる。
僕は冬が好きでこの季節は上機嫌なんだけど、今年はそういうわけにはいかない。
だって…。
『莉央は俺の婚約者なんだ』
まさかあの有名なモデル黒羽莉央さんが、月海くんの婚約者だったなんて。
やっぱり落ち込んじゃうな。
「…す、たーかーす!!」
「っ…!!え、あ…月海くん…」
呼ばれていたのに全然気がつかなかった。
「どうしたんだよ、最近元気ない?」
「…ううん。ちょっと考えごと。別に元気だよ」
僕は月海くんには悟られちゃいけないと思って、誤魔化した。
僕のこの感情はバレちゃいけないから。
ーーーーー
「はぁ…」
放課後になり、いつものように生徒会の仕事をしている。
頭に浮かぶのは黒羽さんのこと。
やだな、あんまり気にしたくないのに。
「蒼唯、なんかあった?」
ふと琉偉がそんなことを聞いてきた。
僕は月海くんの時と同じように冷静に答えた。
「ううん、何にもないよ」
「嘘だろ。さっきからため息ばっかで仕事になってませんよ〜、会長」
冗談混じりの声に肩をすくめる。
まあ、幼馴染の琉偉の目は誤魔化せないよね。
このまま隠すのは無理だと判断した僕は、この気持ちを話すことにした。
「昨日からずっと黒羽さんのこと考えちゃうんだ」
「ああ、あの月海くんの婚約者の」
その言葉にズキッとする。
そんな僕の気持ちに気がついたようで、琉偉は言葉を続ける。
「どうして?」
「……僕さ、月海くんのことが好きなんだ。こんな感情抱くのは迷惑だって思うけど、どうしても諦められない僕がいて。ほんと、よくないよね」
長い沈黙。
それから、琉偉が僕に言った。
「別に迷惑じゃないんじゃない?月海くんは蒼唯といて、毎日楽しそうだし」
「うん。でもそれは友達としてだから。月海くんの黒羽さんへの視線を見ると、なんか僕に向けられるものと違うように見えてさ。それに、婚約者って言ってたし…。月海くんは黒羽さんが好きなのかもしれない」
「……じゃあ、諦めるのか?」
その質問に、言葉が詰まる。
諦めることができるのなら、どれほどに楽なことだろうか。
でも、僕にはそんなことができない。
それが本心だ。
「答えない…か」
ボソリとつぶやいた琉偉を無視して、僕は作業を続ける。
不意に、黒い陰が僕の前に落ちる。
顔をあげれば、そこには真剣な顔をした琉偉がいた。
「ずるいって分かってるけど、無理だ」
小さくつぶやいた言葉に疑問を持っていると、琉偉は僕の手をとって言った。
いつにもなく真剣な顔が、僕の鼓動を速くさせた。
「月海くんなんて好きになるなよ。俺を見て」
ちゅっと僕の左手薬指にキスを落とす。
それから、ふわりと微笑んで。
「ずっと前から好きだった。蒼唯、俺と付き合って」
僕は何も言えず固まった。
時計のカチカチという音だけが響く。
長い沈黙の後、我にかえった僕は視線をそらす。
その後琉偉とは一言もしゃべらず、生徒会の業務を終わらせて帰ったのだった。
< 17 / 17 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

大切なもの失い、宝物を見つけた

総文字数/8,185

青春・友情1ページ

表紙を見る
裏社会の私と表社会の貴方との境界線

総文字数/120,121

恋愛(キケン・ダーク)48ページ

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop