推しのマネージャー(※ほんとは護衛)になりました。 ~アイドルたちの溺愛がとまりません!~
「え、何あれ! 木の枝が伸びてるんだけど!」
「演出かなあ? すごーい!」
耳をすませば、客席の前の方からそんな声が聞こえてきた。
どうやら、陰陽術の発動を、演出だと思わせる作戦は成功したみたいだ。
そのまま悠月の陰陽術で、黒い影をステージ裏まで引っ張ってもらう。
黒い影が完全に客席からは見えなくなったところで、わたしは相棒である式神の名前を呼んだ。
「コンブ、お願い」
「あぁ、任せておけ」
飛び出してきたコンブは、手のひらサイズからぐんぐん大きくなり、一メートル以上の大きさになった。
そして、そのまま黒い影に飛びかかる。
黒い影は断末魔のような叫び声を上げているけど、ステージ裏には防音結界をはっているから、meteor(メテオ)の三人の歌声を邪魔してしまうという心配もないはずだ。
「あなたは、セイレーンの呪いによって生み出されたものだよね?」
コンブが影を抑えつけてくれている間に、会話ができるかはわからないけど、そう尋ねてみた。
「……ワタシ、ハ、求メル。チカラ、ヲ……」
人魚姫の姿をした黒い影は、唸るような低い声でそれだけ言うと、その場からスッと消えてしまった。
「力を求めるって、一体どういう意味なんだろう……?」
隣にいる悠月を見上げれば、考え込むような顔で腕を組んでいる。
「……分からない。けど、分かったこともある。セイレーンの呪いが、歌声に惹かれて発動するってことだ」
「うん、そうだよね」
ステージの方を見れば、最後の曲を歌いきった星穏さんたちが、観客席に笑顔で手を振っている姿が見えた。