スピィとクカーとまほうのステッキ
スピィとクカー

まほうのステッキ

 ここは、みんながねむっている間だけ行くことができる、ふしぎなふしぎなネムリー王国。いろいろな人や動物の夢と、つながっています。
 スピィは、そこのお姫さま。しろくてヒツジみたいにふわふわなかみに、キラキラなあおい目がとくちょうです。
 スピィには、なかよしの友だちがいます。クカーといって、長いあかがみがキレイな女の子です。

 その日もスピィとクカーは、いつものように、お城のスピィの部屋で、いっしょに遊んでいました。でも、おにごっこも、トランプも、あきてしまったのです。
「ねぇ、ワクワクすることがしたいの!」
 スピィは、楽しいことがだいすき。キラキラした目で、クカーを見つめます。
 クカーは、ちょっと考えてから、答えます。
「今日も旅人さんたちに、会いたい?」
「うん!」
 旅人とは、夢でネムリー王国へやってきた人たちのことです。
 ここでくらす人とちがって、旅人は夢からさめたら、いなくなってしまいます。でも、楽しいお話や、おもしろい遊びを教えてもらえるのです。
「じゃあ、みんなには、シーッだよ?」
「シーッ!」
 クカーが人さし指を口にあてると、スピィもマネをします。
 ほんとうは、スピィはお城から外へ出てはいけません。王さまにおこられてしまいます。
 でも、スピィは、のんきにわらいます。
「ワクワクのためだから、しかたないよね!」
 そういうと、おやつのクッキーをバスケットにたっぷりつめこんで、スピィはかくし通路にとびこみました。

 かくし通路は、暗い地下の道をとおります。うっかりすると、まい子になってしまいます。だから、目印をわすれてはいけません。
 ハートのかたちのレンガ、きれいなあおい石、地面にスピィがおえかきしたあかい花。この順番をしっかりまもって歩くと、出口が見えてきます。
 出口には、まほうがかかっていて、通るたびに、ちがう場所へテレポートします。

「今日はどこ……ええっ!」
 そこはなんと、お城の上! スピィとクカーは、空からまっさかさまです。
「きゃああああ!」
 落ちていく二人の体の下に、にじのすべり台ができていきます。でも、スピードは速いまま。ケラケラわらうスピィと反対に、クカーは泣きそうです。
「わあ、楽しい!」
「下ろして! 下ろして!」
 スピィとクカーはだきあったまま、ぜんぜんちがうことをさけびます。
 二人は七色のにじを、あかからオレンジ、オレンジからきいろ、きいろからみどり、みどりからあお、あおからあいいろ、あいいろからむらさきへと、すべっていきます。
 やがて、にじのゴールにたどりつきました。

 そこは、国のはずれの森の中。目の前には、日の光を浴びてキラキラとかがやく、湖がありました。
「ちょっと、休けいしよう」
 すわりこんだクカーに、スピィはニコニコと楽しそうに、話しかけます。
「この前、旅人さんが教えてくれた、ジェットコースターみたいだったね」
「あんなこわいの、もう乗れない……」
「クカーは、こわがりだね」
 スピィはバスケットからクッキーをとりだすと、クカーの口に放りこみます。
「どう?」
「うん、おいしい」
 クカーは、うっとりあじわいます。
「食いしんぼうさん、ほら、もうこわくないでしょう?」
 やさしい声でたずねるスピィに、クカーは首をブンブンふります。
「ううん、こわいものはこわい。もう乗らない!」
「えー! そんなあ」
 ざんねんそうなスピィをよそに、クカーは辺りを見まわします。
 湖には、魚が泳いでいます。丸っこい魚や、ギザギザの魚、四角っぽい魚が、それぞれなんびきいるでしょうか。とにかく、たくさんいます。
「ここ、はじめて」
「うん、ワクワクするね!」
 えがおのスピィに、クカーはあきれがおです。
「スピィは、不安にならないの?」
「……不安って?」
 すこしかんがえて、スピィは首をかしげます。
「しんぱいになって、心がキューッとすることだよ」
「ならないよ! だって、クカーがいっしょだもん!」
 スピィの言葉に、クカーが照れてうつむいたときでした。
「よいお友だちをもったねえ」
「わあっ! だれ!?」
 いつの間にか、しらないおじいさんが横に立っていました。クカーは、とってもびっくりしました。
「名乗るほどのものでもない、ただの通りすがりのおじいさんだよ」
「お名前、すっごく長い!」
「ちがうよ。それは、名前じゃない。むしろ、名前を教えてくれない、あやしい人だよ」
 おじさんに近づこうとするスピィのドレスを、クカーが引っぱります。
「ハハ、おじさんはあやしくないといいたいところだけど、おぼえていないんだ」
 おじさんは、日の光を浴びてかがやく、ツルツルの頭をなでました。
 クカーが聞きかえします。
「おぼえていない?」
「そう。ここがどこなのか、自分がだれなのか、まったく」
「それは、たいへん」
 こまったクカーの横で、スピィはきょうみしんしんです。
「おじさんは、ねぼすけさんだね! パパがいっていたよ? 旅人さんは、ねぼけてやってくるから、いろいろまちがえちゃうって」
 おじさんは空を見ながら、考えます。
「そうか。じゃあ、ワシは旅人さんなんだね。おじさんは、どこへ行ったらいいと思う?」
「じゃあ、スピィといっしょに、この森を探検しよう!」
 スピィの言葉に、クカーがあわてます。
「ダメ! ここでじっとして、夢からさめるのを待った方がいいよ」
「そんなの、つまんない! せっかく来たんだから、遊ばないと!」
 スピィがくちびるをつきだして、ぶーぶーもんくをいいます。
 クカーも負けません。
「スピィは、いつもそう! ダメなことばっかり、やりたがる!」
 ぶくぶくぶくーー。
「なんの音?」
 二人がケンカに夢中になっているうちに、湖からたくさんのアワが出ていました。
「なに、あれ?」
 スピィが近づこうとします。
 クカーはあわてて、それを止めます。
「待って、スピィ! あぶないかも!」
「だいじょうぶだよお、ただのアワーー」
 水をのぞきこもうとした、スピィのかおのすこし先を、ギザギザの魚がとんでいきました。
「うええ、今のなに〜?」
 スピィはおどろいて、しりもちをついてしまいました。
「スピィ、スピィ、死んじゃイヤ!」
 スピィを湖からかばうように、クカーがだきつきます。
「重いよ、クカー。だいじょうぶだから」
 クカーを体から引きはがしたスピィは、かのじょのかおを見て、首をかしげます。
「あれ、泣いちゃったの? クカーはこわくなかったのに、どうして?」
「当たり前だよ! スピィのことが、しんぱいなんだから!」
 おじさんが見かねて、教えてくれました。
「クカーちゃんは、スピィちゃんのことがとっても大切だということだよ」
 おじさんの言葉で、スピィはやっと気づきました。
「そっか、スピィの分も、クカーが不安を代わってくれたんだね」
 スピィはえがおで、クカーの頭をポンポンなでます。
「ありがとう、クカー」
「うえ〜ん」
 クカーは、さらに泣いてしまいました。
「本当に泣き虫なんだから」
 スピィはあきれた風をよそおいながら、うれしそうにわらいました。

 すこしして、クカーが泣きやんだところで、話しあいです。
「スピィは、おじさんのお話が聞きたい! それと、遊びたい!」
「もう、そればっかりなんだから……」
「だから、おじさんの思い出をとりもどそう!」
 スピィの言葉に、おじさんがかおをかしげます。
「でも、どうやって?」
「旅人さんは、スピィたちには使えない、あるまほうが使えるの! ね、クカー!」
 とつぜん話をふられて、クカーはしどろもどろになりながら、説明します。
「た、旅人さんたちは、きおくの中のものを、まほうで出せるの。なにか、思い出せるものはありませんか?」
「思い出せるものか……」
 あごに手を当てながら、おじさんはうーんと、うなります。
「リンゴ、ゴリラ、ラッパ、パイナップル、ルビー……」
 おじさんの言葉に合わせて、空中からポンポンと実物がとび出します。ゴリラがリンゴとパイナップルを食べ、ラッパをふいています。
「それじゃ、しりとりだよ!」
 クカーはあわてますが、スピィはおおよろこび。
「あはは、おもしろい!」
 スピィがわらい転げている間にも、おじさんのしりとりはつづきます。
「……油絵、絵の具ーー!」
 急に、おじさんの声に力が入ります。それといっしょに、出てくるものの量もふえてきました。
 スピィも気になったらしく、まじまじと見ています。
「キャンバス、スケッチブック、クレヨン!」
 さけんだおじさんの声が止まります。
「あ、『ん』がついちゃった。おじさんの負け!」
「スピィ、勝負じゃないよ」
 ゴゴゴゴゴーー。
「なに? この音ーー」
 どこかから、不気味な音が聞こえてきます。
 空を見上げたスピィが、さけびます。
「クレヨンだあ!!」
 空にあなが開き、大量のクレヨンが降ってきました。
「きゃー!」
 二人もおじさんも、飲みこまれてしまいました。

「ううん……」
 しばらくして、三人は森の中で目をさましました。
 ポケットやくつの中には、クレヨンがつまっていました。
「わあ、クレヨンがいっぱい……」
 そのまますてることもできないので、バスケットにつめこみます。
 そして、クカーは、あたりを見まわしました。
「ここは、どこ……?」
 先ほどまでいた湖のほとりとくらべると、ずいぶん暗くて不気味です。
「オバケでも出てきそう……」
 クカーが不安そうな声を出します。
「そう? こんなぼうけん、ワクワクするよ!」
 スピィは、あいかわらず楽しそうです。
「でも、この森、なにか知っているような……。なんだっけ?」
「わたしに聞かれても、わからないよ。なんで、スピィまで思い出せないの……」
 クカーは森におびえながらも、おじさんを見ます。
「思い出すといえば、おじさんはなにか思い出したんですか?」
 おじさんがうなずきます。
「ああ。おじさんは、絵をかくことが好きだった。この森も、ぜひかきたいなあ」
 そういうと、キャンバスや絵の具、ふでなどがポンと出てきました。そのまま、おじさんは絵をかきはじめます。
「え? ここでかくの!?」
 おじさんの絵は、上手でした。まるで写真のように、キレイに森をえがいていきます。
「あ! 思い出した!」
 ふいに、スピィが大きな声を出しました。
「お母さまに、暗い森に近づいてはダメと、いわれていたんだった」
「え? もう森の中にいるのに?」
 アハハ、キャハハハ、ゲラゲラゲラーー。
 とつぜん、わらい声がひびきました。
「なに!?」
 クカーのかおが、あおざめます。
「この森ねー、出るんだよ」
 スピィが、のんきな声でいいます。
 クカーが、ゴクリとつばを飲みこみます。
「な、なにが?」
「悪夢」
 そのとき、森のおくから、くろいカゲのようなものがたくさん集まってきました。手には、やりや刀を持っています。
「ケケケケケ!」
「きゃあ、オバケ!」
「にげろ!」
 おじさんの声で、三人は走りだしました。
 しかし、カゲの足も速いです。しかも、スピィたちが走っている横からも別のカゲがとびだして来ます。カゲをよけながら、三人は走ります。
「はじめて見た! アレが悪夢だよ!」
 スピィは、どこかはしゃいでいます。
「なにアレ! なにアレ!?」
 クカーの問いに、スピィががんばって思い出します。
「うーん……なんか、旅人さんをおそうんだって」
「ワシをおそうんか!?」
「そうそう。つかまったら、夢を悪夢にされちゃうんだって」
「こわいヤツじゃん! でも、わたしたちがつかまったら、どうなるの?」
 スピィは、クカーを安心させようとわらいかけます。
「だいじょうぶだよ。なかまになって、悪夢になるだけだから!」
「もっとこわいヤツだよ!」
 クカーは、今にも泣きだしそうです。
「だから、王ひさまが近づいちゃダメって、いったんだよ!」
「でも、もうおそいから、しょうがないよ」
「スピィのバカー!」
 ケンカしそうになっていると、おじさんがいいました。
「あのオバケに、ニガテなものはないのかい?」
 スピィは、考えこみます。
「たしか、太陽がキライらしいよ! 明るいものがダメだって」
「ドラキュラみたいだね」
「ドラキュラ?」
 おじさんの言葉に、スピィがふしぎそうなかおをします。
「太陽がニガテで、夜に活動して、人間の血をすうんだ。本当にいるかわからない、生きものだよ。おじさんの世界には、そういう伝説があるんだ」
「ハアハア……なにそれ、こわい……」
 クカーのそのかおが苦しそうです。
「だいじょうぶ? クカー」
「もう、げんかい……」
 クカーの足が止まってしまいます。でも、悪夢は近くまできています。
「森を出られれば、追ってこないだろうけど、出口はまだ見えないね……」
 おじさんも、つかれているようです。
「がんばって、二人とも!」
 スピィがはげましますが、スピードはおそくなっています。
「おじさん、なにかまほうで出せない?」
 スピィの言葉に、おじさんがいっしょうけんめい考えます。
「そうだ! アレはどうだろう。孫がよく見ていたテレビの……」
 そこまでいったとき、カゲがすぐそこまで、せまってきました。くろい手をのばして、つかまえようとしてきます。
「おじさん、早く!」
 スピィの言葉に後おしされ、おじさんがさけびます。
「まほうのステッキ!」
 ポンと音がして、スピィの目の前にみすいろのステッキと、クカーの目の前にピンクいろのステッキが出ました。リボンがついた、かわいらしいまほうのつえです。
「なに、コレ!?」
 うろたえるクカーをよそに、スピィは目をかがやかせて、ステッキをつかみます。すると、キラキラなかわいいドレスとメイクのまほう少女にへんしんしました。
「えい!」
 スピィがくろいカゲに向かってステッキをふると、光が降りそそぎました。カゲはひめいをあげて、にげまどいます。
「ほら、クカーも!」
 スピィにうながされ、クカーもステッキをつかむと、まほう少女にへんしん。ステッキをふってみると、バスケットの中のクレヨンがとびだし、走ってカゲを追いかけはじめます。
「よーし!」
 スピィとクカーは手をつなぎ、同時にステッキをふりあげます。
「クレヨン、アターック!」
 クレヨンが光をまとい、カゲにとつげきします。
「ヘンな名前……」
 クカーははずかしくて、かおがあかくなりました。たいして、スピィはじまん気なかおです。
 カゲはたまらず、全員にげていきました。
「すごい、すごい!」
「悪夢をたいじしちゃった!」
 二人とおじさんは、おどろきつつも、よろこびました。
「このステッキ、すごいねえ!」
「おじさんの世界の、女の子たちのあこがれのアイテムさ。気に入ったなら、君たちにプレゼントしよう」
「わーい!」
 スピィはとびはねて、おおよろこび。クカーも、内心うれしそうです。

 そこからすこし歩くと、森の出口にたどり着きました。すると、おじさんの体が光につつまれます。
 びっくりするおじさんに、クカーがいいます。
「おじさんの体が目をさますから、もとの世界にもどるんだよ」
「そうか、もうおわかれか」
 さみしそうなおじさんに、スピィはクレヨンをわたします。
「コレ、あげる。スピィたちのこと、わすれないで……う、うわ〜ん」
 とうとう、スピィは泣きだしてしまいました。クカーもスピィをなぐさめながら、なみだ目です。
「バイバイ、おじさん」
「ああ。またね」
 そういうと、おじさんは消えていきました。
 見送った二人は、心にあながあいたみたいに、さみしくなってしまいました。
「行こう、スピィ。もうお城にもどらないと」
 スピィはうなずき、とぼとぼとお城に帰っていきました。

 その後、二人は王さまたちにいっぱいおこられました。でも、旅人をたすけたことは、ほめてもらえました。
 まほうのステッキのことは、二人だけのヒミツ。クレヨンは消えたのに、まほうのステッキだけは、おじさんが帰ったあとも、なぜか消えませんでした。
「楽しかったね、クカー」
「そうだね、スピィ」

 その夜、二人は夢を見ました。
 おじさんが、クレヨンを大切にながめています。小さい女の子が、たずねます。
「それ、なあに?」
「まほうのクレヨンだよ。悪いヤツから、まもってくれるんだ」
「いいなあ、ほしい!」
 おじさんはすこし考えたあと、首をふります。
「大切なものなんだ。友だちとの、友じょうのあかしだよ」
 がっかりしている女の子に、おじさんがいいます。
「今度、いっしょに友だちに会いにいこう。きっと、お前ともなかよくなってくれる」
「うん!」
 女の子が、わらいます。
 スピィとクカーも、しあわせな気持ちになりました。
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