反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 小春は秋の胸に顔を埋めたまま、かすれた声で呟いた。
「……私、秋くんの気持ち、振り回してばっかり。酷いよね」

 秋は少しだけ目を細め、優しく首を横に振る。
「いいよ。こういう時くらい必要としてよ」

 小春が顔を上げると、秋は穏やかな笑みを浮かべていた。
「僕は、小春が呼べばいつだって飛んでいくよ。どんなときでも」

 その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……そんなこと言われたら、泣けちゃうよ」

 涙声で笑う小春の頬に、秋はそっと手を伸ばして親指で涙を拭った。
「泣いていいよ。泣けるときは、ちゃんと泣いたほうがいい」

 小春はこくりと頷き、もう一度秋の胸に顔をうずめた。
 秋の心臓の鼓動が、静かな夜の中で確かに響いている。
 その音が、不思議と安心をくれた。

 小春は秋の胸に顔をうずめたまま、静かに深呼吸する。

「……でも、できれば、もう泣かせたくないな」
 秋の声は低く、けれど優しく響いた。小春の髪をそっと撫でる手の温もりに、胸がじんわり熱くなる。

 小春は顔を少し上げ、涙で濡れた頬を拭いながら、かすかに笑う。
「……うん、ありがとう」

 夜風が吹き抜ける公園のベンチ。
 桜の花びらがひらひらと舞い、二人の間を静かに漂う。
 秋の腕の中にいるだけで、胸の奥のもやもやが少しずつ溶けていくようだった。

 小春はもう一度深く息を吸い込み、秋の胸に軽く頭を預ける。

 今だけは、嫌なことも全部忘れて、夏樹のことすら忘れて――ただ、秋の温もりに身を委ねていたいと思った。
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