反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 そのやり取りを聞いていた秋が、にこっと笑った。

「じゃあ、僕が教えるよ」

 その言葉に、夏樹の眉はピクリと動いた。
「勝手にしろよ」
 ムスッとした表情で、そう言って夏樹は部屋を出て行ってしまった。

「ーーなつくん!」
夏樹を追いかけようとする小春の腕を、秋が掴んだ。

「こういうときの男の子は、ほっといた方がいいよ」
 諭すような優しい声に、私は頷き、座るしかなかった。

 秋くんに教えてもらいながら、少しずつ数学が分かってくる。その明るくてまっすぐな笑顔に、胸の奥がふんわり温かくなる。

 でも、教室の後ろから視線を感じて振り向くと、夏樹が立っていた。無言で、でも肩にわずかな力が入り、全身から緊張感が漂っている。

「……帰るぞ」

 ぶっきらぼうな声に、思わず息が止まる。
 手を伸ばして、私の手をそっと掴んだ。
 その手は思ったより温かくて、指先までじんわり伝わってくる。

「え……? まだ終わってないよ?」

「関係ねぇ」

 そのまま私を立たせ、夏樹は教室を後にする。強引で、でも――確かに私だけを見ていた。

 廊下に出ると、周りのざわめきが遠くなるように静まり返った気がした。夏樹は無言で歩き、私は自然と後ろをついて行く。手を握られたまま、心臓が胸の中で跳ねる。

 やがて夏樹が小さくつぶやいた。
「……あいつに、そんな顔すんな」

「え?」

「……お前が笑ってんの、気に食わねぇんだよ」

 言葉とは裏腹に、その手は離されることなく、ぎゅっと力がこもる。
 顔が熱くなって、胸の奥までじんわり締めつけられるようだった。

 さっきまでは隣に、楽しそうに笑う秋くんがいた。
――それでも、私の心は確かに、夏樹に釘付けだった。
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