反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
 教室を出ると、校舎の廊下は薄暗く、放課後の静けさが広がっていた。
 私の後ろから夏樹の足音がついてくる。
 いつもより少し早く、重く、胸に響く。

「……なつくん」
 声をかけようか迷っていたけれど、自然と口が動いた。

「さっきは、ありがとう」

 返事はなかった。
 でも、私の肩にそっと近づく気配。
 夏樹は何も言わず、私の隣を歩き始めた。

 胸の奥がじんわり熱くなる。
 ぶっきらぼうな態度も、無言のまま一緒に歩いてくれることも――全部が、いつもよりずっと優しく感じられた。

 廊下の角を曲がると、少しだけ夏樹が歩幅を合わせる。
 その距離は、普段よりほんの少し近くて、私の心臓は跳ねそうになる。

「……小春」
 低く呼ばれ、思わず夏樹の方を見る。

 眉を少しひそめているけれど、その瞳はまっすぐ私を捉えていた。

「文化祭、楽しみだな」
 そのまま私をチラリと見て、続ける。

「一緒に回るか?」

 心臓がぎゅっとなる。
 無言で歩いていた時とは違う――夏樹からの、初めての“誘い”。
 普段のツンツンした態度と、この少しだけ見せる優しさの差に、胸が熱くなる。

「うん」
 すぐに、自然に口から出た答え。
 それが答えだった。

 夏樹は少しだけ目を細め、口元だけがわずかに緩む。
 ぶっきらぼうな声で、でもどこか満足げに――

「……しょうがねーな」

 その一言に、胸が熱くなる。
 廊下の空気まで、二人だけのものになった気がした。
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