もしも、あっちの部活を選んだら?
試合がもうすぐ始まる。
体が勝手に動き出し、軽いランニングは済ませた。
コートに向かうとちょうど前の試合が終わったところだった。
一つの試合の終わりは次の試合の始まりの合図だ。
コートの中に入り、自分のラケットを取り出す。
中学校に入って新しく買ってもらったメタルピンクのラケット。
このラケットと一緒に練習を乗り越えてきた。
これが中学に入って初めての試合。
うー、緊張感がマックスだよー。
コートに立つだけで足が震える。
コウも市川さんも極度の緊張と戦ってきたんだ。
敵は目の前にいる相手だけじゃない。緊張する自分も、だ。
じゃんけんの結果、最初のサーブ権は相手選手だ。
圧倒的に不利な状況。でも私なら大丈夫。
私は初心者じゃない、経験者だ。その差を見せつけるんだ。
試合が始まった。すると周りの雑音がスッと消え、視点が相手のボールに向く。
集中、集中。
相手のボールを打ち返す。私がすべきことはそれだけだ。
タンって音とともにボールが私に向かって飛んできた。
白線の内側でワンバウンドする。スピードも角度も難しくない。
落ち着け、私。いつも通りに打てばちゃんと返せる。
ボールを打ち返す。まずい、思わず力んでしまった。
それでもボールは相手コートの内側に入る。
よし、大丈夫。ラリーは続いている。次に備えないと。
相手の選手も落ち着いて返してくる。速度は早くない。きっと初心者だ。
勝機はある。まずは早めに一ポイント取りたいところ。
まるで地面に足がくっついたみたいに足がすくんで思うように動かない。
もっと速く動ければボレーで返せそうなのに。
相手のボールを打ち返すだけ。このままじゃずっと同じようなラリーが続くばかり。
一ポイントも決まらないまま、ラリーばかりがずっと続く。
このままラリーが続いたまま試合時間が終わっちゃったりして……。
なんてことを考えていると、一瞬、相手のボールを見失ってしまった。
反応が少し遅れる。まずい、この距離じゃボールに間に合わない……。
「フィフティーン、ラブ」
しまった。相手に一ポイント取られてしまった。
もー、今くらいのボールいつもなら絶対返せてたのに。
でもまだ相手は一ポイント。これくらい、まだ何とでもなる。
そう思っていたんだけど。
気がつけばフォーティー、フィフティーンと追い込まれてしまった。
まずい、あと一回ポイントを取られたらこのマッチを取られてしまう。
デュースに持っていくためにもあと二回連続でポイントを取らないと。
普段はしないような凡ミスを連発して相手にポイントを取られてしまった。
こんなの私の本気じゃない。こうなったら、私の本気を見せてやる。
相手はまた平凡なサーブを打ってくる。
ボールを見つめ、冷静に返す。
慌てることはない。ラリーを続けていればきっとチャンスはくる。
そこを狙えばポイントが取れる。
何度目かのラリーで相手がゆるいボールを返してきた。
よし、チャンスだ。ここを攻めるしかない。
思い切って全力疾走で前に出る。
そしてボールがバウンドする前に私は思い切りボレーを叩き込んだ。
勢いよくボールが飛んでいき、相手コートで二回、バウンドをした。
「フォーティー、サーティー」
驚いた相手はその場から動くこともできていない。
私の強烈なボレーにびっくりしたに違いない。
コートの外からざわざわとした声が聞こえてきた。
一年生の中でさっきみたいなショットを打てる人は多くないはずだ。
よし、この調子で次もポイントを取れればデュースに持っていける。
そう思ってたんだけど……。
次もボレーを狙い、コートの外側に飛び出してしまった。
チャンスを狙えばリスクも付きまとう。テニスではよくあることだ。
一セット目は私の負け。
ブレイクはできなかったけど、これで試合に負けたわけじゃない。
ゲームは三セットマッチ。次のサーブゲームで一セット取り、その後ブレイクを決めれば私の勝ちだ。
今度は私のサーブだ。ボールを高く上げ、思い切りラケットに叩きつける。
サーブの速度は相手よりも私の方が早い。
相手も何とか私のサーブを返してくる。
けど主導権は私のものだ。攻めるようにラリーを続けて追い込んでやる。
相手の選手が基本に忠実にラリーを返してくる。
難しいボールではない。だけどフラストレーションがどんどん溜まっていく。
そろそろポイントを取りたい。
よし、次は勝負に出るぞ。
また相手は私のボールをぼんやりと打ち返す。
ここで思い切りボレーを決めてやる!
そう思ってコートの前面に向かう。よし、今だ。
バンってラケットがボールを弾く強い音が聞こえる。
だけどボールは勢い余って相手のコートの外側まで飛んで行ってしまった。
「ラブ、フィフティーン」
嘘、相手に最初のポイントを取られてしまった。
相手選手が大きく息を吐いている。疲れているのはお互い同じだ。
また私のミスで失点してしまった。実力だったら負けてないのに。
じんわりとおでこから汗が流れる。
まだ試合が終わったわけじゃない。サーブを打つ私の優位には変わりない。
ここから連続してポイントをゲットだ。
そう勢い込んだ。それなのに。
今度は相手の裏をかこうとバックハンドをしてミスをしてしまった。
ポイントを取り返したものの、今度はサーブミスでポイントを取られた。
ゆっくりと相手にポイントを追い詰められていく。
なんで? 私の方がテニスも上手いし、テクニックも上のはずだ。
もし、また私のミスでポイントを取られてしまったら。
二セット取られてしまったら一気に追い込まれてしまう。
そうなれば試合に勝つのはほとんど絶望的だ。
このセットだけは何としてでも取らないといけないのに。
唾をゴクリと飲み込んだ。
ボールを持つ手が震える。
もしさっきみたいにサーブが失敗したら。
もしまたボレーやバックハンドが失敗したら。
失敗することばかり頭に浮かんでしまう。
私の方がテニスが上手いはずなのに!
サーブのスピードがゆっくりになってしまう。
それでも確実に相手のコートの中にボールは落ちた。
落ち着け、落ち着け。
そう心の中で何度も言い聞かす。
相手のボールを返す。そうすればラリーが続く。
ラリーが続けばきっとチャンスは巡ってくる。
けど、あと一回ミスすればポイントを取られてしまう。
そう思うとチャンスに見えるところでもボレーを打つのを躊躇ってしまう。
さっきまでの私ならボレーを狙ってたはずなのに。
体中から嫌な汗が出ているのがわかる。
じめじめとして気持ち悪い。手汗でラケットが滑り落ちそうだ。
このままラリーを続けて、本当に勝てるのだろうか……。
まずい、また余計なことを考えて反応が遅れてしまった。
ボールがこっちのコートに向かって飛んでくる。
難しいコースじゃない。きっちり返せる。
……いや、この位置ならスマッシュを狙えるかもしれない。
これはチャンスだ。飛び込んできたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
そう思って足を踏み込んだその時。
思うように足に力が入らない。
ふらりと揺れると、踊るようにコートの上に倒れ込んでしまった。
「ゲームセット」
ブレイクされてしまった。
このセットも私の負けだ。
これで相手と私は二対ゼロ。そして次は相手のサーブ。
この試合、もう無理だ……。
足がジンジンと痛む。
相手がサーブのフォームを構える。
私はもう、真っ直ぐ立つだけで精一杯だった。
体が勝手に動き出し、軽いランニングは済ませた。
コートに向かうとちょうど前の試合が終わったところだった。
一つの試合の終わりは次の試合の始まりの合図だ。
コートの中に入り、自分のラケットを取り出す。
中学校に入って新しく買ってもらったメタルピンクのラケット。
このラケットと一緒に練習を乗り越えてきた。
これが中学に入って初めての試合。
うー、緊張感がマックスだよー。
コートに立つだけで足が震える。
コウも市川さんも極度の緊張と戦ってきたんだ。
敵は目の前にいる相手だけじゃない。緊張する自分も、だ。
じゃんけんの結果、最初のサーブ権は相手選手だ。
圧倒的に不利な状況。でも私なら大丈夫。
私は初心者じゃない、経験者だ。その差を見せつけるんだ。
試合が始まった。すると周りの雑音がスッと消え、視点が相手のボールに向く。
集中、集中。
相手のボールを打ち返す。私がすべきことはそれだけだ。
タンって音とともにボールが私に向かって飛んできた。
白線の内側でワンバウンドする。スピードも角度も難しくない。
落ち着け、私。いつも通りに打てばちゃんと返せる。
ボールを打ち返す。まずい、思わず力んでしまった。
それでもボールは相手コートの内側に入る。
よし、大丈夫。ラリーは続いている。次に備えないと。
相手の選手も落ち着いて返してくる。速度は早くない。きっと初心者だ。
勝機はある。まずは早めに一ポイント取りたいところ。
まるで地面に足がくっついたみたいに足がすくんで思うように動かない。
もっと速く動ければボレーで返せそうなのに。
相手のボールを打ち返すだけ。このままじゃずっと同じようなラリーが続くばかり。
一ポイントも決まらないまま、ラリーばかりがずっと続く。
このままラリーが続いたまま試合時間が終わっちゃったりして……。
なんてことを考えていると、一瞬、相手のボールを見失ってしまった。
反応が少し遅れる。まずい、この距離じゃボールに間に合わない……。
「フィフティーン、ラブ」
しまった。相手に一ポイント取られてしまった。
もー、今くらいのボールいつもなら絶対返せてたのに。
でもまだ相手は一ポイント。これくらい、まだ何とでもなる。
そう思っていたんだけど。
気がつけばフォーティー、フィフティーンと追い込まれてしまった。
まずい、あと一回ポイントを取られたらこのマッチを取られてしまう。
デュースに持っていくためにもあと二回連続でポイントを取らないと。
普段はしないような凡ミスを連発して相手にポイントを取られてしまった。
こんなの私の本気じゃない。こうなったら、私の本気を見せてやる。
相手はまた平凡なサーブを打ってくる。
ボールを見つめ、冷静に返す。
慌てることはない。ラリーを続けていればきっとチャンスはくる。
そこを狙えばポイントが取れる。
何度目かのラリーで相手がゆるいボールを返してきた。
よし、チャンスだ。ここを攻めるしかない。
思い切って全力疾走で前に出る。
そしてボールがバウンドする前に私は思い切りボレーを叩き込んだ。
勢いよくボールが飛んでいき、相手コートで二回、バウンドをした。
「フォーティー、サーティー」
驚いた相手はその場から動くこともできていない。
私の強烈なボレーにびっくりしたに違いない。
コートの外からざわざわとした声が聞こえてきた。
一年生の中でさっきみたいなショットを打てる人は多くないはずだ。
よし、この調子で次もポイントを取れればデュースに持っていける。
そう思ってたんだけど……。
次もボレーを狙い、コートの外側に飛び出してしまった。
チャンスを狙えばリスクも付きまとう。テニスではよくあることだ。
一セット目は私の負け。
ブレイクはできなかったけど、これで試合に負けたわけじゃない。
ゲームは三セットマッチ。次のサーブゲームで一セット取り、その後ブレイクを決めれば私の勝ちだ。
今度は私のサーブだ。ボールを高く上げ、思い切りラケットに叩きつける。
サーブの速度は相手よりも私の方が早い。
相手も何とか私のサーブを返してくる。
けど主導権は私のものだ。攻めるようにラリーを続けて追い込んでやる。
相手の選手が基本に忠実にラリーを返してくる。
難しいボールではない。だけどフラストレーションがどんどん溜まっていく。
そろそろポイントを取りたい。
よし、次は勝負に出るぞ。
また相手は私のボールをぼんやりと打ち返す。
ここで思い切りボレーを決めてやる!
そう思ってコートの前面に向かう。よし、今だ。
バンってラケットがボールを弾く強い音が聞こえる。
だけどボールは勢い余って相手のコートの外側まで飛んで行ってしまった。
「ラブ、フィフティーン」
嘘、相手に最初のポイントを取られてしまった。
相手選手が大きく息を吐いている。疲れているのはお互い同じだ。
また私のミスで失点してしまった。実力だったら負けてないのに。
じんわりとおでこから汗が流れる。
まだ試合が終わったわけじゃない。サーブを打つ私の優位には変わりない。
ここから連続してポイントをゲットだ。
そう勢い込んだ。それなのに。
今度は相手の裏をかこうとバックハンドをしてミスをしてしまった。
ポイントを取り返したものの、今度はサーブミスでポイントを取られた。
ゆっくりと相手にポイントを追い詰められていく。
なんで? 私の方がテニスも上手いし、テクニックも上のはずだ。
もし、また私のミスでポイントを取られてしまったら。
二セット取られてしまったら一気に追い込まれてしまう。
そうなれば試合に勝つのはほとんど絶望的だ。
このセットだけは何としてでも取らないといけないのに。
唾をゴクリと飲み込んだ。
ボールを持つ手が震える。
もしさっきみたいにサーブが失敗したら。
もしまたボレーやバックハンドが失敗したら。
失敗することばかり頭に浮かんでしまう。
私の方がテニスが上手いはずなのに!
サーブのスピードがゆっくりになってしまう。
それでも確実に相手のコートの中にボールは落ちた。
落ち着け、落ち着け。
そう心の中で何度も言い聞かす。
相手のボールを返す。そうすればラリーが続く。
ラリーが続けばきっとチャンスは巡ってくる。
けど、あと一回ミスすればポイントを取られてしまう。
そう思うとチャンスに見えるところでもボレーを打つのを躊躇ってしまう。
さっきまでの私ならボレーを狙ってたはずなのに。
体中から嫌な汗が出ているのがわかる。
じめじめとして気持ち悪い。手汗でラケットが滑り落ちそうだ。
このままラリーを続けて、本当に勝てるのだろうか……。
まずい、また余計なことを考えて反応が遅れてしまった。
ボールがこっちのコートに向かって飛んでくる。
難しいコースじゃない。きっちり返せる。
……いや、この位置ならスマッシュを狙えるかもしれない。
これはチャンスだ。飛び込んできたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
そう思って足を踏み込んだその時。
思うように足に力が入らない。
ふらりと揺れると、踊るようにコートの上に倒れ込んでしまった。
「ゲームセット」
ブレイクされてしまった。
このセットも私の負けだ。
これで相手と私は二対ゼロ。そして次は相手のサーブ。
この試合、もう無理だ……。
足がジンジンと痛む。
相手がサーブのフォームを構える。
私はもう、真っ直ぐ立つだけで精一杯だった。