もしも、あっちの部活を選んだら?
はーあ、何やっているんだろう。
園内のあちこちからテニスの音が聞こえてくる。
ラケットがボールを弾く音。
ボールがコートをバウンドする音。
ポイントをカウントする審判の声。
どれこれもがテニスの音だ。
きっと、もうコウの試合は終わったことだろう。
あの場から離れてどのくらいの時間が経ったのかわからない。
アップをするわけでも先輩たちの試合を見るでもなく、ただふらふら園内をうろついていた。
ここにいるほとんどの選手がテニスのことを考えて、テニスに向き合っている。
試合を見て盛り上がったり、頭の中で自分のプレイをシミュレーションする。
近づく試合のために自分の体を最適な状態で整える。
私はそのどれもやっていない。
テニスで勝ちたいって思うのに、体が動かそうと思うと急にずしんと重くなる。
なんでこんな風になっちゃうんだろう?
視界の中に市川さん達が一斉に動いているのが飛び込んできた。
市川さんの試合の始まるんだ。
正直、今は市川さんの試合を見たい気分じゃない。
だけどお互い試合を見るって約束しちゃったし。
仕方ない、見に行くとするか。
試合のコートに到着すると、市川さんがコートの中に入ったところだった。
「ごめん、遅くなっちゃた」
「もう、竹口さんどこに行ってたの?」
「ちょうど試合が始まるところだよ」
市川さんが選手としてコートの上に立っている。
フェンス越しに見える市川さんの背中は何だかいつもよりも緊張して見えた。
「お、始まるな」
西崎先輩たちも市川さんの試合を見にやってきた。
コウの姿はない。それに気づいてなぜか少しだけ安心する。
試合が始まった。
市川さんがサーブを打つ。初めて私に向かって打った時よりもボールに力が加わっているのがわかる。
相手選手がサーブボールをきっちり返す。
動きを見た感じ、四月からテニスを始めたばかりの初心者に見える。
一年女子の試合はこれが初めて。
市川さんの背中には同じ一年女子の期待や思いが背負っている気がした。
けど、それは初めての試合ってだけが理由じゃない。
市川さんだからみんなが期待をしているんだ。
「フィフティーン、ラブ」
市川さんが最初のポイントを取った。
大きく市川さんの肩が動く。
きっと見ているこっちが思っている以上にエネルギーを使っている。
必死に足を動かし、ボールに追いつき、ラケットを振る。
特別なことはしなくても確実にボールを相手のコートに返す。
そしてまたポイントを積み重ねる。
「すごい、セットをとったよ」
市川さんがサーブゲームを制した。
まずは一セット。あと二セット取れば市川さんの勝利だ。
「うん、市川はいい感じだな」
西崎先輩がうんうんと頷きながら市川さんを見ている。
やっぱり試合で活躍すれば先輩からも注目されるんだ。
私があのコートに立ったらどうなるだろう?
初めて市川さんと模擬試合をした時と思い出す。
市川さんに余裕で勝てると思ってたのに、あっけなく負けてしまった。
何回思い返しても負けた理由がわからない。
私は小学生の時にテニスを習っていたのに。
私だってテニスで勝ちたい。
先輩たちにテニスが強いってことを証明したい。
「あー、取られちゃったか」
ブレイクに失敗し、市川さんは一セット取られてしまった。
だけど市川さんの有利には変わりない。
このままお互いにブレイクをせずにサーブゲームを取り続ければ市川さんの勝ちだ。
それだけサーブはアドバンテージが大きいし、ブレイクをすれば一気に有利になる。
三セット目。ここまで長い試合は練習でほとんどやったことがない。
市川さんのプレイにどこか疲れが見えた。
でも疲れているのは相手も同じだ。
お互い最初の時より動きがヨロヨロとしている。
それでも市川さんはサーブで有利にゲームを進めてポイントを稼いでいく。
そのまま二セット目を取った。
「このまま次のセットを取れば市川さんの勝ちだ」
一年生はまだテニスのことが全然わかってない。
市川さんがテニスが下手ってわけじゃないけどただ基本に忠実なだけ。
コウと違ってボレーをしたり攻めたプレイをしているわけじゃない。
予想通り、二ポイントは取れたけどブレイクを決めることはできなかった。
先輩たちは自分の試合や他の部員の試合を見るためにコートから離れていく。
「ごめん、私、そろそろ試合があるから」
そう言い残して市川さんのコートから離れた。
嘘をついたわけじゃない。刻一刻と私の試合の時間も迫っている。
けどなぜか市川さんの試合を最後まで見る気になれなかった。
ぶらりと歩いているとコウとすれ違った。
「今、市川は試合中か?」
「うん。お互い二セットとって、市川さんのサーブゲームだと思う」
「お、いい感じじゃん」
コウはまだ何か言いたそうだったけど、「もうすぐ試合があるから」と振り切った。
今はコウとも話したくない。
もうすぐコートに立つ。そう思うと無性に不安が体中を駆け巡る。
それがなんだかむずむずして無意識に体が軽く走り出していた。
園内のあちこちからテニスの音が聞こえてくる。
ラケットがボールを弾く音。
ボールがコートをバウンドする音。
ポイントをカウントする審判の声。
どれこれもがテニスの音だ。
きっと、もうコウの試合は終わったことだろう。
あの場から離れてどのくらいの時間が経ったのかわからない。
アップをするわけでも先輩たちの試合を見るでもなく、ただふらふら園内をうろついていた。
ここにいるほとんどの選手がテニスのことを考えて、テニスに向き合っている。
試合を見て盛り上がったり、頭の中で自分のプレイをシミュレーションする。
近づく試合のために自分の体を最適な状態で整える。
私はそのどれもやっていない。
テニスで勝ちたいって思うのに、体が動かそうと思うと急にずしんと重くなる。
なんでこんな風になっちゃうんだろう?
視界の中に市川さん達が一斉に動いているのが飛び込んできた。
市川さんの試合の始まるんだ。
正直、今は市川さんの試合を見たい気分じゃない。
だけどお互い試合を見るって約束しちゃったし。
仕方ない、見に行くとするか。
試合のコートに到着すると、市川さんがコートの中に入ったところだった。
「ごめん、遅くなっちゃた」
「もう、竹口さんどこに行ってたの?」
「ちょうど試合が始まるところだよ」
市川さんが選手としてコートの上に立っている。
フェンス越しに見える市川さんの背中は何だかいつもよりも緊張して見えた。
「お、始まるな」
西崎先輩たちも市川さんの試合を見にやってきた。
コウの姿はない。それに気づいてなぜか少しだけ安心する。
試合が始まった。
市川さんがサーブを打つ。初めて私に向かって打った時よりもボールに力が加わっているのがわかる。
相手選手がサーブボールをきっちり返す。
動きを見た感じ、四月からテニスを始めたばかりの初心者に見える。
一年女子の試合はこれが初めて。
市川さんの背中には同じ一年女子の期待や思いが背負っている気がした。
けど、それは初めての試合ってだけが理由じゃない。
市川さんだからみんなが期待をしているんだ。
「フィフティーン、ラブ」
市川さんが最初のポイントを取った。
大きく市川さんの肩が動く。
きっと見ているこっちが思っている以上にエネルギーを使っている。
必死に足を動かし、ボールに追いつき、ラケットを振る。
特別なことはしなくても確実にボールを相手のコートに返す。
そしてまたポイントを積み重ねる。
「すごい、セットをとったよ」
市川さんがサーブゲームを制した。
まずは一セット。あと二セット取れば市川さんの勝利だ。
「うん、市川はいい感じだな」
西崎先輩がうんうんと頷きながら市川さんを見ている。
やっぱり試合で活躍すれば先輩からも注目されるんだ。
私があのコートに立ったらどうなるだろう?
初めて市川さんと模擬試合をした時と思い出す。
市川さんに余裕で勝てると思ってたのに、あっけなく負けてしまった。
何回思い返しても負けた理由がわからない。
私は小学生の時にテニスを習っていたのに。
私だってテニスで勝ちたい。
先輩たちにテニスが強いってことを証明したい。
「あー、取られちゃったか」
ブレイクに失敗し、市川さんは一セット取られてしまった。
だけど市川さんの有利には変わりない。
このままお互いにブレイクをせずにサーブゲームを取り続ければ市川さんの勝ちだ。
それだけサーブはアドバンテージが大きいし、ブレイクをすれば一気に有利になる。
三セット目。ここまで長い試合は練習でほとんどやったことがない。
市川さんのプレイにどこか疲れが見えた。
でも疲れているのは相手も同じだ。
お互い最初の時より動きがヨロヨロとしている。
それでも市川さんはサーブで有利にゲームを進めてポイントを稼いでいく。
そのまま二セット目を取った。
「このまま次のセットを取れば市川さんの勝ちだ」
一年生はまだテニスのことが全然わかってない。
市川さんがテニスが下手ってわけじゃないけどただ基本に忠実なだけ。
コウと違ってボレーをしたり攻めたプレイをしているわけじゃない。
予想通り、二ポイントは取れたけどブレイクを決めることはできなかった。
先輩たちは自分の試合や他の部員の試合を見るためにコートから離れていく。
「ごめん、私、そろそろ試合があるから」
そう言い残して市川さんのコートから離れた。
嘘をついたわけじゃない。刻一刻と私の試合の時間も迫っている。
けどなぜか市川さんの試合を最後まで見る気になれなかった。
ぶらりと歩いているとコウとすれ違った。
「今、市川は試合中か?」
「うん。お互い二セットとって、市川さんのサーブゲームだと思う」
「お、いい感じじゃん」
コウはまだ何か言いたそうだったけど、「もうすぐ試合があるから」と振り切った。
今はコウとも話したくない。
もうすぐコートに立つ。そう思うと無性に不安が体中を駆け巡る。
それがなんだかむずむずして無意識に体が軽く走り出していた。