もしも、あっちの部活を選んだら?
乗り遅れた電車
「真澄、ハンバーガー食い過ぎじゃね?」
今日のお昼ご飯は人気のハンバーガー屋さん。
駅のすぐ近くにあるから、練習試合がある時はよくここで食べるんだよね。
そんなハッピー気分でいっぱいの私をコウの一言が台無しにした。
「はあ、何であんたにそんなこと言われないといけないの? みんな二個くらい食べるでしょ」
「真澄のは一個がデカイじゃねーか」
コウに言われて思わずぎくりとする。
私が頼んだのはビッグサイズのハンバーガーと期間限定のビーフバーガー。
さっきも試合をしてお腹空いてるんだもん。
「っていうか、何でコウが私の注文知っているのよ」
「そ、そんだけハンバーガー持ってたら目に入るんだよ」
コウに釣られて男バスのメンバーまで一緒に笑ってるし。
みんなからハンバーガー女って思われちゃうじゃん。
「てか、前もこんなことなかった?」
「そ、そうだっけ」
うーんって思い返してみる。
「思い出した、一年の時の練習試合の時だ。その時もこいつめっちゃハンバーガー食ってるって思ったもん」
「何それ。てか、ハンバーガー食べに来てるんだから食べるに決まってるでしょ」
私が忘れてることまでコウはしっかり覚えている。
全く、なんて執念深いやつなの。
「つーか、伊崎と竹口って本当仲良いよな」
「夫婦漫才見てる気分」
男バスのメンバーが調子に乗って余計なことまで言っている。
いやいや、やめてよ。
遠くに座っている女子バスケ部の後輩の視線がチクチク刺さる。
そんなこと言われたら余計嫌われるじゃない。
「俺をハンバーガー女と一緒にするなよ」
あんたが余計なこと言ったからでしょうが!
ってかあっさり私のことハンバーガー女って呼ぶな!
「もう、マジ腹立つ」
ストローからジュースを思いっきり吸い込むと、氷のガサガサって音がうるさいくらいに聞こえる。
「伊崎君、真澄と話している時は楽しそうだけどな」
「あいつは私に意地悪するのが楽しいんだよ」
「そんなことないと思うけど」
美優の表情が一瞬、寂しそうに笑ったように見えた。
……何かあったのかな。
っていけない、もうすぐ電車の発車時刻だ。
「食べ終わった人から駅に向かうように」
みんながバタバタと立ち上がり空になったトレーを片付けていく。
やばい、コウに茶々入れられたせいでまだ食べ終わってないんだけど。
「真澄、大丈夫?」
「ごめん、美優先行ってて。すぐ食べ終わるから」
不安そうな顔をしながら美優は先にハンバーガー屋さんを出た。
コウのせいで私だけ置いていかれちゃうじゃない。
「おい、全部食べれるのか?」
みんなもう店を出たのかと思ったら、コウはまだ残っていた。
「大丈夫。コウも早く行かないと間に合わないよ」
「なめんなよ。俺は走れば間に合うさ」
コウって口は悪いけど、こういう優しいところがあるんだよね。
昔からずっと一緒で、困ったことがあればいつもコウが近くにいて、助けてくれる。
だからなんだかんだ言っても、コウのこと嫌いにはなれない。
……遅れた原因もコウなんだから当然っちゃ当然か。
「伊崎先輩、遅れちゃいますよ」
お店の外で女バスの後輩がコウのことを呼んでいる。
いや、まず私のことを心配してよ!
あからさまに区別されると、怒りも通り越しちゃうよ。
「ほら、コウは先に行って。私と一緒だったら、また変なこと言われちゃうし」
「いや俺は別に……」
コウが何か言おうとしたけど、すぐに口をつぐみ「わかった。じゃあ後でな」とお店の外を出た。
やっぱり欲張って大きいハンバーガーを頼まなきゃよかった。
何とか食べ切ってハンバーガー屋さんを出た。
「えっ! 嘘でしょ」
入口のところに女バスのボールが入った袋が置いてあった。
大きな袋の中にはボールが五個は入っている。
そんな大事なものうっかり忘れるはずがない。
あの子たち、わざと私に持たせるために置いて行ったんだ。
ただでさえ時間がないのに、動きがさらに鈍くなる。
どうしよう、マジで時間がギリだよ。
いや、ここで諦めるわけにはいかない。
私だってバスケ部だ。毎日走り込みをしている。
コウほどじゃないけど、足の速さには自信があるもんね。
「よーし、行くぞ」
駅の通路を改札ホームに向かって全力疾走する。
行き交う人たちが私の方を見ている。
駅の中をダッシュするのって本当はいけないことだし、おまけにこんなごっつい袋を背負ってたら誰でも気になるよね。
だけどそんなこと言っている場合じゃない。
ハンバーガーの食べ過ぎで練習試合に遅れたりなんてしたら、笹波先生から大目玉食らっちゃうよ〜。
ポケットからスマホを取り出し時間を確認。
電車の発車まであと二分。
ここで私の全力疾走を見せつけてやる!
改札口を通った先にコウと美優が立っているのが見える。
私のこと待っていてくれたんだ!
電車の発車にさえ間に合えば、あとは何とでもなる。
ラスト百メートル、全力ダッシュするしかない!
改札まであと八十メートル……五十メートル……三十メートル。
よし、このペースなら何とか間に合う!
そう確信して、一瞬、気が抜けた瞬間。
ふわっと体が浮いたかと思うと前のめりに転んでしまった。
重たいボールの袋が前に動き、思わず体のバランスが崩れてしまったのだ。
「いたた」
周りにいた人も何事かと私の方を見てる。
そりゃ全力疾走で走っていた女の子が急に転んだらびっくりするよね。
その時、電車の音が聞こえてくた。
立ち上がるとズキっと足が痛む。
これじゃあ、さっきみたいに走れない……。
「真澄、大丈夫?」
「おい、間に合いそうか?」
美優とコウが私に向かって叫んでいる。
だけど、ごめん。ここからじゃ間に合わない……。
今日のお昼ご飯は人気のハンバーガー屋さん。
駅のすぐ近くにあるから、練習試合がある時はよくここで食べるんだよね。
そんなハッピー気分でいっぱいの私をコウの一言が台無しにした。
「はあ、何であんたにそんなこと言われないといけないの? みんな二個くらい食べるでしょ」
「真澄のは一個がデカイじゃねーか」
コウに言われて思わずぎくりとする。
私が頼んだのはビッグサイズのハンバーガーと期間限定のビーフバーガー。
さっきも試合をしてお腹空いてるんだもん。
「っていうか、何でコウが私の注文知っているのよ」
「そ、そんだけハンバーガー持ってたら目に入るんだよ」
コウに釣られて男バスのメンバーまで一緒に笑ってるし。
みんなからハンバーガー女って思われちゃうじゃん。
「てか、前もこんなことなかった?」
「そ、そうだっけ」
うーんって思い返してみる。
「思い出した、一年の時の練習試合の時だ。その時もこいつめっちゃハンバーガー食ってるって思ったもん」
「何それ。てか、ハンバーガー食べに来てるんだから食べるに決まってるでしょ」
私が忘れてることまでコウはしっかり覚えている。
全く、なんて執念深いやつなの。
「つーか、伊崎と竹口って本当仲良いよな」
「夫婦漫才見てる気分」
男バスのメンバーが調子に乗って余計なことまで言っている。
いやいや、やめてよ。
遠くに座っている女子バスケ部の後輩の視線がチクチク刺さる。
そんなこと言われたら余計嫌われるじゃない。
「俺をハンバーガー女と一緒にするなよ」
あんたが余計なこと言ったからでしょうが!
ってかあっさり私のことハンバーガー女って呼ぶな!
「もう、マジ腹立つ」
ストローからジュースを思いっきり吸い込むと、氷のガサガサって音がうるさいくらいに聞こえる。
「伊崎君、真澄と話している時は楽しそうだけどな」
「あいつは私に意地悪するのが楽しいんだよ」
「そんなことないと思うけど」
美優の表情が一瞬、寂しそうに笑ったように見えた。
……何かあったのかな。
っていけない、もうすぐ電車の発車時刻だ。
「食べ終わった人から駅に向かうように」
みんながバタバタと立ち上がり空になったトレーを片付けていく。
やばい、コウに茶々入れられたせいでまだ食べ終わってないんだけど。
「真澄、大丈夫?」
「ごめん、美優先行ってて。すぐ食べ終わるから」
不安そうな顔をしながら美優は先にハンバーガー屋さんを出た。
コウのせいで私だけ置いていかれちゃうじゃない。
「おい、全部食べれるのか?」
みんなもう店を出たのかと思ったら、コウはまだ残っていた。
「大丈夫。コウも早く行かないと間に合わないよ」
「なめんなよ。俺は走れば間に合うさ」
コウって口は悪いけど、こういう優しいところがあるんだよね。
昔からずっと一緒で、困ったことがあればいつもコウが近くにいて、助けてくれる。
だからなんだかんだ言っても、コウのこと嫌いにはなれない。
……遅れた原因もコウなんだから当然っちゃ当然か。
「伊崎先輩、遅れちゃいますよ」
お店の外で女バスの後輩がコウのことを呼んでいる。
いや、まず私のことを心配してよ!
あからさまに区別されると、怒りも通り越しちゃうよ。
「ほら、コウは先に行って。私と一緒だったら、また変なこと言われちゃうし」
「いや俺は別に……」
コウが何か言おうとしたけど、すぐに口をつぐみ「わかった。じゃあ後でな」とお店の外を出た。
やっぱり欲張って大きいハンバーガーを頼まなきゃよかった。
何とか食べ切ってハンバーガー屋さんを出た。
「えっ! 嘘でしょ」
入口のところに女バスのボールが入った袋が置いてあった。
大きな袋の中にはボールが五個は入っている。
そんな大事なものうっかり忘れるはずがない。
あの子たち、わざと私に持たせるために置いて行ったんだ。
ただでさえ時間がないのに、動きがさらに鈍くなる。
どうしよう、マジで時間がギリだよ。
いや、ここで諦めるわけにはいかない。
私だってバスケ部だ。毎日走り込みをしている。
コウほどじゃないけど、足の速さには自信があるもんね。
「よーし、行くぞ」
駅の通路を改札ホームに向かって全力疾走する。
行き交う人たちが私の方を見ている。
駅の中をダッシュするのって本当はいけないことだし、おまけにこんなごっつい袋を背負ってたら誰でも気になるよね。
だけどそんなこと言っている場合じゃない。
ハンバーガーの食べ過ぎで練習試合に遅れたりなんてしたら、笹波先生から大目玉食らっちゃうよ〜。
ポケットからスマホを取り出し時間を確認。
電車の発車まであと二分。
ここで私の全力疾走を見せつけてやる!
改札口を通った先にコウと美優が立っているのが見える。
私のこと待っていてくれたんだ!
電車の発車にさえ間に合えば、あとは何とでもなる。
ラスト百メートル、全力ダッシュするしかない!
改札まであと八十メートル……五十メートル……三十メートル。
よし、このペースなら何とか間に合う!
そう確信して、一瞬、気が抜けた瞬間。
ふわっと体が浮いたかと思うと前のめりに転んでしまった。
重たいボールの袋が前に動き、思わず体のバランスが崩れてしまったのだ。
「いたた」
周りにいた人も何事かと私の方を見てる。
そりゃ全力疾走で走っていた女の子が急に転んだらびっくりするよね。
その時、電車の音が聞こえてくた。
立ち上がるとズキっと足が痛む。
これじゃあ、さっきみたいに走れない……。
「真澄、大丈夫?」
「おい、間に合いそうか?」
美優とコウが私に向かって叫んでいる。
だけど、ごめん。ここからじゃ間に合わない……。