もしも、あっちの部活を選んだら?

探していたもの

今までずっともやがかかっていたことが全てはっきりと思い出せた。

そうだ、私は望んでここにきた。
もしもの世界を知るためにここに来たんだ。

「思い出したようね」

「うん」

バスケ部の私、テニス部の私、バドミントン部の私。

中学校に入ってからいつもうまくいかなった。
違う部活を選んでいたらどうなんだろうって何度も思った。

だから私は何度も、もしもの世界を巡ってきたのに。

結局、何を選んでもうまくいかなかった。

バスケ部を選んだのは美優がバスケ部に入ったから。
美優と一緒なら楽しいかもって思ったのに、想像以上にバスケが下手でやる気を無くしてしまった。

経験のあるテニスにしたら、バスケみたいなことにはならないと思ったのに、こっちもこっちでうまくいかないし。

一番興味のあったバドミントンは才能はあったのに、それが理由で周りから浮いてしまった。

「どの部活を選んだところで似たり寄ったりの結果になってしまった」

「ねえ、なんで。何で私は何を選んでもうまくいかないの?」

「その理由は今のあなたならわかるんじゃない?」

目の前にいる私が挑むような目で見つめてくる。
そしてうっすらと微笑んだ。

余裕そうなもう一人の私を見つめる。

「あなたにはわかるの?」

私と同じ姿をしているのにまるで何かもお見通しという様な目をしている。

「探してたものはどこにあったんだろうね」

私は一体何を探していたんだろう?
何を見つけるために何度も世界を巡っていたのか……。

パズルのピースのようにバラバラになった記憶の破片をもう一度拾い集める。

きっともう一人の私は何かに気がついている。
だったら私にだって気がつけるはず。

バスケもテニスもバドミントンも結局うまくいかなかった。
私はただ楽しい毎日を過ごしたかっただけなのに……。

その時、記憶のピースの中に一人の笑顔が映っていることに気がついた。
どの世界の破片にもその笑顔は必ず映り込んでいる。

「もしかして……」

「やっとあなたも気がついたのね」

どの世界に行って、どの部活を選んでもコウは私のそばにずっといてくれた。
うまくいっている時も、調子が悪い時もコウだけは私のことを応援してくれていた。

何度も世界を巡って巡って巡って、やっとそのことに気がついたんだ。

「いつからあなたは気がついたの?」

「あなたがここにきた瞬間よ。それまで私も気がつかなかった」

ドキッと自分の心臓が動いた音が聞こえた。

ずっと現実から目を逸らして、自分の求めているものがどこかにあると思っていた。
ここじゃないどこかに行けば願いが叶うと思っていた。

けど、そうじゃなかったんだ。

私が探していたものは本当はすぐ目の前にあったんだ。

正解の選択があるわけじゃない。自分自身で常に現実を選んでいくんだ。

「もしもの世界なんて、本当は存在しない。あなたが体験したことはね、全て私が見ていた夢の話」

やっぱりそうだったんだ。

もう一人の私と話していく中で薄々気づいていた。

どうして目の前の私は何でも知っているような感じなのか。
それは本物の私だから。私の知らないことも知っている私だからだ。

「私がもしもの世界を望んだから、あなたがここに来てあなたが世界を巡ってくれた。そして私は探していたものにやっと気づいた」

「だから私はここに来たことがあったのね」

現実の私がもしもの世界を望み、世界をつなぐ入り口としてここが生まれた。

それから現実の私はずっと夢を見ていたんだ。
他の部活を選んだらどうなるのか、私を通してその姿を見ていたんだ。

でも一つだけわからないことがある。

「どうしてコウはずっと私と同じ部活を選んだの?」

もしもの世界はあくまでも私が選ぶ部活が違うだけのはずだ。
私が何を選んでも美優や花村さんはバスケ部を選ぶし、担任もずっと笹波先生だ。

なのに、コウはいつも私と同じ部活を選んでいる。

「それは私もわからない。けどきっと何か理由があるはずよね」

困った時の表情をする私が目の前にいる。

知りたいことがあればどうすればいいのか。
今の私にははっきりわかる。

「コウに直接聞いてみる。そういうことね」

「うん、正解」

目の前にいる私がにこりと笑った。
その役目は私じゃない。目の前にいる私がするんだ。

「あと、私から一つお願いがあるの」

もうすぐ現実の私が目を覚ます。そしたらきっと私の存在は消えてしまう。
目の前にいる私は私だけど、私は彼女じゃない。

私は彼女の夢の中にしかいないんだ。

「コウにあったらいつもありがとうって伝えてほしい」

どんな時もコウがそばにいてくれた。
それは中学校でどの部活を選んでもってことだけじゃない。
出会った時から私の気づかないところでコウはきっと助けてくれてたんだ。

「うん、わかってるよ」

目の前の私が頷く。

「あなたは私だもんね」

「そう。私はあなただよ」

頭では理解できても目の前に自分がいて、自分と話をするのは不思議な感覚だ。

真っ暗だった世界に光が差し込んでくる。
現実の私が目覚める時が来たんだ。

「そろそろお別れだね」

自分でお別れって言っておきながら急に寂しくなってきた。

もうすぐ私は消えてしまう。
もしもの世界は夢の話。現実の出来事ではない。

目の前にいる私がぎゅっと手を握ってくる。
じんわりとほのかな体温が伝わってきた。

「ありがとう、私のために世界を巡ってくれて。あなたがいたから私はもしもの世界を知ることができた」

自分にありがとうって言われると恥ずかしくてこそばゆくなる。
でもそう思っているのは私も同じだ。

「こちらこそありがとう。あなたがそう願ったから私はいろんな世界を巡れたんだよ」

二人の視線がぶつかる。そしてどちらとも知らず笑い合っていた。

二人だけの世界を包む光が濃くなり視界がぼやけてくる。
繋いだ手から伝わる体温だけがまだ私がここにいることを教えてくれている。

「これはお別れなんかじゃない。もしもの世界を巡ったあなたはずっと私の中にいる。私はあなた。あなたのことずっと忘れないからね!」

目の前が光り輝く中で私の声だけが聞こえてくる。

私もあなたのことずっと忘れないから。
そう心の中で呟くと世界が完全に光に包まれた。
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