【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

19 少女の私と、次期公爵ハリー様との結婚

 朝からメイドたちは、忙しそうに私の身支度を始める。
 髪に香油を塗り櫛付け、爪を染め、顔に化粧を施す。
 化粧なんてしたことのない私は、口紅の味が不快で堪らなかった。

 そして、問題はウエディングドレスだ。
 明らかに私の身体に合っていなくて、ぶかぶかだった。
 裁縫が得意な使用人が急遽飛んできて必死に直し、何とか時間内に体裁は整った。


「オリヴィア様。鏡をご覧になって下さい。この細腰に流れるような銀髪! なんてお美しいんでしょう! まるで女神か妖精のよう」

「クリス様もそう思われるでしょう?」

 口々に私を褒めそやすメイドたちの声に、黒い正装姿のクリス様が小さく答える。

「…あ…あぁ…とても美しい……」

 クリス様が私に手を差し伸べてくる。エスコートをして下さるようだ。
 私はそのまま式が行われる敷地内の教会へと案内された。



 チャペル内はたくさんの人でにぎわい、全ての席が埋まっていた。
 クリス様の手で祭壇近くまで進むと、初老の男性が嬉しそうに私に声をかけてきた。

「アースキン伯爵令嬢。ようやく貴女に会えた。息子が中々紹介してくれないから心配していたんだ」

 この方はキャンベル公爵様?
 手を胸にあて腰を折る、目上の方に敬意を表す挨拶でお答えする。

「父上、式の最中ですよ。さぁオフィーリア早く側においで」
 そう声をかけてきたのは、祭壇の側に立つ、全身真っ白な衣装を着た金髪碧眼の男性。
 エスコートの手がクリス様からその男性へと移る。

 ……この方がキャンベル次期公爵ハリー様。

 ジョンソンさんが言っていたとおり、まるで絵本から抜け出してきたようなその容姿は、キャンベル公爵様の隣に腰かけている第三王子様より、よほど王子然とした美形だ。
 クリス様もとても綺麗な容姿をされているが、その黒髪に黒い衣装、対してハリー様は金髪に白い衣装。

 まるで、黒と白。昼と夜。太陽と月。光と影。



 祭壇で誓いの言葉と結婚届にサインを求められる。
 式自体は非常に簡素で、あっと言う間に終わった。
 この後、屋敷の大広間で披露宴が行われる。

「オフィーリア、この鴨は我が領の特産物なんだ。美味しいから食べてみて」

「オフィーリア、君のために隣国からこのワインを取り寄せたんだ。お酒に弱いかな、一口だけでも飲んでみてよ」

 ひっきりなしにハリー様が話しかけてくる。
 やはり、この男性と私は間違いなく初対面だ。

 周りの人たちはなんて仲睦まじいんだと笑顔を向けてくる。


 そして披露宴が1時間もたった頃……

「オフィーリアが少し酔ったみたいなので、そろそろ退出いたします。皆様はごゆっくりなさって下さい」

 そう言ってハリー様に会場から連れ出され、屋敷の最上階にある公爵夫妻の寝室に押し込められる。
 この寝室も公爵夫人の私室と同じく、ピンクの花柄で埋め尽くされ、中央の巨大な天蓋付きのベッドにはピンクのレースカーテンが垂れ下がっていた。

 夫婦になったのだ。
 当然これから閨をしなければいけないのだと思い、身体が硬直した。

 せめて湯あみをさせて欲しいと声を出そうとした瞬間、いきなりドアが開きクリス様と一人の女性が入ってきた。

「あぁ~ん! ハリーぃ~!」

 クリス様の後ろにいたピンクブロンドのその女性は、まっすぐハリー様に抱きついてきた。
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