【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

27 お飾りの妻の私と、クリス様との夜

 音楽室の床に座り込む私とクリス様の周りには、たくさんの譜面が散らばっている。集中しているうちに深夜になり、気を利かせたメイドが毛布と温かいコーヒーを持ってきてくれた。私たちは毛布に包まり、コーヒーをすすりつつ、顔を突き合わせてアイデアを出し合う。

「曲を変えたところで、クラシックの枠は出ないので、何だか変わり映えしませんね」
 行き詰った編曲に、私は正直な感想を述べた。

「そうなんですよ。現代曲も使えたらいいんですけど、著作権があるからややこしいですし」

「ウサギのマスクをつけての演奏はインパクトがあったけれど、イロモノ扱いされてますよね」

「厳格な愛好家には不評ですね」

「……ならいっそイロモノに振り切っちゃいません?」

「え?」

「踊りながら弾くとか」

「ははは! オリヴィア様は踊れるんですか?」

「……無理。でもハリー様は得意そう」

「うーん」

「それとか、始めはゆっくり弾いてるのにどんどん高速になるとか」

「……面白いかもしれませんね」

「始めは乱暴に、ソロで各フレーズを弾き合うの……けんか腰で。で、戸惑うような掛け合いが続いて、だんだん仲直りして……最後は綺麗なアンサンブルになるとか」

「いいですね! 劇場型コンサートですか……そもそもクラシックが苦手な人も受け入れられやすいように、30分の楽曲を縮めて10分以内に編曲したコンサートだったんですから。ターゲットをそこに絞ってみましょうか」

「音楽は貴族の嗜み、コンサートは社交場でもあるけれど、実は興味がなくて寝ちゃってる人も多いんですよね」

「始めからあまり奇をてらうのは危険ですから、2部構成にして、1部はイロモノで2部は今まで通りスタンダードでいくのはどうでしょう」

「だったら、1部は演奏したことのある曲にして、2部は数曲だけ新曲にしたら、ハリー様の練習も間に合いますね」

 未だにハリー様は全く音楽室に来ない。

「じゃあ、どんなパフォーマンスができるか書き出していきましょう!」

 間近で微笑むクリス様を見ると、なぜかドキドキと鼓動が早くなる。
 この笑顔は、私が好きな笑顔だ。



 何とかハリー様は、新曲を2曲だけ練習してくれた。

 初夏の休日、『バイオリン王子と白ウサギのコンサート』と名うって、2部構成のコンサートを大ホールで行った。


 始めは「ふざけている」「音楽への冒涜」などと酷評されていたが、子供でも楽しめるクラシックコンサートとして徐々に認知され、国内10都市を周りきるころには、興行的にも成功をおさめるようになった。

 あまり練習しなかったハリー様だけど、本番には強く、王子様のような笑顔で大人気に……

 一気にハリー・キャンベルの名は国内で知られることとなった。



 そしてこの『バイオリン王子と白ウサギのコンサート』は今年の芸術大賞、新人賞に選ばれた。
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