【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
28 お飾りの妻の私と、得られない栄誉
今日は芸術大賞の受賞パーティーだ。
パーティー参加のため、ハリー様とジェニー嬢が1階へ降りてきた。
ハリー様はコンサートのバイオリン王子の衣装をそのまま、ジェニー嬢は白ウサギの衣装をまとっている。
「この栄誉はオリヴィア様のものでもあります! そして正妻でもあるんですよ! 受賞パーティーのパートナーには、オリヴィア様をお連れすべきです!」
「クリスったら何言ってんの? 表彰されるのは僕だし、栄誉は僕のものでしょ? その僕のパートナーは愛するジェニー以外ありえない!」
「この受賞はオリヴィア様がいたからこそ、得られたものですよ!」
「うるさいな~! みんな僕が行けば満足するし喜ぶんだ! どけ!」
クリス様の制止を振り切り、二人は馬車に乗ってパーティー会場に行ってしまった。
「こんなことって……!」
クリス様のこぶしが震えている。
私はそっと彼の肩に手を置き、微笑みかけた。
「貴女は腹が立たないのですか!」
「腹を立てたところで、何か変わるの?」
そもそも私は怒られる側だったから、怒り方なんて知らない。
「貴女は正式なハリー様の妻で公爵夫人です! しかも受賞は貴女のピアノがあってこそだ! 貴女には怒る権利があります」
「それを言うなら、クリス様の編曲のおかげでもあるわよね」
「……貴女は自分の才能を、認められたいとは思わないんですか?」
「そんなもの必要? それがあったところで私のピアノの何が変わるの?」
私がそう言うとクリス様は大きく目を見開き、しばらく私を見つめたまま悲し気に微笑んだ。
「そうですね。貴女はそういう方だ」
「私はただ楽しく演奏したい、美しい音楽に触れたい、それだけなの」
「…しゃ…が…い…る」
クリス様が何かつぶやいたけれど、小さくてよく聞こえなかった。
ハリー様に『君が妻で良かった』なんて言われて、ちょっと舞い上がりすぎたかな。
こんな私でも必要とされている、ここにいていいんだと嬉しく思ったけど……
やっぱりここでも都合よく利用されただけ、子どもの頃から何も変わらない。
何も変わらない……
誰に何も期待しない、誰にも頼らない、音楽だけが私を裏切らない。
「ブラクトンホールでのコンサート依頼がきた!」
その日は私の21歳の誕生日で、公爵家に嫁いで3年がたっていた。
ブラクトンホールとは150年前の王、芸術王と呼ばれたカール王が建てたバロック様式のオペラハウスだ。音楽家憧れの舞台として有名で、そこでコンサートができれば一流と認められる。
「ついに、ここまできたか!」
ハリー様は満足そうに鼻をならす。
その隣でジェニー嬢は、首をかしげて不思議そうにしている。
「半年後の新年明けに、3日間の日程で予定されています。早速、曲の選定にかかりましょう!」
さすがのクリス様も、頬を紅潮させて興奮気味だ。
「ん~~。お前ら二人に任せるよ。ジェニーと夏はクレル島にバカンスの予定だし、年末はアッケド山にスキーに行く予定なんだ」
「そんな……!」
「大丈夫、大丈夫。いつもみたいにお前らで決めておいてくれたら、僕はちゃんとやるし。今までも失敗したことないだろ?」
「ブラクトンホールですよ!? 今までと違って耳の肥えた紳士淑女が、聴きに来るんですよ? 誤魔化しは効きません!」
「とにかく任せたから! 僕はバカンスの準備で忙しいんだ」
そう言ってジェニー嬢を抱きしめながら、音楽室を出て行ってしまった。
そうしてその2日後、ハリー様たちは本当にバカンスに行ってしまった。
そして結局、3カ月も帰ってこなかったのだ。
パーティー参加のため、ハリー様とジェニー嬢が1階へ降りてきた。
ハリー様はコンサートのバイオリン王子の衣装をそのまま、ジェニー嬢は白ウサギの衣装をまとっている。
「この栄誉はオリヴィア様のものでもあります! そして正妻でもあるんですよ! 受賞パーティーのパートナーには、オリヴィア様をお連れすべきです!」
「クリスったら何言ってんの? 表彰されるのは僕だし、栄誉は僕のものでしょ? その僕のパートナーは愛するジェニー以外ありえない!」
「この受賞はオリヴィア様がいたからこそ、得られたものですよ!」
「うるさいな~! みんな僕が行けば満足するし喜ぶんだ! どけ!」
クリス様の制止を振り切り、二人は馬車に乗ってパーティー会場に行ってしまった。
「こんなことって……!」
クリス様のこぶしが震えている。
私はそっと彼の肩に手を置き、微笑みかけた。
「貴女は腹が立たないのですか!」
「腹を立てたところで、何か変わるの?」
そもそも私は怒られる側だったから、怒り方なんて知らない。
「貴女は正式なハリー様の妻で公爵夫人です! しかも受賞は貴女のピアノがあってこそだ! 貴女には怒る権利があります」
「それを言うなら、クリス様の編曲のおかげでもあるわよね」
「……貴女は自分の才能を、認められたいとは思わないんですか?」
「そんなもの必要? それがあったところで私のピアノの何が変わるの?」
私がそう言うとクリス様は大きく目を見開き、しばらく私を見つめたまま悲し気に微笑んだ。
「そうですね。貴女はそういう方だ」
「私はただ楽しく演奏したい、美しい音楽に触れたい、それだけなの」
「…しゃ…が…い…る」
クリス様が何かつぶやいたけれど、小さくてよく聞こえなかった。
ハリー様に『君が妻で良かった』なんて言われて、ちょっと舞い上がりすぎたかな。
こんな私でも必要とされている、ここにいていいんだと嬉しく思ったけど……
やっぱりここでも都合よく利用されただけ、子どもの頃から何も変わらない。
何も変わらない……
誰に何も期待しない、誰にも頼らない、音楽だけが私を裏切らない。
「ブラクトンホールでのコンサート依頼がきた!」
その日は私の21歳の誕生日で、公爵家に嫁いで3年がたっていた。
ブラクトンホールとは150年前の王、芸術王と呼ばれたカール王が建てたバロック様式のオペラハウスだ。音楽家憧れの舞台として有名で、そこでコンサートができれば一流と認められる。
「ついに、ここまできたか!」
ハリー様は満足そうに鼻をならす。
その隣でジェニー嬢は、首をかしげて不思議そうにしている。
「半年後の新年明けに、3日間の日程で予定されています。早速、曲の選定にかかりましょう!」
さすがのクリス様も、頬を紅潮させて興奮気味だ。
「ん~~。お前ら二人に任せるよ。ジェニーと夏はクレル島にバカンスの予定だし、年末はアッケド山にスキーに行く予定なんだ」
「そんな……!」
「大丈夫、大丈夫。いつもみたいにお前らで決めておいてくれたら、僕はちゃんとやるし。今までも失敗したことないだろ?」
「ブラクトンホールですよ!? 今までと違って耳の肥えた紳士淑女が、聴きに来るんですよ? 誤魔化しは効きません!」
「とにかく任せたから! 僕はバカンスの準備で忙しいんだ」
そう言ってジェニー嬢を抱きしめながら、音楽室を出て行ってしまった。
そうしてその2日後、ハリー様たちは本当にバカンスに行ってしまった。
そして結局、3カ月も帰ってこなかったのだ。