【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
41 アースキン伯爵令嬢、ミュリエルの過去①
私はアースキン伯爵家の一人娘、ミュリエル・アースキン。
お母さまは周りに厳しく苛烈な人だが、私にはとても優しい素敵な方。
お父さまは気弱で優しく、私に甘い。
それは母が嫡女で父は入り婿だったからで、伯爵家の決定権は母にあり胸を張り屋敷を采配するその姿は、一人娘の私の将来の手本となる姿だ。
私の不幸の始まりは、ピアノ教師だったクレバー夫人に、叱責されたその日からだった。
クレバー夫人は音楽の造詣が深く、一流のピアノ教師として王家にも認められ、教示を受ける事は社交界のステータスとなっていた。生徒になりたいと貴族子女が順番待ちをしており、私もようやく先月から教えて頂ける事になったのだ。
現在、周辺諸国は実に平和で戦争など、ここ300年起こっていない。
なので貴族の関心は、産業や美術、芸術に向いており、特に今は音楽を修める事が人気となっている。貴族なら楽器を流暢に奏でるのは当たり前だし、それが結婚の条件にもなるほどだ。特に女性はより高い身分の貴族との結婚を目指して、その練習に躍起になっている。
そして、楽器の中でもヴァイオリンとピアノは高価なため、高位貴族の嗜みとして一目を置かれており、私も幼少の頃からピアノの教師を付けられていた。
だが、その日は練習不足でろくに弾くことができず、クレバー夫人に叱られてしまったのだ。
だって、仕方ないでしょ?
算数の宿題を貯めちゃったから、やらなきゃいけなかったし、来週は公爵家のお茶会に呼ばれているから、ドレスも選ばなきゃいけなかったし、サーカスが来ているから見に行かなきゃいけなかったし、あぁその前に活動写真も見に行ったわ、あれは面白かった……貴族令嬢として、無様な事はできないし流行にも遅れちゃいけないもの!
泣き真似して謝ったけれど、クレバー夫人は許してくれなくて、お母さまに告げ口に行ってしまったのを急いで追いかけた。
「ごめんなさい」
「何のためにクレバー夫人に来て頂いたと思っているの! ピアノ発表会で高位貴族の方に見初めて頂くためでしょう!」
クレバー夫人の生徒は高位貴族の子弟が多い。
発表会にはその親たちが聴きに来る。
だから、お母さまは私をどうしても発表会に出させたいのだ。
お母さまの言葉を聞いたクレバー夫人は立ち上がり玄関へと向かう。
「そのような邪な理由でピアノに向かわれているのでしたら、私にお教えすることは何もありませんわ」
お母さまは必死でクレバー夫人を引き留めようとするが、彼女は振り切って玄関を開けようとする。
その時、ピアノの音が聞こえた。
「このピアノはどなたが弾いていらっしゃるの?」
次の日から屈辱の日々が始まった。
クレバー夫人が教示を続ける条件として、メイドのオリヴィアにも一緒にレッスンを受けさせることになったのだ。
憎たらしいことにオリヴィアは、息をするようにスラスラと弾いてくる。
無表情で、さも当たり前かのように弾くその姿に、腹が立って仕方がない。
だから、料理長に命令して食事を与えないようにしてやったわ。ふらふらして、鍵盤もろくに叩けなくなってんだから、ざまあみろよね。
でもそんな事くらいではなんの気晴らしにもならなかった。
日に日にオリヴィアとの才能の差を見せつけられて、私はピアノが大嫌いになった。
「お前のせいでわたくしはピアノが嫌いになったわ! お前がわたくしからピアノを奪ったのよ!」
お母さまにピアノを辞めたいと言っても、発表会までは辞めさせてもらえない。
「お前なんていなくなちゃえ!」
オリヴィアがいなければ、こんな惨めな気分にならなかった!
お母さまは周りに厳しく苛烈な人だが、私にはとても優しい素敵な方。
お父さまは気弱で優しく、私に甘い。
それは母が嫡女で父は入り婿だったからで、伯爵家の決定権は母にあり胸を張り屋敷を采配するその姿は、一人娘の私の将来の手本となる姿だ。
私の不幸の始まりは、ピアノ教師だったクレバー夫人に、叱責されたその日からだった。
クレバー夫人は音楽の造詣が深く、一流のピアノ教師として王家にも認められ、教示を受ける事は社交界のステータスとなっていた。生徒になりたいと貴族子女が順番待ちをしており、私もようやく先月から教えて頂ける事になったのだ。
現在、周辺諸国は実に平和で戦争など、ここ300年起こっていない。
なので貴族の関心は、産業や美術、芸術に向いており、特に今は音楽を修める事が人気となっている。貴族なら楽器を流暢に奏でるのは当たり前だし、それが結婚の条件にもなるほどだ。特に女性はより高い身分の貴族との結婚を目指して、その練習に躍起になっている。
そして、楽器の中でもヴァイオリンとピアノは高価なため、高位貴族の嗜みとして一目を置かれており、私も幼少の頃からピアノの教師を付けられていた。
だが、その日は練習不足でろくに弾くことができず、クレバー夫人に叱られてしまったのだ。
だって、仕方ないでしょ?
算数の宿題を貯めちゃったから、やらなきゃいけなかったし、来週は公爵家のお茶会に呼ばれているから、ドレスも選ばなきゃいけなかったし、サーカスが来ているから見に行かなきゃいけなかったし、あぁその前に活動写真も見に行ったわ、あれは面白かった……貴族令嬢として、無様な事はできないし流行にも遅れちゃいけないもの!
泣き真似して謝ったけれど、クレバー夫人は許してくれなくて、お母さまに告げ口に行ってしまったのを急いで追いかけた。
「ごめんなさい」
「何のためにクレバー夫人に来て頂いたと思っているの! ピアノ発表会で高位貴族の方に見初めて頂くためでしょう!」
クレバー夫人の生徒は高位貴族の子弟が多い。
発表会にはその親たちが聴きに来る。
だから、お母さまは私をどうしても発表会に出させたいのだ。
お母さまの言葉を聞いたクレバー夫人は立ち上がり玄関へと向かう。
「そのような邪な理由でピアノに向かわれているのでしたら、私にお教えすることは何もありませんわ」
お母さまは必死でクレバー夫人を引き留めようとするが、彼女は振り切って玄関を開けようとする。
その時、ピアノの音が聞こえた。
「このピアノはどなたが弾いていらっしゃるの?」
次の日から屈辱の日々が始まった。
クレバー夫人が教示を続ける条件として、メイドのオリヴィアにも一緒にレッスンを受けさせることになったのだ。
憎たらしいことにオリヴィアは、息をするようにスラスラと弾いてくる。
無表情で、さも当たり前かのように弾くその姿に、腹が立って仕方がない。
だから、料理長に命令して食事を与えないようにしてやったわ。ふらふらして、鍵盤もろくに叩けなくなってんだから、ざまあみろよね。
でもそんな事くらいではなんの気晴らしにもならなかった。
日に日にオリヴィアとの才能の差を見せつけられて、私はピアノが大嫌いになった。
「お前のせいでわたくしはピアノが嫌いになったわ! お前がわたくしからピアノを奪ったのよ!」
お母さまにピアノを辞めたいと言っても、発表会までは辞めさせてもらえない。
「お前なんていなくなちゃえ!」
オリヴィアがいなければ、こんな惨めな気分にならなかった!