【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
40 お飾りの妻の私と、真の解放
朝になるとクリス様は辻馬車を呼び、私をキャンベル公爵様がいる領地まで連れて行った。
突然の訪問に公爵様は大層驚かれていたが、歓待していただけた。
私はクリス様に「酷い顔色です。休んで下さい」と客間に案内され、次の日もただ寛ぐばかりだったが、クリス様と公爵様は何やら真剣にお話をされていた。
そしてその2日後、私は豪奢な公爵家の馬車に乗せられ、隣国の病院に入院することになった。
次の日に右手の手術が行われ、麻酔が覚めたころ、お医者様に言われた。
「手術は成功しました。あとはリハビリを頑張れば、元のように動くようになりますよ」
その言葉を一緒に聞いていたクリス様は、大きな安堵のため息を吐き
「良かったですね」と優しく微笑んだ。
すっかり毒気を抜かれたような、少し寂しそうな笑顔だった。
そして、その日からクリス様は私の前からいなくなった。
退院後はハリー様のいる王都のタウンハウスに戻ることはなく、領地の公爵邸で暮らすことになった。
公爵様はとても優しくして下さり、リハビリ専門の医師も常駐させて下さった。そのお陰で私の右手すっかり元の状態に戻り、ピアノも弾けるようになった。
そして完治した頃、つまり手術から4カ月ほど過ぎた頃、公爵様から2枚の紙を渡された。
それを見て思う。かつてハリー様と結婚した時のようだと……
しかし、その内容はすべて真逆のもの。
1枚はハリー様との離婚届だった。
「これにサインをしなさい。そうすれば君は自由になる」
2枚目は私の実家、アースキン伯爵家との絶縁状だった。
「こっちにもサインを。これで君は天涯孤独、貴族籍を抜け平民となるが、君を利用し、搾取するものと縁が切れる」
迷わずサインした。
こんなに簡単に解放されるんだと安堵の息を吐くと、次に気になるのはクリス様のこと。
一生私の右手になると言ったのに、手術が成功したらあっさりいなくなるなんて……やっぱり彼もその程度の人だったんだと思うと胸がきしむように痛い。
それなら私は右手なんて……
「クリスは頑張っているよ。君のために」
はじけるように私が顔を上げると、公爵様が話を続ける。
「君はピアニストとして成功するんだ。それが彼の望みだからね。平民になった君を私がパトロンとして支えよう。真のパトロンは今、手が離せないからね」
「真のパトロン……」
それは彼なんだろうか。
「そして君は、そろそろここを旅立つ時だ。毎日私は大音楽家のピアノが聴けて、非常に満足だったが……王都の一軒家を君のパトロンが用意したそうだ。君はそこで暮らしなさい」
一週間後、私は王都に戻った。
用意されていた一軒家は、周りを高い塀で囲まれた、小さな一軒家だった。
小さいと言っても公爵邸と比べたらと言う意味で、部屋数は12もあり、敷地の7割は庭になっていて、ガーデンパーティーが行えそうな規模だ。
しかもその庭は、大きな木々が生い茂り、季節の花々が咲き誇る、私の大好きな自然あふれるもので、あまりに美しいその光景にここが『私の庭』になるのかと興奮してしまう。
さらに1階のサロンにはピアノが置いてあり……
「ウォルドグレイヴのピアノ!」
そうハリー様のお屋敷にあった、あの名工のピアノがそこにあった。
嬉しくなって軽く手慣らしで弾いていると、そこに一人の女性があらわれた。
「クレバー夫人!」
「オリヴィア様お久しぶりです。あぁなんて美しい女性に成長されたんでしょう!」
クレバー夫人は私を抱きしめ、涙を流された。
「心配していたんですよ。アースキン伯爵家で替え玉をさせられていたかと思ったら、急に姿を消して……」
「貴女がいなくなったあとの、アースキン家がどうなったかご存じ?」
突然の訪問に公爵様は大層驚かれていたが、歓待していただけた。
私はクリス様に「酷い顔色です。休んで下さい」と客間に案内され、次の日もただ寛ぐばかりだったが、クリス様と公爵様は何やら真剣にお話をされていた。
そしてその2日後、私は豪奢な公爵家の馬車に乗せられ、隣国の病院に入院することになった。
次の日に右手の手術が行われ、麻酔が覚めたころ、お医者様に言われた。
「手術は成功しました。あとはリハビリを頑張れば、元のように動くようになりますよ」
その言葉を一緒に聞いていたクリス様は、大きな安堵のため息を吐き
「良かったですね」と優しく微笑んだ。
すっかり毒気を抜かれたような、少し寂しそうな笑顔だった。
そして、その日からクリス様は私の前からいなくなった。
退院後はハリー様のいる王都のタウンハウスに戻ることはなく、領地の公爵邸で暮らすことになった。
公爵様はとても優しくして下さり、リハビリ専門の医師も常駐させて下さった。そのお陰で私の右手すっかり元の状態に戻り、ピアノも弾けるようになった。
そして完治した頃、つまり手術から4カ月ほど過ぎた頃、公爵様から2枚の紙を渡された。
それを見て思う。かつてハリー様と結婚した時のようだと……
しかし、その内容はすべて真逆のもの。
1枚はハリー様との離婚届だった。
「これにサインをしなさい。そうすれば君は自由になる」
2枚目は私の実家、アースキン伯爵家との絶縁状だった。
「こっちにもサインを。これで君は天涯孤独、貴族籍を抜け平民となるが、君を利用し、搾取するものと縁が切れる」
迷わずサインした。
こんなに簡単に解放されるんだと安堵の息を吐くと、次に気になるのはクリス様のこと。
一生私の右手になると言ったのに、手術が成功したらあっさりいなくなるなんて……やっぱり彼もその程度の人だったんだと思うと胸がきしむように痛い。
それなら私は右手なんて……
「クリスは頑張っているよ。君のために」
はじけるように私が顔を上げると、公爵様が話を続ける。
「君はピアニストとして成功するんだ。それが彼の望みだからね。平民になった君を私がパトロンとして支えよう。真のパトロンは今、手が離せないからね」
「真のパトロン……」
それは彼なんだろうか。
「そして君は、そろそろここを旅立つ時だ。毎日私は大音楽家のピアノが聴けて、非常に満足だったが……王都の一軒家を君のパトロンが用意したそうだ。君はそこで暮らしなさい」
一週間後、私は王都に戻った。
用意されていた一軒家は、周りを高い塀で囲まれた、小さな一軒家だった。
小さいと言っても公爵邸と比べたらと言う意味で、部屋数は12もあり、敷地の7割は庭になっていて、ガーデンパーティーが行えそうな規模だ。
しかもその庭は、大きな木々が生い茂り、季節の花々が咲き誇る、私の大好きな自然あふれるもので、あまりに美しいその光景にここが『私の庭』になるのかと興奮してしまう。
さらに1階のサロンにはピアノが置いてあり……
「ウォルドグレイヴのピアノ!」
そうハリー様のお屋敷にあった、あの名工のピアノがそこにあった。
嬉しくなって軽く手慣らしで弾いていると、そこに一人の女性があらわれた。
「クレバー夫人!」
「オリヴィア様お久しぶりです。あぁなんて美しい女性に成長されたんでしょう!」
クレバー夫人は私を抱きしめ、涙を流された。
「心配していたんですよ。アースキン伯爵家で替え玉をさせられていたかと思ったら、急に姿を消して……」
「貴女がいなくなったあとの、アースキン家がどうなったかご存じ?」