【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
56 キャンベル公爵令嬢、シャーロットから見た父母【本編 終】
今日は母の勲章授与の凱旋コンサートの最終日。
打ち上げとして家族3人で~赤ちゃんの弟はもう寝てる~パーティーをする予定だった。
「お父さまとお母さまは?」
がらんとしたダイニングルームでこの公爵家の長女である私、シャーロットが尋ねる。
「……お二人ともお疲れのようで、もうお休みになるそうです」
メイドがものすごーく言いにくそうに、答えてくれる。
「貴女から見て二人はどうだった? 何とかなりそうだった?」
「はい! それはもう~~!」
言葉の最後にハートマークが見えるわ。
「はあああ~やっと気持ちをぶつけ合ったのね」
本当に面倒くさい夫婦。
お父さまはお母さまを常に一線引いて、まるで女王様のように下にも置かない扱いをしながらも、常にお母さまから目を離さない。
お母さまはお母さまで、お父さまに話しかけられたら、無表情なのに真っ赤になって答えてるんだもの。
だれがどう見ても相思相愛なのに、どうして本人たちは分かってないのかしら。
「この料理どうするの……」
ダイニングテーブルにはお祝いにと、シェフが張り切って作ったごちそうの数々。
「……おひとり分に盛り付け直して、お部屋にお持ちしましょうか」
「そうね。この広いダイニングで一人で食べるなんて、淋しすぎるわ。だからと言って部屋にこもって一人でごちそうを食べるのも惨めだし……貴女の分も用意して、私に付き合いなさい。二人で私の部屋でパーティーよ!」
やけくそになって、専属メイドを誘う。
「はい! お付き合いさせていただきます!」
あぁ~本当に大人って面倒くさい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
幼少期、充分な栄養を取れなかった母は、あまり身体が丈夫じゃなかった。
そんな母が倒れたのは、59才の春だった。
爵位はすでに弟のアーサーが継いでいて、父と母は王都の『春の庭』の屋敷で隠居生活をおくっていた。
うつらうつら眠る母の側で、父はよくピアノを弾いていた。
それがなかなかの腕前で正直驚いた。
すると父は「オーリーが元気な頃はよく連弾をしたんだよ。私の右手は彼女のものだからね」と笑った。
父が弾くのはいつも、母の大好きな曲である『春の庭』。
それを聴きながら、母は庭園を眺める……それが晩年の姿だった。
臨終は突然で、付き添っていたのは父だけだった。
父は「オーリーが最期に笑ってくれた! 笑ってくれた!」と泣き笑いで、駆け付けた私たちを迎えた。
偉大なる大音楽家(ヴィルトゥオーソ)の称号を持つ母の葬儀は盛大だった。
その後、父は引退したはずなのに急に事業を始め、周りが心配するほど仕事にのめり込んだ。そしてその無理がたたったのか、69才で母の元へ旅立った。
その父の晩年の収益で私は『春の庭』の屋敷を、母の記念館として改装し、一般公開した。
その記念館に今日は孫たちが遊びに来てくれた。
放り投げられた孫の鞄から、学校帰りだったのか教科書がこぼれ落ちる。
ふと、その中にあった音楽の教科書を手に取りページをめくると、そこには母の名前があった。
この記念館は母の功績を称えるもので、生前、母がコンサートで着たドレスや、靴、数々の写真、コンサートのプログラム、それにブロマイド~美女で有名だったので~や父が編曲した楽譜も展示してある。
国内の学校の校外学習の定番施設となっており、私は最後に残した父の遺産の使い道を「なんて素晴らしい有効活用! 母大好きな父は嬉しくて、あの世で泣いて私に感謝してるに違いない!」と自画自賛している。
サロンにはウォルドグレイヴのピアノもあり、週末にはミニコンサートも開かれる。
記念館の庭は今、春まっさかり。
木々は青々と茂り、その影は絶えず形を変え、まるで踊っているかのような……あれはバックダンサーかしら。
色とりどりの花々はあざやかに咲き誇り、風にゆれるその姿はコーラスガールね。
そこに右から左からと、蝶たちがパタパタと飛んできて、その愛らしい姿はメインダンサー。
ぶーんぶーんと飛び交うミツバチの羽音はバックミュージックって感じ。
そして遠くから聞こえるのは孫たちの笑い声、それが今日のメインボーカル。
それは、まるで天からの歌声のように、私には聞こえた。
打ち上げとして家族3人で~赤ちゃんの弟はもう寝てる~パーティーをする予定だった。
「お父さまとお母さまは?」
がらんとしたダイニングルームでこの公爵家の長女である私、シャーロットが尋ねる。
「……お二人ともお疲れのようで、もうお休みになるそうです」
メイドがものすごーく言いにくそうに、答えてくれる。
「貴女から見て二人はどうだった? 何とかなりそうだった?」
「はい! それはもう~~!」
言葉の最後にハートマークが見えるわ。
「はあああ~やっと気持ちをぶつけ合ったのね」
本当に面倒くさい夫婦。
お父さまはお母さまを常に一線引いて、まるで女王様のように下にも置かない扱いをしながらも、常にお母さまから目を離さない。
お母さまはお母さまで、お父さまに話しかけられたら、無表情なのに真っ赤になって答えてるんだもの。
だれがどう見ても相思相愛なのに、どうして本人たちは分かってないのかしら。
「この料理どうするの……」
ダイニングテーブルにはお祝いにと、シェフが張り切って作ったごちそうの数々。
「……おひとり分に盛り付け直して、お部屋にお持ちしましょうか」
「そうね。この広いダイニングで一人で食べるなんて、淋しすぎるわ。だからと言って部屋にこもって一人でごちそうを食べるのも惨めだし……貴女の分も用意して、私に付き合いなさい。二人で私の部屋でパーティーよ!」
やけくそになって、専属メイドを誘う。
「はい! お付き合いさせていただきます!」
あぁ~本当に大人って面倒くさい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
幼少期、充分な栄養を取れなかった母は、あまり身体が丈夫じゃなかった。
そんな母が倒れたのは、59才の春だった。
爵位はすでに弟のアーサーが継いでいて、父と母は王都の『春の庭』の屋敷で隠居生活をおくっていた。
うつらうつら眠る母の側で、父はよくピアノを弾いていた。
それがなかなかの腕前で正直驚いた。
すると父は「オーリーが元気な頃はよく連弾をしたんだよ。私の右手は彼女のものだからね」と笑った。
父が弾くのはいつも、母の大好きな曲である『春の庭』。
それを聴きながら、母は庭園を眺める……それが晩年の姿だった。
臨終は突然で、付き添っていたのは父だけだった。
父は「オーリーが最期に笑ってくれた! 笑ってくれた!」と泣き笑いで、駆け付けた私たちを迎えた。
偉大なる大音楽家(ヴィルトゥオーソ)の称号を持つ母の葬儀は盛大だった。
その後、父は引退したはずなのに急に事業を始め、周りが心配するほど仕事にのめり込んだ。そしてその無理がたたったのか、69才で母の元へ旅立った。
その父の晩年の収益で私は『春の庭』の屋敷を、母の記念館として改装し、一般公開した。
その記念館に今日は孫たちが遊びに来てくれた。
放り投げられた孫の鞄から、学校帰りだったのか教科書がこぼれ落ちる。
ふと、その中にあった音楽の教科書を手に取りページをめくると、そこには母の名前があった。
この記念館は母の功績を称えるもので、生前、母がコンサートで着たドレスや、靴、数々の写真、コンサートのプログラム、それにブロマイド~美女で有名だったので~や父が編曲した楽譜も展示してある。
国内の学校の校外学習の定番施設となっており、私は最後に残した父の遺産の使い道を「なんて素晴らしい有効活用! 母大好きな父は嬉しくて、あの世で泣いて私に感謝してるに違いない!」と自画自賛している。
サロンにはウォルドグレイヴのピアノもあり、週末にはミニコンサートも開かれる。
記念館の庭は今、春まっさかり。
木々は青々と茂り、その影は絶えず形を変え、まるで踊っているかのような……あれはバックダンサーかしら。
色とりどりの花々はあざやかに咲き誇り、風にゆれるその姿はコーラスガールね。
そこに右から左からと、蝶たちがパタパタと飛んできて、その愛らしい姿はメインダンサー。
ぶーんぶーんと飛び交うミツバチの羽音はバックミュージックって感じ。
そして遠くから聞こえるのは孫たちの笑い声、それが今日のメインボーカル。
それは、まるで天からの歌声のように、私には聞こえた。