【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

【番外編】 新婚の私と、クリス様との初夜事情⑥

 次の日、私は上機嫌だった。まさに天にも昇るというのはこんな気持ちなのかと、顔のにやにやが止まらない。

「旦那様、今日はよくお召し上がりで……」

 執事が私の朝食の食べっぷりを見て、呆れた声を出す。

「昨日は頑張ったからね」

 もちろん夜会に、ではない。
 もう9時半になるが、オリヴィアはまだ眠っている。


 昨日は本当に素晴らしい夜だった。
 私も経験はそれなりにあるが、愛する女性との行為はここまで違うのかと……なんて思うとまたソコが熱くなってきた。


 オリヴィアは閨を楽しむのをためらっていたが、何とか説得できた。
 自分の口の上手さに、自分で自分を褒め称えたい! 
 勿論、言ったことは心からの言葉だが、正直私は『ヤリたくて』必死だった。

 軽蔑するか?

 でも愛する女性が他の女に嫉妬して、怖がりながらも歩み寄ってきたんだぞ? 
 こんな可愛い事されたら、男ならどんな手段を使ったって最後まで突っ走るでしょう!


「無体なことはされてませんよね?」

 この執事には、結婚式のあと初夜をすませなかった事を知られてしまい、仕方がないからオリヴィアの生い立ちを説明したのだ。

「もちろん! 丁寧に優しく……子どもの頃のトラウマを刺激しないように…」


 がたん!


 食堂のドアの向こうにオリヴィアの姿が見える。

 その顔色は青を通り越して真っ白だ。

「オリ……」

 この状況はかつての、ハリーとの会話を聞かれた時とまるで同じじゃないか!
 オリヴィアが踵を返し、走り去っていく。

「待って!」


 ガチャン!

 私は手にしていたカトラリーを落とすとそれが皿に当たり、その勢いで皿がひっくり返り料理が私の腹にぶちまけられる。

「待って下さい! オリヴィア!」

 あぁ前はこの後どうなった?

 血の気が引いた私は、4階まで階段を駆け上がった。





「はぁ、はぁ、はぁ」

 ツタに絡まれた木々をかき分け、緑のカーテンの奥に進む。低木が生い茂る場所に潜り込み、見つからないようにその身を抱え込み小さくする。

「ふぅ、ふぅう、うっうっうっ」

 涙がぼろぼろとこぼれる。見つかりたくないから声は出せなくて、自分の手で自分の口をふさぐ。


 クリス様は私の全てを知っていた。

 よく考えたら予想できたことなのに、どうして思い至らなかったのだろう。
 クリス様は私を利用するために、母のことや生い立ちも、私が何の後ろ盾もない虐待児だと調べていたんだから。

 母が娼婦だったのもご存じだろうし……
 私がアースキン家で使用人の男たちの、性のおもちゃにされていたのを、始めからご存じだったのだ。

『焦らなくて良い』って言ってくれたのは、ハリー様の暴行をおもんばかって下さったのかと思っていたけれど……

 マティルダ様は言っていたな。
『こんな行為を喜んでいるお前はもう充分汚れているのよ! キズものなの!』

 だから、殊更『気持ちいいこと』は良い事だと言っておられたのかな。




「はぁ!はぁ!はぁ!」
 ドタドタと何人もの足音が響く。

「はぁ、もう、はぁ、お前らは下がっていい。手間をかけた。すまないが二人にしてくれ」

 クリス様の言葉に、使用人たちが草を踏みしめる音が遠ざかった。
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