【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~

【愛読御礼番外編】公爵令息アーサーの憂鬱①

なろう様で注目度ランキングで7位になり、嬉しさのあまりまたまた番外編を投下させていただきます( ´艸`)
読んで下さった皆様、本当にありがとうございます!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 父はクリス・キャンベル公爵。
 母は大音楽家(ヴィルトゥオーソ)として有名なオリヴィア・キャンベル公爵夫人。
 4才上の姉、シャーロット・キャンベルは、『黒曜石の姫君』や『黒薔薇』なんて通り名で呼ばれる、貴公子たち垂涎の的の美貌の令嬢。僕にはただ口の悪い、剛健な女としか思えないけど……

 この国では女性は爵位が継げないので、次期キャンベル公爵は僕だと言われている。



 僕は父譲りの高性能な記憶力を持っており、幼少から勉学が大好きだ。
 物理学、数学が特に好きで、つい最近までは大学教授を公爵邸まで招へいし、学んでいた。
 だから、このまま屋敷で一流の教育を受け、15才になったら隣国アーリア帝国の国立大学に入学するつもりだった。
 アーリア帝国は我が国より強国で、文化的にも進んでおり学術レベルも高く、その大学には世界中から留学生がやってきている。

 そんな人生設計を立てていたのに、突然、父上に10才で国内の中等学院に放り込まれてしまった。


 中等学院の一般的な入学年齢は12才。
 だから、早期入学制度を利用して10才で入学した僕のクラスには年上しかいないけど……みんな●カばっか!

 教師も教師で、僕が説明の間違いを指摘したら迷惑そうにあしらわれ、次の授業から無視してくるようになったし、質問をしたら、ろくな答えられない程度の低さで辟易した。

「こんな学校に通う意味なんかない!」そう父上に抗議したのだが
「意味はあるよ。私もきちんと高等学院まで通った。必ず将来の役に立つ」そう言われて受け流される。

 腹が立って登校しなかったら、大学教授たちが屋敷(うち)に来なくなった。

「今まで通りの大学レベルの教育を受けたいなら、中等学院に行きなさい。そうすれば、土日は教授を呼んでやろう」
 そう父上に言われては、渋々通うしかなかった。




 登校すると、掲示板にテスト結果が張り出されていた。
 どうやら休んでいる間にテストがあったらしい。

「アン・エリザベス・イリス……」
 1位の成績によく知る名前があった。

「彼女が1位!? 勉強が得意だとは、聞いていないが」

 アン・エリザベス・イリスは我が国の王太子の第3王女であり、幼少から決められた僕の婚約者だ。

 わがキャンベル公爵家は王弟の血筋にあたるので、小さな頃はよく王宮にも遊びに行っていた。
 それで2つ年上のアンと何回か遊んだら、知らぬうちに婚約が成立していたのだ。
 僕が成人したらアンはうちに降嫁してくる予定である。

「点数上位者の掲示に、アーサーの名前がないなんてどういう事なの?」
 興味を失い教室にむかう僕に、そのアンが声をかけてきた。

「アン……王女殿下。ご無沙汰しております」

 そういえば、この前のお茶会もすっぽかしたな~と思い出し、気まずくて笑顔が引きつった。


 1カ月に一度、高位貴族の子弟を集めて王宮でお茶会が催される。

 ピーチクパーチク騒ぎ立てる女子に、庭を走り回る男子。
 あまりにも幼稚なその会が時間のムダに思えて、僕は8割方欠席している。

「貴方は前回も今回も、テストを受けていないの?」

 前回? 
 あぁ~クラス分けのテストね。確かに面倒で受けてなかったな。
 クラスはAからDまである。
 アンはAクラスだからそこが一番優秀なのか……という事は僕のいるDクラスは――――どうりで●カばっかりだった訳だ。

「えぇ、少し体調を崩しまして休んでおりました」

「今はもう大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です」
 アンのエメラルドの瞳を見つめ、にっこりと笑ってみせた。

 とたんにアンの頬が赤く染まる。

 アンは昔から僕の容姿が好きだ。
 母上ゆずりの銀髪に紫水晶の瞳、色白で細身なこの姿は女子受けが良い。
 対して男子には侮られるばかりだが……剣術や格闘技の稽古を始めて5年になるし、父上の子どもの頃とよく似てると言われているから、いずれ大柄になるはずだ、たぶん。

「良かったわ」
 そう言ってアンはプクプクの手を胸に当てる。

 プクプク……
 アンは僕より身長が高いうえに、横幅は2倍以上ある。
 ブルネットの髪は王女らしく手入れが行き届いているが、パンパンに膨らんだ顔には肉に埋もれて小さくなった目や口、鼻にも肉がついているのかまん丸だ。

「王女殿下、お急ぎにならないと……」
 始業時間が迫り、侍女が促す。

「じゃあ、アーサーまたね」

「はい。御前失礼いたします」




 死ぬほど退屈な授業がやっと終わった! 
 明日は土曜日、大学教授たちが来る日だ。
 最近の僕のマイブームは天文学。週末の授業内容にリクエストしているから楽しみだ!

「おぉっ!カマキリ少年が笑ってる」

「……」

「おおっ!睨んできたか~~。ねぇ、僕の事は覚えてる?」

 僕の記憶力を侮るな。
 こいつは王宮のお茶会のメンバーの一人だ。

「ベンティング侯爵令息…」

「ははっ覚えてくれてたんだ! そんな堅苦しい呼び方しないでよ。クラスメイトだろ?ローレンスって呼んでよ」

 いくら学院では身分を問わないとはいえ、筆頭公爵家の後継者の僕に馴れ馴れしく話しかけられるのは、アンとコイツくらいしかいない。
 しかしコイツ、Dクラスだったんだ。
 前々から思っていたけれど、やっぱり●カだったんだな。

「なに? なに? 不機嫌な顔をして~~そんな顔をしてるから、カマキリ少年なんて呼ばれるんだよ~~」

「なんでカマキリ……」

「いつも不機嫌そうで~~~その不機嫌を鎌みたいに周りにふるって、人を寄せ付けない年下少年だからなんだってさ。社交界では天使の顔を持つ天才少年として有名なのに、この落差はすごいねぇ~~」

「……」

「もう帰るの? ねぇ王宮のお茶会にも、もっと参加してよ。君とはもっと話したいなぁ」

 ●カの相手は時間のムダだ。無視をして教室を後にした。
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