【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
【愛読御礼番外編】公爵令息アーサーの憂鬱②
次の月、またテストがあり今度はきちんと受けた。
「おおっ! さすが天才少年!」
貼りだされたテスト結果を見てベンティング侯爵令息――ローレンスが僕の肩をたたいた。
結果は僕が1位、アンは5位になっていた。
もちろんローレンスの名はない。
1位ではあるが非常に不本意な点数だ。
「国語が87点……」
総合900点満点なのに887点。他は満点なのに国語のせいで……!
「へぇ~国語は苦手なんだ。その点数は僕と変わんないや」
いや、お前は他が30~40点台だろう? 一緒にするな!
しかし、初めて知った。
僕は国語能力が低いんだ……!
返された答案用紙を見てチェックする。
単語や文法を覚えるのは簡単だから答えは完璧だ。
説明文の内容は正確に理解できている。
普段から論文や学術書を読んでるから当然だ。
しかし物語文は……なんだこの『この時の主人公の気持ちを述べなさい』って設問は! はっきり『×××の気持ちだった』なんて文章はどこにもないのに、どこから答えを引っ張ってくるんだ。
くそ!
これだから小説とかは嫌いなんだ!
はっきりと心情が書かれてないのに、その人物の生い立ちや状況をおもんばかって読み解かなきゃいけない。
そんなものを夢中になって読んで、いつも「きゅんきゅんする~~」って感動している姉上が理解できない。
数学や物理学のように、はっきり答えを示せ!
ピンチには的確に即時対応しろ!
悩んでグジグジグジグジ……で相手の罠にはまってワタワタワタ、読んでるこっちがイライライラ~~~全く共感できないから、その内容が頭に入ってこない!
昼休み、食事を終えたら暇だったので図書室に向かった。
だがしょせん中等学院……大して興味を引く書籍はなく、背表紙を撫でながら歩いていたら、机に座っているアンを見つけた。
何をしているのかと脇からそっと覗くと、彼女は数学の勉強をしていた。
「昼休みにまで勉強ですか?」
そう声をかけたら、彼女は真っ赤になり教科書とノートを上半身で隠した。
「あ…あの…5位まで落ちちゃったから…」
王女で5位。
歴代王族では稀にみる成績優秀者ではないだろうか。
「あ、アーサーはさすがね! 2位とは総合で10点も差がついていたわよね」
あの国語の成績を思い出し、ムッとする。
国語をこの世から消し去りたい。
静かな図書館では、周りの小さな声も耳が拾う。
「あ、キャンベル公爵令息よ」
「わ~きれいな顔をしてるわね。将来、父親の公爵みたいなイケメンになりそう」
「でも婚約者があのブクブク王女でしょ?」
図書室の隅に座る二人の女生徒は小声で喋っているから、自分たちの声が周りに聞こえていないと思っているのだろう。
「押し付けられたんじゃない? あの容姿じゃ他国に嫁入りも難しいでしょ」
「ふふふ、あんな美少年の側にいてあの体形、恥ずかしくないのかしら……」
「ここの計算、間違ってますよ!」
真っ青になって縮こまっているアンの、身体からはみ出たノートの1行を指さす。
「あ…そうなの? ごめんなさい」
「謝る必要なんてありません」
何故か無性に腹が立った。
その相手は中傷した彼女たちなのか、縮こまり言われっぱなしのアンなのか、僕にはよく分からなかった。
次の月のテストも僕は1位だったが、やはり国語は…
「88点……」
あれから国語の点を上げるため、姉上の部屋に行って小説を借りた。
内容は悪役令嬢やら、性格の悪い聖女やら、騙され易い無能王子やらのモタモタした恋愛小説ばかりで、ひたすら読むのが苦痛だった。
そんな努力をしたのに、1点しか上がっていないとか有り得ない!
「わ~アーサー、数学また100点!? ねぇねぇ数学教えてくれよぉ~俺ヤバいんだぁ~」
後ろから抱き着いてくるローレンスがうっとおしい。
だが視界に入ったヤツの答案に絶句した。
「16点…」
貴族令息は高等学院まで通うのが常識だ。ヤツは大丈夫なのか?
ローレンスの数学の勉強を見てやると、基礎からつまずいている事が分かった。
数学は積み重ねの学習だ。
基礎が出来ていないと、その先は全く理解できなくなる。
中途半端に誤魔化して学習してきたから、とうとう破綻してしまったのだろう。
「これは僕が4才の頃使っていた問題集だ。これをひたすら解いてこい」
「え~? 困るよぉ~僕は即、成績を上げたいんだ」
「アホか。数学に近道はない。言う通りにすれば40は取れる」
この学院のテスト内容は基礎4割、応用5割、難問(僕には笑うような問題だが)1割だ。基礎に絞ればそこそこの点は取れるはずだ。
だが、思った以上に難航した。
何度説明しても理解してくれない。
1週間もこんな感じで、もう匙を投げようかと思っていたら……先にキレたのはローレンスだった。
「何言ってるか分かんないよ!」
「お前は察しが悪い!」
「もっと丁寧に説明してよ! どうしてこの式がこんな式に変化しちゃうの?」
「それはこの間に式があって、それを省略しているんだ」
「省略しないでよ~僕に分かるようにその式も書いてよ!」
イライライラ~~~
仕方なく、ながーい途中式も書きなぐってやる。
それをローレンスがたっぷり時間をかけて見つめた。
「あぁ~分かった! 分かったよ! そうか! この式がこうなって、この答えになるんだね!」
「お、おう」
「じゃあこれは? この式で~~これで合ってる?」
「……正解だ」
「はぁああああ~ありがとう! 分かった! やっと分かった! 数学って楽しいね! クイズみたいだ」
ローレンスが大はしゃぎで、僕に抱き着いてきた。
●カがようやく理解し、僕は安堵した。
と同時に感じたのは、奇妙な高揚感。
不可能を可能にしたようなこの達成感……これはなんだ?
「おおっ! さすが天才少年!」
貼りだされたテスト結果を見てベンティング侯爵令息――ローレンスが僕の肩をたたいた。
結果は僕が1位、アンは5位になっていた。
もちろんローレンスの名はない。
1位ではあるが非常に不本意な点数だ。
「国語が87点……」
総合900点満点なのに887点。他は満点なのに国語のせいで……!
「へぇ~国語は苦手なんだ。その点数は僕と変わんないや」
いや、お前は他が30~40点台だろう? 一緒にするな!
しかし、初めて知った。
僕は国語能力が低いんだ……!
返された答案用紙を見てチェックする。
単語や文法を覚えるのは簡単だから答えは完璧だ。
説明文の内容は正確に理解できている。
普段から論文や学術書を読んでるから当然だ。
しかし物語文は……なんだこの『この時の主人公の気持ちを述べなさい』って設問は! はっきり『×××の気持ちだった』なんて文章はどこにもないのに、どこから答えを引っ張ってくるんだ。
くそ!
これだから小説とかは嫌いなんだ!
はっきりと心情が書かれてないのに、その人物の生い立ちや状況をおもんばかって読み解かなきゃいけない。
そんなものを夢中になって読んで、いつも「きゅんきゅんする~~」って感動している姉上が理解できない。
数学や物理学のように、はっきり答えを示せ!
ピンチには的確に即時対応しろ!
悩んでグジグジグジグジ……で相手の罠にはまってワタワタワタ、読んでるこっちがイライライラ~~~全く共感できないから、その内容が頭に入ってこない!
昼休み、食事を終えたら暇だったので図書室に向かった。
だがしょせん中等学院……大して興味を引く書籍はなく、背表紙を撫でながら歩いていたら、机に座っているアンを見つけた。
何をしているのかと脇からそっと覗くと、彼女は数学の勉強をしていた。
「昼休みにまで勉強ですか?」
そう声をかけたら、彼女は真っ赤になり教科書とノートを上半身で隠した。
「あ…あの…5位まで落ちちゃったから…」
王女で5位。
歴代王族では稀にみる成績優秀者ではないだろうか。
「あ、アーサーはさすがね! 2位とは総合で10点も差がついていたわよね」
あの国語の成績を思い出し、ムッとする。
国語をこの世から消し去りたい。
静かな図書館では、周りの小さな声も耳が拾う。
「あ、キャンベル公爵令息よ」
「わ~きれいな顔をしてるわね。将来、父親の公爵みたいなイケメンになりそう」
「でも婚約者があのブクブク王女でしょ?」
図書室の隅に座る二人の女生徒は小声で喋っているから、自分たちの声が周りに聞こえていないと思っているのだろう。
「押し付けられたんじゃない? あの容姿じゃ他国に嫁入りも難しいでしょ」
「ふふふ、あんな美少年の側にいてあの体形、恥ずかしくないのかしら……」
「ここの計算、間違ってますよ!」
真っ青になって縮こまっているアンの、身体からはみ出たノートの1行を指さす。
「あ…そうなの? ごめんなさい」
「謝る必要なんてありません」
何故か無性に腹が立った。
その相手は中傷した彼女たちなのか、縮こまり言われっぱなしのアンなのか、僕にはよく分からなかった。
次の月のテストも僕は1位だったが、やはり国語は…
「88点……」
あれから国語の点を上げるため、姉上の部屋に行って小説を借りた。
内容は悪役令嬢やら、性格の悪い聖女やら、騙され易い無能王子やらのモタモタした恋愛小説ばかりで、ひたすら読むのが苦痛だった。
そんな努力をしたのに、1点しか上がっていないとか有り得ない!
「わ~アーサー、数学また100点!? ねぇねぇ数学教えてくれよぉ~俺ヤバいんだぁ~」
後ろから抱き着いてくるローレンスがうっとおしい。
だが視界に入ったヤツの答案に絶句した。
「16点…」
貴族令息は高等学院まで通うのが常識だ。ヤツは大丈夫なのか?
ローレンスの数学の勉強を見てやると、基礎からつまずいている事が分かった。
数学は積み重ねの学習だ。
基礎が出来ていないと、その先は全く理解できなくなる。
中途半端に誤魔化して学習してきたから、とうとう破綻してしまったのだろう。
「これは僕が4才の頃使っていた問題集だ。これをひたすら解いてこい」
「え~? 困るよぉ~僕は即、成績を上げたいんだ」
「アホか。数学に近道はない。言う通りにすれば40は取れる」
この学院のテスト内容は基礎4割、応用5割、難問(僕には笑うような問題だが)1割だ。基礎に絞ればそこそこの点は取れるはずだ。
だが、思った以上に難航した。
何度説明しても理解してくれない。
1週間もこんな感じで、もう匙を投げようかと思っていたら……先にキレたのはローレンスだった。
「何言ってるか分かんないよ!」
「お前は察しが悪い!」
「もっと丁寧に説明してよ! どうしてこの式がこんな式に変化しちゃうの?」
「それはこの間に式があって、それを省略しているんだ」
「省略しないでよ~僕に分かるようにその式も書いてよ!」
イライライラ~~~
仕方なく、ながーい途中式も書きなぐってやる。
それをローレンスがたっぷり時間をかけて見つめた。
「あぁ~分かった! 分かったよ! そうか! この式がこうなって、この答えになるんだね!」
「お、おう」
「じゃあこれは? この式で~~これで合ってる?」
「……正解だ」
「はぁああああ~ありがとう! 分かった! やっと分かった! 数学って楽しいね! クイズみたいだ」
ローレンスが大はしゃぎで、僕に抱き着いてきた。
●カがようやく理解し、僕は安堵した。
と同時に感じたのは、奇妙な高揚感。
不可能を可能にしたようなこの達成感……これはなんだ?