義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 *
 
「このままじゃ、律がダメになる……」

 宝堂ビルの休憩スペースで真子さんと向かい合ってランチを食べていたとき。
 気がついたら、心の声がそのまま口から漏れていた。
 
「えっ、リッくんがどうかしたの!?」
 
 私の目の前で、スマホを食い入るように見ていた真子さんが急に顔を上げた。

「いえ……なんでもないです」
「……そう?」

 真子さんは、特に気にする風でもなく、視線をスマホの画面に戻す。
 そこには、律の配信チャンネルが映っていた。「【手料理】誰かのために作ってみた」というショート動画のタイトルが見える。

「やっぱりリッくんって、なんでもできちゃう天才肌って感じがするわよね〜」

 真子さんは、スマホの画面を撫でながらうっとりしている。
 ああ、この料理……たしか昨日、律が私に食べさせてくれたやつだ……。真子さん、ファンの皆さん、ごめんなさい……。心の中で嘆き、懺悔する。

 そのとき、私の中でなにかが閃いた。
 
「真子さん、ちょっと質問なんですけど」
「うん、なに?」

 軽くおにぎりを口に運びながら、真子さんが首を傾げる。
 
「真子さんって、律とデートできたら……なんて思ったりします?」
「えっ、ええぇぇっ!?」

 真子さんが派手にガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
 その反応の速さと音の大きさに、周囲の職員までチラリとこちらを見る。
 
「いやっ、ちょ、っと待って! そりゃ、うれしいけど、デートって! 二人きりで!? 正気を保てる自信がないわ!」

 そう叫びながらも、真子さんは慌ててポーチから手鏡を取り出し、前髪を整え始める。
 自信がないと言いつつ、身だしなみのチェックは忘れないようだ。
 
(真子さん、律のこと、結構本気で好きなのかも……?)

 真子さんと律をくっつければ、姉離れできるんじゃない?
 二人きりが難しいなら、私が同席すればいい。デートというより、最初はグループで遊びに行く感じにすれば……。
 
(うん、いけるかもしれない)
 
 私は、心の中でぐっと拳を握った。

 
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