義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 *
 

 帰り道、律はずっと不機嫌だった。
 口をきいても、返事はぶっきらぼうで。歩くスピードも早くて、私が少し小走りしないと追いつけない。
 急に立ち止まって、律が低い声で言った。
 
「こういうの、やめてほしいんだけど」

 振り返りもせず、明らかに嫌そうな声。
 
「……で、でも、律だって真子さんと楽しそうだったじゃない? 意外とお似合い──なんて」
 
 軽口で場をなごませようとしたつもりだった。
 だけど、律は振り返って、冷めたように言い放った。
 
「なに言ってるの? あんなの、ファンサに決まってるじゃないか」
「ファンサ……」

 その言葉に、サッと心に影が落ちる。
 あのとびきりの笑顔も、全部サービスだったなんて。真子さん、本気で嬉しそうだったのに……。
 
(うう、真子さん、ごめんなさい……! 完全に私のせいで変な期待させちゃったかも……!)
 
 しゅんと肩を落とす私を見て、律は少しだけ黙った。夜風に髪が揺れる。
 やがて、頭をかきながら口を開いた。
 
「……わかったよ。少し、姉離れするから。──もう、二度としないで」
 
 その声が、いつもより少し落ち着いて聞こえて、私はほっと胸を撫でおろす。
 
(よかった……ちゃんと伝わったみたい……!)
 
 安心した、その矢先だった。
 
「でも、罰として今日は一緒に寝てもらうからね」
「………………え?」
 
 一瞬にして、言葉を失った。

「それくらい、いいでしょ? 姉弟なんだし」
 
 にこっと笑う律は、いつもの甘えん坊モードに戻っていた。

(……全っ然わかってなーーーーい!!!)
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