運命の契約書

第1話 雨の日の救世主

○外観 丸の内オフィス街 夕方

高層ビル群が立ち並ぶ丸の内。激しい雨が降りしきり、スーツ姿のサラリーマンたちが傘を差して足早に歩いている。街灯が雨に濡れたアスファルトを照らし、都会的で洗練された風景が広がる。

ナレーション(美優):「──雨の日のアルバイトは、いつも以上に大変だ」

雨粒を捉えながら、一軒の高級カフェ「カフェ・ルミエール」の看板にゆっくりとズームイン。



○カフェ・ルミエール店内 同時刻

落ち着いたジャズが流れる高級感ある内装。革張りのソファ、間接照明、重厚な木のテーブル。スーツ姿の客で店内は満席に近い状態。

モノローグ(美優):「でも、私には休んでいる暇なんてない」

横井美優(よこいみう)(21)、清楚な顔立ちながらどこか疲れた表情。白いブラウスに黒いエプロン、髪をきちんとまとめている。トレイを両手で持ち、慣れた様子で客席を回る。

モノローグ(美優):「母の治療費も、弟の学費も──私が稼がなきゃ」

美優の手元にアップ。少し震えている。


○同・カフェ店内 窓際の席

雨で曇ったガラス窓の向こうに、ぼんやりとしたネオンの光が見える。

客A(中年男性)がコーヒーカップに手を伸ばす。湯気が立ち上る。

美優、新しいオーダーを取るため客Aのテーブルに近づく。

美優:「失礼いたします。追加のご注文はいかがでしょうか?」

にこやかに微笑む美優。しかし客Aの表情は険しい。

客A(クレーマー)、突然テーブルを叩く。

効果音:バン!

客A:「おい! このコーヒー、ぬるいじゃないか!」

店内の他の客たちがざわめき、視線が一斉に集まる。美優の顔が青ざめる。

美優、慌てつつも丁寧に頭を下げる。

美優:「大変申し訳ございません。すぐに新しいものをお持ちいたします──」

客A、椅子から身を乗り出して美優を威嚇。

客A:「謝って済むと思ってるのか! 学生バイトのくせに生意気なんだよ! だから最近の若い奴らは──」

美優、悔しそうに唇を噛み、拳をぎゅっと握る。店内はさらにざわつき、他の客が不快そうに振り向く。

モノローグ(美優):「いつものこと……我慢するしかない……」


窓際の席から、ゆっくりと立ち上がる長身の男性のシルエット。

効果音:スッ

神埼蓮(かんざきれん)(28)、180cm超の長身。黒いスーツを完璧に着こなし、整った顔立ちに冷ややかな瞳。オーラがあり、その場の空気を一変させる存在感。

蓮、クレーマーに静かに視線を向ける。その眼差しは氷のように冷たい。

蓮:「……その言い方は、あまりに品がないな」

低く響く声に、店内が静まり返る。

客A、苛立ちをあらわに振り返る。

客A:「なんだあんたは! 関係ないだろ!」

蓮、胸ポケットから高級な革の名刺入れを取り出し、名刺を差し出しながら。

蓮:「神崎グループ専務取締役、神崎蓮だ」

間を置いて、さらに冷たい声で続ける。

蓮:「──あなたのような取引相手を侮辱する態度は、到底見過ごせない」



客A、名刺を見た瞬間、顔を青ざめさせる。

客A:「か、神崎グループの……!?」

慌てて立ち上がり、震え声で。

客A:「も、申し訳ありませんでした! つい、その……」

蓮は無表情のまま、ただじっと見つめている。

客A:「ひ、ひぃっ……失礼いたします!」

慌てて料金を置いて逃げるように立ち去る。


静まり返る店内。美優がぽかんと蓮を見つめる。

美優(心の声):(圧倒的な存在感……この人、いったい……?)

蓮、美優に向き直り、わずかに表情を和らげる。

蓮:「大丈夫ですか?」

美優、はっとして深くお辞儀。

美優:「あ、ありがとうございました! 本当に……」

蓮、小さくうなずく。

蓮:「気になさらず。当然のことをしただけです」



蓮、雨音が響く窓を背景に背を向けて歩き去る。その横顔は冷たくもどこか孤独。

モノローグ(美優):(あの人の後ろ姿に、なぜか寂しさを感じた……)

美優、蓮を見送りながら胸に手を当てる。

ナレーション(美優):「──これが、私と彼の運命の出会いだった」


美優がテーブルを片付けていると、床に落ちているものに気づく。

テーブルの下。黒い高級革の名刺入れがアップで映る。

美優、名刺入れを拾い上げる。驚いた表情で開いてみる。

美優:「あ……」

名刺には「神崎グループ専務取締役 神崎蓮」の文字。会社のロゴも高級感がある。

モノローグ(美優):(……神崎グループの専務取締役って、確か日本でもトップクラスの商社の……)

名刺を見つめる美優のアップ。瞳に迷いや好奇心、そして決意が浮かぶ。

モノローグ(美優):(この名刺、お返ししなきゃ……でも、私みたいな学生が、あんな立派な会社に行っても大丈夫なの?)

窓の外の雨が小降りになり始める。街灯の光が美優の横顔を優しく照らす。

美優、名刺を大切にエプロンのポケットに入れる。

ナレーション(美優):「社会的地位も、住む世界も違う──そう思っていた。でも、この瞬間から、私の運命は静かに動き出した」

窓の外は雨上がりの街並み。



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