運命の契約書
第2話 忘れられない名刺
○美優のアパート 寝室 深夜
6畳ほどの狭い部屋。古いベッドに美優が横になっているが、寝付けずに天井を見つめている。雨音が窓を叩く音が静かに響く。
モノローグ(美優):「あの人のこと、どうしても忘れられない……」
美優、枕元の小さなテーブルに置いてある名刺入れに手を伸ばす。
美優:「神崎蓮……」
名刺を見つめながら、昨日の出来事を思い返す。
○同・美優のアパート リビング兼キッチン 朝
質素だが清潔に保たれた部屋。美優が簡単な朝食(食パンとコーヒー)を取りながら、テーブルに広げた新聞の求人欄を見ている。
モノローグ(美優):「普通なら、こんな高級な名刺入れを落とした人のところなんて行かない。でも……」
美優、名刺入れを手に取る。
モノローグ(美優):「律儀に返すのが当たり前よね。お世話になったんだから」
鏡で身だしなみを整える美優。少し緊張した表情。
美優:「よし……行こう」
○外観 神崎グループ本社ビル 昼間
東京駅から程近い一等地に聳え立つ40階建ての超高層ビル。ガラス張りの近代的な外観で、入り口には「KANZAKI GROUP」の文字が金色に光っている。
美優、ビルを見上げて圧倒される。
美優:「すごい……こんなところで働いてるのね」
モノローグ(美優):「やっぱり私には場違いかも……」
スーツ姿のビジネスマンたちが颯爽と出入りする中、美優だけが普通の私服(清楚なブラウスとスカート)で明らかに浮いている。
○神崎グループビル 1階エントランス 同時刻
大理石の床に高い天井、巨大なシャンデリア。まるでホテルのような豪華なロビー。
美優、緊張しながら受付嬢に近づく。
受付嬢A(冷たい口調で):「はい、どちらさまでしょうか?」
美優:「あの、神崎専務にお渡ししたい物があるんですが……」
受付嬢A、美優の服装をジロジロ見て明らかに軽蔑の表情。
受付嬢A:「アポイントメントはお取りですか?」
美優:「え、いえ……その、落とし物を……」
受付嬢A:「アポイントのない方はお会いできません。お引き取りください」
美優、困った表情で名刺入れを見せる。
美優:「でも、これを落とされて……」
受付嬢A:「そのような物でしたら、こちらでお預かりしますので」
手を伸ばそうとする受付嬢。美優、とっさに名刺入れを胸に抱く。
美優:「い、いえ! 直接お渡ししたいんです!」
エレベーターから現れる上品な女性・田中秘書(35)。美優の声を聞いて振り返る。
田中:「どうかされましたか?」
受付嬢A:「田中秘書、この方が神崎専務にお会いしたいと言われるのですが、アポイントもなくて……」
田中、美優を見て何かを察する。
田中:「失礼ですが、お名前は?」
美優:「横井美優と申します。昨日、カフェ・ルミエールで……」
田中の表情が変わる。
田中:「もしかして、あの件の……。専務から伺っております。どうぞこちらへ」
受付嬢A、驚いた表情。
○神崎グループビル エレベーター内
豪華な内装のエレベーター。美優と田中が二人で上層階に向かう。
田中:「昨日は大変でしたね。専務が『勇敢な学生さんがいた』とおっしゃっていました」
美優:「え? 勇敢だなんて……私は何も」
田中:「あの状況で最後まで丁寧に対応されていた、と。専務は人を見る目が確かですから」
エレベーターの数字が上がっていく。30階、35階、38階……
美優(心の声):「こんな高いところまで……別世界みたい」
○神崎グループビル 38階廊下 同時刻
重厚な雰囲気の廊下。絵画が飾られ、絨毯も高級品。
田中、大きな扉の前で止まる。プレートには「専務取締役室 神崎蓮」とある。
田中:「少々お待ちください」
田中がドアをノックして中に入る。美優は廊下で待つ。
美優(心の声):「緊張する……でも、ちゃんとお礼も言わなきゃ」
○神崎蓮の専務室 同時刻
広々とした部屋に大きな机、本棚には専門書がびっしり。窓からは東京の街が一望できる。
蓮が書類を見ていると、田中が入ってくる。
田中:「専務、昨日カフェでお世話になった横井美優さんがいらしています」
蓮、顔を上げる。わずかに表情が和らぐ。
蓮:「そうか。通してください」
美優が入室。部屋の豪華さに一瞬たじろぐ。
美優:「あ、あの……昨日はありがとうございました」
深々とお辞儀をする美優。
蓮、立ち上がり、微笑む。昨日とは違う優しい表情。
蓮:「わざわざ来てくださったのですか? ご足労をおかけして申し訳ない」
美優、名刺入れを両手で差し出す。
美優:「これ、昨日お落としになった物です」
蓮、受け取りながら軽く微笑む。
蓮:「ありがとう。大切な物だったので助かります」
美優:「本当に、昨日は……あんな風に助けていただいて」
蓮:「いえ、当然のことです。あなたこそ、あの状況でよく冷静でいられましたね」
美優、少し照れる。
美優:「そんな……ただ我慢しただけです」
蓮:「我慢も立派な強さです」
蓮、美優にソファを勧める。
蓮:「せっかくいらしたのだから、お茶でもいかがですか?」
美優:「い、いえ! そんな、とんでもないです!」
慌てて手を振る美優。その様子を見て、蓮は美優の遠慮深さを察する。
蓮:「……では、せめてお礼をさせてください。今度、お食事でもご一緒していただけませんか?」
美優、驚いて目を丸くする。
美優(心の声):「え? お食事って……私なんかが?」
美優:「あの、私なんて……専務のような方と、その……」
言葉に詰まる美優。
蓮:「『専務のような方』ですか」
少し寂しそうな表情を見せる蓮。
蓮:「私も一人の人間です。良ければ、蓮と呼んでください」
美優、俯いて小さく首を振る。
美優:「すみません……私には、そんな資格は」
蓮:「資格?」
美優:「私たち、住む世界が違いすぎます。きっと、ご迷惑をおかけしてしまいます」
蓮、美優の言葉に複雑な表情。
蓮:「……そうですか」
間の取り方が絶妙で、二人の間に微妙な空気が流れる。
美優:「本当に、昨日はありがとうございました。それでは……」
立ち上がる美優。
蓮、慌てて立ち上がり、自分の名刺を差し出す。
蓮:「これを受け取ってください」
美優:「え? でも……」
蓮:「何か困ったことがあれば、遠慮なく連絡してください。昨日のお礼という意味で」
美優、戸惑いながらも名刺を受け取る。
蓮:「よろしければ、あなたの連絡先も教えていただけませんか?」
美優、驚く。
美優:「私の?」
蓮:「今度、何かお返しの機会があれば」
美優、迷った末に小さなメモに自分の携帯番号を書いて渡す。
○神崎グループビル エントランス 夕方
美優が建物を出ようとすると、蓮が後から追いかけてくる。
蓮:「横井さん」
振り返る美優。
蓮:「もし気が変わることがあれば、いつでもご連絡ください」
美優:「……ありがとうございます」
美優、お辞儀をして立ち去ろうとする。蓮はその後ろ姿をじっと見つめている。
モノローグ(蓮):「なぜか、このまま彼女を帰すのが惜しく感じる……」
美優のアパート 夜
美優、蓮からもらった名刺を見つめている。
モノローグ(美優):「優しい人だった……でも、やっぱり私とは違いすぎる」
名刺を大切にしまう美優。
神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻
蓮、窓から夜景を眺めながら。
モノローグ(蓮):「あの真っ直ぐな瞳……久しぶりに心が動いた。また会えるだろうか」
蓮の表情に、わずかな期待と不安が混じる。
ナレーション(美優):「私たちの間には、まだ大きな壁があった。でも、小さな種は確実に蒔かれた──」
6畳ほどの狭い部屋。古いベッドに美優が横になっているが、寝付けずに天井を見つめている。雨音が窓を叩く音が静かに響く。
モノローグ(美優):「あの人のこと、どうしても忘れられない……」
美優、枕元の小さなテーブルに置いてある名刺入れに手を伸ばす。
美優:「神崎蓮……」
名刺を見つめながら、昨日の出来事を思い返す。
○同・美優のアパート リビング兼キッチン 朝
質素だが清潔に保たれた部屋。美優が簡単な朝食(食パンとコーヒー)を取りながら、テーブルに広げた新聞の求人欄を見ている。
モノローグ(美優):「普通なら、こんな高級な名刺入れを落とした人のところなんて行かない。でも……」
美優、名刺入れを手に取る。
モノローグ(美優):「律儀に返すのが当たり前よね。お世話になったんだから」
鏡で身だしなみを整える美優。少し緊張した表情。
美優:「よし……行こう」
○外観 神崎グループ本社ビル 昼間
東京駅から程近い一等地に聳え立つ40階建ての超高層ビル。ガラス張りの近代的な外観で、入り口には「KANZAKI GROUP」の文字が金色に光っている。
美優、ビルを見上げて圧倒される。
美優:「すごい……こんなところで働いてるのね」
モノローグ(美優):「やっぱり私には場違いかも……」
スーツ姿のビジネスマンたちが颯爽と出入りする中、美優だけが普通の私服(清楚なブラウスとスカート)で明らかに浮いている。
○神崎グループビル 1階エントランス 同時刻
大理石の床に高い天井、巨大なシャンデリア。まるでホテルのような豪華なロビー。
美優、緊張しながら受付嬢に近づく。
受付嬢A(冷たい口調で):「はい、どちらさまでしょうか?」
美優:「あの、神崎専務にお渡ししたい物があるんですが……」
受付嬢A、美優の服装をジロジロ見て明らかに軽蔑の表情。
受付嬢A:「アポイントメントはお取りですか?」
美優:「え、いえ……その、落とし物を……」
受付嬢A:「アポイントのない方はお会いできません。お引き取りください」
美優、困った表情で名刺入れを見せる。
美優:「でも、これを落とされて……」
受付嬢A:「そのような物でしたら、こちらでお預かりしますので」
手を伸ばそうとする受付嬢。美優、とっさに名刺入れを胸に抱く。
美優:「い、いえ! 直接お渡ししたいんです!」
エレベーターから現れる上品な女性・田中秘書(35)。美優の声を聞いて振り返る。
田中:「どうかされましたか?」
受付嬢A:「田中秘書、この方が神崎専務にお会いしたいと言われるのですが、アポイントもなくて……」
田中、美優を見て何かを察する。
田中:「失礼ですが、お名前は?」
美優:「横井美優と申します。昨日、カフェ・ルミエールで……」
田中の表情が変わる。
田中:「もしかして、あの件の……。専務から伺っております。どうぞこちらへ」
受付嬢A、驚いた表情。
○神崎グループビル エレベーター内
豪華な内装のエレベーター。美優と田中が二人で上層階に向かう。
田中:「昨日は大変でしたね。専務が『勇敢な学生さんがいた』とおっしゃっていました」
美優:「え? 勇敢だなんて……私は何も」
田中:「あの状況で最後まで丁寧に対応されていた、と。専務は人を見る目が確かですから」
エレベーターの数字が上がっていく。30階、35階、38階……
美優(心の声):「こんな高いところまで……別世界みたい」
○神崎グループビル 38階廊下 同時刻
重厚な雰囲気の廊下。絵画が飾られ、絨毯も高級品。
田中、大きな扉の前で止まる。プレートには「専務取締役室 神崎蓮」とある。
田中:「少々お待ちください」
田中がドアをノックして中に入る。美優は廊下で待つ。
美優(心の声):「緊張する……でも、ちゃんとお礼も言わなきゃ」
○神崎蓮の専務室 同時刻
広々とした部屋に大きな机、本棚には専門書がびっしり。窓からは東京の街が一望できる。
蓮が書類を見ていると、田中が入ってくる。
田中:「専務、昨日カフェでお世話になった横井美優さんがいらしています」
蓮、顔を上げる。わずかに表情が和らぐ。
蓮:「そうか。通してください」
美優が入室。部屋の豪華さに一瞬たじろぐ。
美優:「あ、あの……昨日はありがとうございました」
深々とお辞儀をする美優。
蓮、立ち上がり、微笑む。昨日とは違う優しい表情。
蓮:「わざわざ来てくださったのですか? ご足労をおかけして申し訳ない」
美優、名刺入れを両手で差し出す。
美優:「これ、昨日お落としになった物です」
蓮、受け取りながら軽く微笑む。
蓮:「ありがとう。大切な物だったので助かります」
美優:「本当に、昨日は……あんな風に助けていただいて」
蓮:「いえ、当然のことです。あなたこそ、あの状況でよく冷静でいられましたね」
美優、少し照れる。
美優:「そんな……ただ我慢しただけです」
蓮:「我慢も立派な強さです」
蓮、美優にソファを勧める。
蓮:「せっかくいらしたのだから、お茶でもいかがですか?」
美優:「い、いえ! そんな、とんでもないです!」
慌てて手を振る美優。その様子を見て、蓮は美優の遠慮深さを察する。
蓮:「……では、せめてお礼をさせてください。今度、お食事でもご一緒していただけませんか?」
美優、驚いて目を丸くする。
美優(心の声):「え? お食事って……私なんかが?」
美優:「あの、私なんて……専務のような方と、その……」
言葉に詰まる美優。
蓮:「『専務のような方』ですか」
少し寂しそうな表情を見せる蓮。
蓮:「私も一人の人間です。良ければ、蓮と呼んでください」
美優、俯いて小さく首を振る。
美優:「すみません……私には、そんな資格は」
蓮:「資格?」
美優:「私たち、住む世界が違いすぎます。きっと、ご迷惑をおかけしてしまいます」
蓮、美優の言葉に複雑な表情。
蓮:「……そうですか」
間の取り方が絶妙で、二人の間に微妙な空気が流れる。
美優:「本当に、昨日はありがとうございました。それでは……」
立ち上がる美優。
蓮、慌てて立ち上がり、自分の名刺を差し出す。
蓮:「これを受け取ってください」
美優:「え? でも……」
蓮:「何か困ったことがあれば、遠慮なく連絡してください。昨日のお礼という意味で」
美優、戸惑いながらも名刺を受け取る。
蓮:「よろしければ、あなたの連絡先も教えていただけませんか?」
美優、驚く。
美優:「私の?」
蓮:「今度、何かお返しの機会があれば」
美優、迷った末に小さなメモに自分の携帯番号を書いて渡す。
○神崎グループビル エントランス 夕方
美優が建物を出ようとすると、蓮が後から追いかけてくる。
蓮:「横井さん」
振り返る美優。
蓮:「もし気が変わることがあれば、いつでもご連絡ください」
美優:「……ありがとうございます」
美優、お辞儀をして立ち去ろうとする。蓮はその後ろ姿をじっと見つめている。
モノローグ(蓮):「なぜか、このまま彼女を帰すのが惜しく感じる……」
美優のアパート 夜
美優、蓮からもらった名刺を見つめている。
モノローグ(美優):「優しい人だった……でも、やっぱり私とは違いすぎる」
名刺を大切にしまう美優。
神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻
蓮、窓から夜景を眺めながら。
モノローグ(蓮):「あの真っ直ぐな瞳……久しぶりに心が動いた。また会えるだろうか」
蓮の表情に、わずかな期待と不安が混じる。
ナレーション(美優):「私たちの間には、まだ大きな壁があった。でも、小さな種は確実に蒔かれた──」