運命の契約書

第13話 嵐の予感

○神崎グループビル 15階 国際事業部 朝

軽井沢から戻った美優、表情が以前より輝いている。

田村:「横井さん、おはよう! なんかすごくきれいになった?」

美優:「え? そうかな」

佐藤:「確かに。週末何かあった?」

美優:「特に何も…」

照れる美優。その様子を見て、田村が何かを察する。

田村:「まさか…彼氏とデート?」

美優:「そ、そんなことないよ」

慌てて否定する美優だが、頬が赤い。

田村:「絶対そうよ! 美優ちゃんの初恋?」

美優:「もう、やめてよ」

楽しそうに騒ぐ同期たち。美優も笑顔になる。



○神崎グループビル 1階 エレベーター前 朝

美優がエレベーターを待っていると、蓮が現れる。

蓮:「おはようございます」

美優:「おはようございます」

エレベーターに乗り込む。他の社員もいるため、普通の会話。

蓮:「週末はゆっくり休めましたか?」

美優:「はい、とても」

二人だけにわかる意味を込めた会話。美優、軽井沢での時間を思い出して微笑む。

蓮:「それは良かった」

目が合った瞬間、お互いに特別な感情を確認し合う。


○神崎グループビル 38階 専務室 昼

田中秘書が蓮に報告している。

田中:「専務、お客様がいらっしゃいました」

蓮:「どちらの?」

田中:「宮下麻里子(みやしたまりこ)様です」

蓮の表情が一瞬硬くなる。

蓮:「…麻里子が?」

田中:「はい。お急ぎの用事があるとのことで」

蓮、困った様子。

蓮:「わかりました。通してください」

田中:「かしこまりました」

田中が出て行く。蓮、窓の外を見つめる。

モノローグ(蓮):「なぜ今頃…」



○神崎グループビル 38階 専務室

宮下麻里子(28)が入ってくる。上品で美しい女性。高級ブランドのスーツを完璧に着こなしている。

麻里子:「お久しぶりです、蓮さん」

蓮:「麻里子…どうして?」

麻里子:「パリから戻りました。あなたに会いたくて」

蓮、立ち上がって距離を保つ。

蓮:「何の用ですか?」

麻里子:「冷たいですね。昔の婚約者にそんな態度?」

蓮:「もう過去のことです」

麻里子:「私にとっては違います」

麻里子、蓮に近づく。

麻里子:「やり直しませんか?」

蓮:「無理です」

麻里子:「なぜ? 他に女性でも?」

蓮、答えない。麻里子、その反応で何かを察する。

麻里子:「まさか、本当に?」



○神崎グループビル 38階 廊下 同時刻

美優が資料を届けに38階にやってくる。専務室の扉が少し開いていて、中の会話が聞こえる。

麻里子(声):「その女性って、どんな方?」

蓮(声):「関係ありません」

麻里子(声):「関係あります。私はあなたの元婚約者よ」

美優、「元婚約者」という言葉にショックを受ける。

モノローグ(美優):「元婚約者…?」

美優、そっと中を覗く。麻里子の美しさに圧倒される。

モノローグ(美優):「あんなに美しい人が…蓮さんの元婚約者?」



美優、麻里子と自分を比較してしまう。

モノローグ(美優):「私とは全然違う…品があって、美しくて、蓮さんに釣り合う人」

麻里子(声):「私たち、お似合いだったでしょう?」

蓮(声):「それは過去の話です」

麻里子(声):「過去? でも私たちには共通点がたくさんある。同じ世界で生きてきた」

美優、その言葉に深く傷つく。

モノローグ(美優):「同じ世界…私は蓮さんとは違う世界の人間」

美優、その場を立ち去ろうとする。



美優がエレベーターに向かおうとすると、専務室から麻里子が出てくる。

麻里子:「あら、どちらさま?」

美優:「あ…失礼しました」

慌てる美優。麻里子、美優を観察する。

麻里子:「もしかして、社員の方?」

美優:「インターンです」

麻里子:「インターン? 学生さんなのね」

美優:「はい」

麻里子:「そう…」

意味深な表情を見せる麻里子。美優、居心地の悪さを感じる。

美優:「失礼します」

美優、急いでエレベーターに向かう。



専務室に戻った麻里子。

麻里子:「今の学生さん、可愛らしいわね」

蓮:「…」

麻里子:「まさか、あの子が?」

蓮、反応してしまう。麻里子、確信を得る。

麻里子:「やっぱり。学生と大人の男性…随分と趣味が変わったのね」

蓮:「何を言っているんですか」

麻里子:「否定しないのね」

蓮:「お帰りください」

麻里子:「蓮さん、あの子はあなたに釣り合わないわ」

蓮、怒りを見せる。

蓮:「それ以上言わないでください」

麻里子:「図星のようね。でも、現実を見なさい」



○神崎グループビル 15階 国際事業部

美優、自分の席に戻るが集中できない。

モノローグ(美優):「元婚約者…しかもあんなに美しくて上品な人」

田村:「横井さん、大丈夫? 顔色悪いよ」

美優:「あ、大丈夫」

佐藤:「無理しちゃダメだよ」

美優:「ちょっと疲れただけ」

美優、書類を見つめるが文字が頭に入らない。

モノローグ(美優):「私なんかが蓮さんと付き合っていて良いのかな…」


○高級カフェ 午後

麻里子、友人の佳子と会っている。

佳子:「蓮さんに新しい彼女?」

麻里子:「学生よ。インターンで神崎グループに来てるの」

佳子:「え? 学生?」

麻里子:「横井美優っていう子。調べてもらったの」

佳子:「どんな子?」

麻里子:「貧乏学生よ。奨学金で大学に通って、母親は病気、弟もいるらしいわ」

佳子:「それは…」

麻里子:「蓮さんらしいわ。困ってる人を放っておけない」

佳子:「でも本気なのかしら?」

麻里子:「一時的な気の迷いよ。きっと」

麻里子、確信に満ちた表情。

麻里子:「私が目を覚まさせてあげる」


○神崎グループビル 1階 エントランス 夕方

蓮が美優を待っているが、美優は別の出口から帰ろうとしている。

蓮、美優を見つけて追いかける。

蓮:「美優さん」

美優:「あ…蓮さん」

蓮:「一緒に帰りませんか?」

美優:「今日は…用事があるので」

蓮:「何かありましたか? 様子がおかしいようですが」

美優:「何でもありません」

蓮:「美優さん、正直に言ってください」

美優、迷った末に。

美優:「今日…宮下さんという方にお会いしました」

蓮、表情が変わる。

蓮:「麻里子に?」

美優:「元婚約者の方だったんですね」

蓮:「美優さん…」

美優:「なぜ教えてくれなかったんですか?」


蓮:「過去のことだから関係ないと思っていました」

美優:「関係あります」

蓮:「美優さん」

美優:「あの方を見て、改めて思ったんです」

蓮:「何をですか?」

美優:「私たちの違いを」

蓮、美優の肩に手を置こうとするが、美優は避ける。

美優:「蓮さんには、あの方のような人が相応しいんです」

蓮:「そんなことはありません」

美優:「でも現実です」

蓮:「美優さん、私が愛しているのはあなたです」

美優:「今は、そう思っていても…」

声が震える。

美優:「いつか現実に戻る時が来ます」

蓮:「そんなことは絶対にありません」

美優:「わからないです」

美優、その場から立ち去ろうとする。

蓮:「美優さん、待ってください」

美優:「少し…一人にさせてください」


○美優のアパート 夜

美優、ベッドで泣いている。

モノローグ(美優):「やっぱり私には無理だったのかな…蓮さんと釣り合うなんて」

健人がドアをノックする。

健人:「姉ちゃん、大丈夫?」

美優:「大丈夫」

健人:「泣いてるでしょ?」

美優:「…」

健人:「何があったの?」

美優、ドアを開ける。

美優:「健人…私、どうしたらいいかわからない」

健人:「その蓮さんと何かあった?」

美優、頷く。



健人:「詳しく聞かせて」

美優、事情を説明する。

健人:「それで、姉ちゃんはどうしたいの?」

美優:「わからない…」

健人:「その神崎さんの気持ちは?」

美優:「私を愛してるって言ってくれるけど…」

健人:「だったら信じればいいじゃん」

美優:「でも、現実問題として…」

健人:「姉ちゃん、また逃げようとしてる」

美優:「逃げてない」

健人:「逃げてるよ。本当に好きなら、戦えばいいじゃん」

美優、健人の言葉に考えさせられる。

健人:「姉ちゃんは今まで、家族のために自分のことを後回しにしてきた。でも、たまには自分の幸せを掴んでもいいんじゃない?」


○神崎グループビル 蓮の専務室 深夜

蓮、まだオフィスにいる。

モノローグ(蓮):「美優さん…君を失うわけにはいかない」

携帯を手に取るが、迷って置く。

蓮:「明日、必ず話をしよう」

○美優のアパート 同時刻

美優、健人の言葉を思い返している。

モノローグ(美優):「健人の言う通りかもしれない。逃げてばかりじゃダメ」

窓の外を見る。

美優:「蓮さん…」

携帯を見るが、連絡はしない。

モノローグ(美優):「明日、ちゃんと話し合おう」

ナレーション(美優):「元婚約者の出現で、私たちの関係に暗雲が立ち込めた。でも、これが試練なら乗り越えなければならない。本当の愛なら、きっと──」


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