運命の契約書

第14話 試練と絆

○神崎グループビル 15階 国際事業部 朝

美優、いつもより早く出社している。昨夜ほとんど眠れなかった様子。

田村:「おはよう、横井さん。早いね」

美優:「おはよう」

佐藤:「なんか顔色悪くない? 大丈夫?」

美優:「少し寝不足で」

田村:「昨日から元気ないよね。何かあった?」

美優、答えに困る。

美優:「大丈夫。心配かけてごめん」

田村:「無理しないでよ」

美優、仕事に集中しようとするが手が震えている。

○神崎グループビル 38階 専務室 朝

蓮、田中秘書に指示を出している。

蓮:「田中さん、今日の午後は時間を空けてください」

田中:「かしこまりました。何かご予定が?」

蓮:「大切な話をしなければならない人がいます」

田中、美優のことだと察する。

田中:「横井さんのことですね」

蓮:「はい。昨日、少し行き違いがありまして」

田中:「宮下様の件ですか?」

蓮:「ご存じでしたか」

田中:「お見受けしました。専務、頑張ってください」

蓮:「ありがとうございます」



○神崎グループビル 1階 エントランス 昼

宮下麻里子が再び神崎グループを訪れる。受付で美優の情報を聞き出そうとしている。

麻里子:「昨日お会いした学生さんのこと、もう少し教えていただけませんか?」

受付嬢:「申し訳ございませんが、個人情報はお教えできません」

麻里子:「そうですか。では、蓮さんはいらっしゃいますか?」

受付嬢:「申し伝えいたします」

麻里子、エントランスで待ちながら美優を探している。



○神崎グループビル 1階 エレベーター前 昼

美優がエレベーターを待っていると、麻里子が近づいてくる。

麻里子:「昨日の学生さんですね」

美優:「あ…はい」

麻里子:「お時間少しいただけませんか? お話ししたいことがあります」

美優、断りたいが押し切られる。

美優:「でも、お仕事が…」

麻里子:「少しだけで結構です」

美優:「…はい」


○神崎グループビル近くのカフェ 昼

麻里子と美優が向かい合って座っている。

麻里子:「横井美優さんでしたね」

美優:「はい」

麻里子:「蓮さんとお付き合いされているそうですね」

美優、驚いて顔を上げる。

美優:「え?」

麻里子:「昨日の蓮さんの態度で分かりました」

美優、否定しようとするが言葉が出ない。

麻里子:「否定なさらなくても結構です。私はただ、お話しがしたいだけですから」

美優:「お話し?」

麻里子:「あなたにとって良いお話しです」



麻里子:「蓮さんがあなたに、私たちの過去について話したかしら?」

美優:「少し…」

麻里子:「少し? それはつまり、何も話していないということね」

美優、黙り込む。

麻里子:「私たちは5年間お付き合いして、両家も結婚を望んでいました」

美優:「…」

麻里子:「でも私がパリの大学院に留学することになって、一時的に婚約を解消したの」

美優:「一時的に?」

麻里子:「ええ。お互い、いずれは結婚するものだと思っていました」

美優、その言葉に動揺する。

麻里子:「今回パリから戻ってきたのも、蓮さんと結婚するためです」



麻里子:「あなたは可愛らしい方ですし、蓮さんが興味を持たれるのも分からなくはありません」

美優:「…」

麻里子:「でも現実を考えてみてください。蓮さんは神崎グループの専務で、将来は社長になる方です」

美優:「それは…」

麻里子:「そんな立場の方の奥様に、学生のあなたがなれると思いますか?」

美優、痛いところを突かれる。

麻里子:「お母様の医療費や弟さんの学費のこともあるでしょう?」

美優:「なぜそれを…」

麻里子:「調べさせていただきました。大変な状況ですね」

美優、屈辱感で涙ぐむ。

麻里子:「でも、心配いりません。良い提案があります」



麻里子:「蓮さんから身を引いてくださるなら、あなたのご家族をお助けします」

美優:「え?」

麻里子:「お母様の治療費、弟さんの学費、すべて私が負担いたします」

美優、信じられない様子。

美優:「なぜそんなことを…」

麻里子:「蓮さんを愛しているからです。彼の幸せを願っているから」

美優:「でも…」

麻里子:「あなたも蓮さんを愛していらっしゃるなら、彼の将来を考えてください」

美優:「…」

麻里子:「学生のあなたでは、彼の足手まといになるだけです」

美優、麻里子の言葉に深く傷つく。

麻里子:「お返事は今すぐでなくて結構です。よく考えてください」

名刺を置いて立ち去る麻里子。美優、一人残される。



○カフェ 同時刻

美優、麻里子の名刺を見つめている。

モノローグ(美優):「家族を助けることができる…でも、蓮さんを失うことになる」

涙が止まらない美優。

モノローグ(美優):「でも、宮下さんの言う通りかもしれない。私は蓮さんの足手まとい…」

携帯に蓮からのメッセージが届く。

メッセージ:「今日の夕方、お時間をいただけませんか? 大切な話があります -蓮」

美優、メッセージを見つめて更に悩む。



○丸の内公園 夕方

美優がベンチで待っていると、蓮が現れる。

蓮:「お疲れさまでした」

美優:「お疲れさまです」

蓮、美優の様子がおかしいことに気づく。

蓮:「美優さん、泣いていましたか?」

美優:「いえ…」

蓮:「何かあったのですね」

美優、麻里子との会話を思い出す。

美優:「蓮さん…私たちのこと、やっぱり無理なのかもしれません」

蓮:「なぜそんなことを言うのですか?」

美優:「宮下さんとお話しました」

蓮、表情が変わる。

蓮:「麻里子が何を?」


美優:「蓮さんと宮下さんは、いずれ結婚する予定だったんですよね」

蓮:「それは…」

美優:「本当のことを教えてください」

蓮、困った表情。

蓮:「確かに、そういう話はありました」

美優:「やっぱり…」

蓮:「でも、それは過去のことです」

美優:「過去? でも宮下さんは今も蓮さんを愛してる」

蓮:「私はもう麻里子を愛していません」

美優:「でも、蓮さんにはあの方の方が相応しいです」

蓮:「美優さん、また始まりましたね」

美優:「今度は本当に現実的な問題です」

蓮、美優の肩に手を置く。

蓮:「美優さん、私の話を聞いてください」


蓮:「確かに麻里子と私は、同じ環境で育ちました」

美優:「…」

蓮:「でも、だからこそ分かったんです。私には何かが足りなかった」

美優:「何が?」

蓮:「心から愛し合える関係が」

美優、蓮を見つめる。

蓮:「麻里子との関係は、周囲が望んだ関係でした。私たち自身の気持ちではなく」

美優:「でも…」

蓮:「美優さん、あなたと出会って初めて分かりました。本当の愛とは何かを」

美優:「蓮さん…」

蓮:「あなたを愛している私の気持ちに嘘はありません」

涙ぐむ美優。

蓮:「どんな困難があっても、あなたを守ります」


美優:「蓮さん…私も蓮さんを愛してます」

蓮:「美優さん」

美優:「でも、怖いんです」

蓮:「何がですか?」

美優:「私のせいで、蓮さんが困ることになったら」

蓮:「そんなことはありません」

美優:「でも現実に、宮下さんのような方がいて…」

蓮:「美優さん、私にとって大切なのはあなただけです」

蓮、美優を抱きしめる。

蓮:「他の誰でもない、あなたを選んだんです」

美優:「本当ですか?」

蓮:「本当です」

美優:「だったら…私も戦います」

蓮:「戦う?」

美優:「蓮さんに相応しい女性になれるよう頑張ります」

蓮、美優の決意に感動する。



蓮:「美優さんは既に十分素晴らしい女性です」

美優:「でも、もっと強くなりたいんです」

蓮:「一緒に頑張りましょう」

美優:「はい」

二人、固く抱き合う。

美優:「蓮さん、一つお約束してください」

蓮:「何でしょう?」

美優:「もし私が蓮さんの足手まといになるようなことがあったら、遠慮なく言ってください」

蓮:「そんなことは絶対にありません」

美優:「でも、もしもの時は」

蓮:「美優さん、あなたは私の人生にとって必要不可欠な存在です」

美優:「ありがとうございます」

キスを交わす二人。



○美優のアパート 夜

健人が美優の帰りを待っている。

健人:「おかえり、姉ちゃん。どうだった?」

美優:「ちゃんと話し合えた」

健人:「そっか。で、どうするの?」

美優:「戦うことにした」

健人:「戦う?」

美優:「蓮さんと一緒にいるために、私も強くならなきゃいけない」

健人、姉の決意を感じ取る。

健人:「姉ちゃんらしいや。応援してる」

美優:「ありがとう、健人」

○神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻

蓮、夜景を見ながら。

モノローグ(蓮):「麻里子がまた何か仕掛けてくるだろう。でも今度は負けない。美優さんを守り抜く」

○高級マンション 麻里子の部屋 同時刻

麻里子、ワインを飲みながら。

モノローグ(麻里子):「あの学生が諦めるまで、手を緩めるわけにはいかない。蓮さんは私のものよ」

ナレーション(美優):「私たちは試練を乗り越えて、より強い絆で結ばれた。でも、これは嵐の前の静けさに過ぎないのかもしれない。それでも、蓮さんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる──」


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