運命の契約書

第20話 出発前夜

○神崎グループビル 15階 国際事業部 朝

美優の最後の出社日。机の上には同僚からの寄せ書きとプレゼントが置かれている。

田村:「横井さん、これ私たちからの贈り物」

佐藤:「海外でも連絡取り合おうね」

美優:「ありがとう。みんなのおかげで、ここまで来られました」

鈴木係長:「横井さん、あなたは本当に成長しました」

美優:「係長のご指導のおかげです」

鈴木係長:「海外でも頑張って。きっと素晴らしい経験になるわ」

美優:「はい。必ず成長して帰ってきます」

周りの同僚たちからも温かい声をかけられる美優。

先輩社員A:「最初は心配したけど、立派になったものね」

先輩社員B:「専務を支えて頑張って」

美優、涙ぐむ。

美優:「皆さん、本当にありがとうございました」



○丸の内大学 学生課 昼

美優が休学届を提出している。

職員:「3年間の休学ですね。復学時の手続きについて説明いたします」

美優:「はい、お願いします」

職員:「海外での経験も、きっと将来に活かされますよ」

美優:「ありがとうございます」

手続きを終えて廊下を歩く美優。学生時代の思い出が蘇る。

モノローグ(美優):「この大学で蓮さんと出会った。すべてはここから始まった」


○丸の内大学 学生ラウンジ 午後

竹内由香:「ついに明日なのね」

美優:「うん」

竹内由香:「寂しくなるわ。親友がいなくなっちゃうなんて」

美優:「由香ちゃん…」

竹内由香:「でも、美優ちゃんの決断は正しいと思う」

美優:「本当?」

竹内由香:「だって、あんなに愛し合ってるんだもの」

二人、抱き合う。

竹内由香:「絶対に連絡するのよ」

美優:「もちろん」

竹内由香:「そして、幸せになって」

美優:「ありがとう、由香ちゃん。大親友よ」

竹内由香:「私も。ずっと」



○丸の内総合病院 恵子の病室 夕方

美優と健人が母親と最後の時間を過ごしている。

恵子:「美優、本当に行ってしまうのね」

美優:「お母さん、寂しい?」

恵子:「寂しいけれど、誇らしいわ」

美優:「誇らしい?」

恵子:「こんなに素晴らしい男性に愛されて」

健人も加わる。

健人:「姉ちゃん、体だけは気をつけてよ」

美優:「大丈夫。健人こそ、お母さんのこと頼むわね」

健人:「任せて。俺がしっかり守るから」

恵子、二人の成長した姿に感動する。

恵子:「あなたたちがこんなに立派になって…」

美優:「お母さんが教えてくれたからよ」

恵子:「美優、どんなに離れていても、私たちはずっと家族よ」

美優:「わかってる」

三人で抱き合う。


○美優のアパート 夜

美優が荷物をまとめている。3年分の生活用品を厳選するのは大変。

健人:「姉ちゃん、これも持って行く?」

蓮からもらったプレゼントを指差す健人。

美優:「もちろん。大切な思い出だから」

健人:「俺からも」

小さな箱を差し出す健人。

美優:「何これ?」

健人:「お守り。神社で買ってきた」

美優:「ありがとう、健人」

健人:「姉ちゃんが幸せでいられますようにって、お願いしておいた」

美優、涙ぐむ。

美優:「本当にありがとう」

健人:「俺の自慢の姉ちゃんだからな」


○神崎グループビル 38階 専務室 同時刻

蓮も最後の仕事を整理している。田中秘書が手伝っている。

田中:「専務、現地での連絡体制は整いました」

蓮:「ありがとうございます」

田中:「横井さんのサポートも万全に準備しました」

蓮:「彼女のことが一番心配です」

田中:「大丈夫ですよ。きっと立派にやり遂げられます」

蓮、窓の外を見る。

蓮:「3年間、長いでしょうね」

田中:「でも、きっとあっという間ですよ」

蓮:「そうですね」

田中:「専務、私からもお礼を言わせてください」

蓮:「お礼?」

田中:「横井さんと出会われて、専務が本当に幸せそうになられた」

蓮、微笑む。

蓮:「ありがとうございます、田中さん」


○高級レストラン 夜

美優と蓮が二人で最後の日本での食事をしている。

蓮:「明日からは、しばらく日本料理は食べられませんね」

美優:「寂しくなりそう」

蓮:「現地の料理も美味しいと聞いています」

美優:「楽しみです」

蓮:「美優さん、本当にありがとう」

美優:「何にですか?」

蓮:「私についてきてくれることに」

美優:「当たり前のことです」

蓮:「当たり前じゃありません。大学を休学してまで…」

美優:「蓮さん、もうそんな話はやめましょう」

蓮:「でも…」

美優:「私は自分の意志で決めました。後悔はありません」

蓮、美優の手を握る。

蓮:「愛しています」

美優:「私も愛しています」


○高級ホテル バー 同時刻

麻里子がロバートと最後の打ち合わせをしている。

宮下麻里子:「現地での準備はいかがですか?」

ロバート:「完璧だ。君の指示通りに手配した」

宮下麻里子:「あの学生が3年間耐えられるでしょうか?」

ロバート:「難しいだろうね。特に最初の1年は」

宮下麻里子:「蓮さんも仕事で手一杯になるでしょうし」

ロバート:「そうなれば、自然と関係にも亀裂が生じる」

麻里子、満足そうな表情。

宮下麻里子:「3年後、蓮さんが日本に帰ってきた時…」

ロバート:「君が待っているというわけか」

宮下麻里子:「もちろんです」



○美優のアパート 深夜

美優、ベッドで眠れずにいる。

モノローグ(美優):「本当に大丈夫なのかな…知らない国で3年間も」

窓の外を見る。

モノローグ(美優):「でも、蓮さんがいる。それだけで十分」

隣の部屋から健人の寝息が聞こえる。

モノローグ(美優):「健人、お母さん、ごめんね。でも、きっと成長して帰ってくる」

○神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻

蓮も眠れずに夜景を見ている。

モノローグ(蓮):「美優さんを幸せにできるだろうか。不安だ」

美優からのメッセージが届く。

メッセージ:「眠れません。蓮さんは?」

返信:「私も眠れません。明日からの新しい生活、楽しみですね」

美優の返信:「はい。一緒なら何でも乗り越えられます」

蓮の返信:「愛しています。おやすみなさい」

美優の返信:「私も愛しています。おやすみなさい」


○羽田空港 出発ロビー 朝

美優と蓮が見送りの人々に囲まれている。健人、田中秘書、田村、佐藤、竹内由香が来ている。

健人:「姉ちゃん、元気でね」

美優:「健人も元気で。お母さんのこと、よろしく」

田中:「専務、横井さん、お気をつけて」

蓮:「田中さん、ありがとうございました」

田村:「美優ちゃん、絶対連絡するのよ」

佐藤:「僕たちも応援してるから」

美優:「みんな、本当にありがとう」

竹内由香:「美優、幸せになるのよ」

美優:「うん。みんなも元気で」

涙ぐみながら抱き合う女性たち。


搭乗アナウンスが流れる。

アナウンス:「東南アジア行きの便をご利用のお客様、搭乗手続きを開始いたします」

蓮:「行きましょうか」

美優:「はい」

みんなに手を振る二人。

健人:「姉ちゃん、頑張って!」

田中:「お元気で!」

田村・佐藤:「横井さん、頑張って!」

竹内由香:「幸せになってね!」

美優、振り返って大きく手を振る。

美優:「みんな、ありがとう! 行ってきます!」



○飛行機内

離陸後、隣同士に座る美優と蓮。

美優:「ついに出発しましたね」

蓮:「はい。新しい人生の始まりです」

美優:「不安もあるけど、楽しみです」

蓮:「私も同じです」

窓から雲海を見る美優。

美優:「きれい…」

蓮:「美優さん」

美優:「はい」

蓮:「どんなことがあっても、一緒に乗り越えましょう」

美優:「はい。約束です」

手を重ね合う二人。


○東南アジアの空港 夕方

蒸し暑い気候の中、美優と蓮が到着する。

美優:「暑いですね」

蓮:「慣れるまで時間がかかるでしょう」

現地スタッフが迎えに来る。

現地スタッフ:「カンザキ様、ようこそ」

蓮:「よろしくお願いします」

現地スタッフ:「こちらの方は?」

蓮:「私の婚約者です」

美優:「よろしくお願いします」

現地スタッフ:「ホテルまでご案内いたします」

車に乗り込む二人。窓の外に広がる異国の風景。

美優:「本当に来たんですね」

蓮:「はい。これから3年間、この国が私たちのホームです」


○現地のホテル 夜

美優と蓮が部屋で荷物の整理をしている。

美優:「思ったより立派なホテルですね」

蓮:「会社が手配してくれました」

美優:「明日から、どんな生活が始まるんでしょう」

蓮:「一緒に頑張りましょう」

美優:「はい」

窓から見える夜景は日本とは全く違う。

美優:「蓮さん」

蓮:「はい」

美優:「愛してます」

蓮:「私も愛してます」

抱き合う二人。

モノローグ(美優):「新しい土地での新しい生活。不安だけど、蓮さんがいれば大丈夫」


○同じ頃 日本 麻里子のマンション

麻里子が現地からの報告を受けている。

宮下麻里子(電話で):「二人は到着したのね」

現地協力者(電話越し):「はい。予定通りです」

宮下麻里子:「準備した『驚き』は?」

現地協力者:「すべて手配済みです」

宮下麻里子:「楽しみね。あの子がどこまで耐えられるか」

現地協力者:「最初の試練は来週から始まります」

宮下麻里子:「完璧よ。3年後、蓮さんは必ず私のもとに帰ってくる」

邪悪な笑みを浮かべる麻里子。

○現地ホテル 同時刻

美優と蓮は幸せそうに眠りについている。まだ待ち受ける困難を知らずに。

ナレーション(美優):「私たちの新しい生活が始まった。愛する人と共に歩む未知の世界。きっと素晴らしい3年間になるはず。でも、思いもよらない試練が、すぐそこまで迫っていることを、私たちはまだ知らなかった──」


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