運命の契約書

第26話 帰国

○現地空港 出発ロビー 朝

美優がスーツケースを引いて搭乗手続きを終えている。リナが見送りに来ている。

リナ(英語で):「Are you sure about this decision?」

美優(英語で):「Yes... I think it's for the best」

リナ:「You're strong, Miu. You'll find happiness in Japan」

美優:「Thank you for everything, Lina. You were my only true friend here」

リナ:「Take care of yourself」

二人、抱き合う。リナ、内心で勝利を確信している。

美優:「I'll miss you」

リナ:「Maybe I'll visit Japan someday」

美優:「I'd like that」

搭乗アナウンスが流れる。

アナウンス:「Final call for passengers to Tokyo」

美優:「I have to go」

リナ:「Safe travels」

美優、振り返りながらゲートに向かう。表情に迷いが残っている。



○飛行機内 昼

美優が窓際の席で下を見下ろしている。雲の上を飛んでいるが、心は重い。

モノローグ(美優):「本当にこれで良かったのかな…」

隣の席の乗客が雑誌を読んでいる。その表紙に国際協力の記事が載っている。

モノローグ(美優):「子供たちの笑顔…もう二度と見ることができない」

涙がこぼれる。

モノローグ(美優):「でも、もう限界だった。あれ以上は耐えられなかった」



○羽田空港 到着ロビー 夕方

美優が到着ゲートから出てくると、健人が迎えに来ている。

健人:「姉ちゃん!」

美優:「健人…」

抱き合う兄妹。健人、美優がやつれているのに気づく。

健人:「姉ちゃん、痩せたね。大丈夫?」

美優:「疲れただけよ」

健人:「荷物少ないね」

美優:「色々あって…持って帰れなかったの」

健人、詳しくは聞かずに美優の荷物を持つ。

健人:「とにかく、お疲れさま。家に帰ろう」

美優:「ありがとう」



○恵子のアパート 夜

健人と美優が恵子の新しいアパートに到着する。手術後、完全回復した恵子が迎える。

恵子:「美優、お帰りなさい」

美優:「ただいま、お母さん」

恵子:「元気そうじゃないわね。何かあったの?」

美優:「大丈夫よ。疲れてるだけ」

恵子:「蓮さんは?」

美優、表情を曇らせる。

美優:「お母さん…私たち、別れたの」

恵子:「え?」

健人:「姉ちゃん、そうだったのか…」

美優:「向こうで色々あって…うまくいかなくて」

恵子:「そう…辛かったでしょうね」

美優、涙ぐむ。

美優:「ごめんなさい。期待させてしまって」

恵子:「謝ることないわ。よく頑張ったじゃない」

母親の温かい言葉に、美優は泣き始める。

美優:「お母さん…」

恵子:「もう大丈夫よ。家族がいるから」


○現地アパート 夜 同時刻

蓮が仕事から帰宅すると、アパートがひっそりとしている。

蓮:「美優さん…」

習慣で美優の名前を呼んでしまう。返事がないことを改めて実感。

携帯を見ると、NGOからメッセージが届いている。

NGOからのメッセージ:「神崎グループ様の支援により、教育プログラムを再開できることになりました。ありがとうございます」

蓮:「再開? それなら美優さんも…」

すぐにNGOに電話をかける。

蓮(電話で):「横井美優さんはいらっしゃいますか?」

NGOスタッフ(電話越し):「申し訳ありません。ミウさんは昨日日本に帰国されました」

蓮、ショックを受ける。

蓮:「帰国?」

NGOスタッフ:「はい。とても残念です。子供たちも悲しんでいます」

電話を切った蓮、呆然とする。

モノローグ(蓮):「美優さんが帰国? なぜ連絡してくれなかったんだ」



○丸の内大学 学生ラウンジ 翌日

美優が竹内由香と再会している。

竹内由香:「美優、おかえり!」

美優:「由香、久しぶり」

竹内由香:「でも、なんで急に帰ってきたの?」

美優、これまでの経緯を説明する。

美優:「もう限界だったの。毎日何かが起こって…」

竹内由香:「それって、やっぱり偶然じゃないと思う」

美優:「でも、誰が私にそんなことを…」

竹内由香:「美優に恨みを持つ人…」

美優、考える。

美優:「思い当たらないの」

竹内由香:「蓮さんを巡って?」

美優:「まさか…」

竹内由香:「元カノとか、ライバルとか」

美優、はっとする。

美優:「宮下さん…」

竹内由香:「誰?」

美優:「蓮さんの元婚約者。でも、まさかそんな…」

竹内由香:「可能性はあるんじゃない?」



○丸の内大学 学生課 昼

美優が復学手続きをしている。

職員:「1年早い復学ですが、問題ありませんか?」

美優:「はい。事情が変わりまして」

職員:「海外での経験を単位認定することもできますが」

美優:「お願いします」

職員:「それでは来月から授業に参加できます」

美優:「ありがとうございます」

手続きを終えて廊下を歩く美優。学生たちが楽しそうに話している。

モノローグ(美優):「またここから始めるのね」



○高級ホテル ラウンジ 夕方

宮下麻里子が情報収集のために雇った探偵と会っている。

探偵:「横井美優さんが昨日帰国しました」

宮下麻里子:「そう。予定通りね」

探偵:「現在は家族と一緒に住んでいます。大学に復学する予定です」

宮下麻里子:「神崎蓮は?」

探偵:「まだ現地にいます。彼女が帰国したことを知って動揺している様子です」

宮下麻里子:「完璧ね。もうすぐ私の出番」

探偵:「今後はどうなさいますか?」

宮下麻里子:「しばらく様子を見るわ。彼が日本に帰ってくるまで」



○現地事務所 夜

蓮が一人残業している。プイが心配して声をかける。

プイ(日本語で):「カンザキさん、また遅いですね」

蓮:「美優さんが帰国したと聞いて…」

プイ:「そうですか。寂しいですね」

蓮:「なぜ何も言わずに帰ってしまったのか…」

プイ:「きっと彼女なりの理由があったのでしょう」

蓮:「私が気づいてあげられなかった」

プイ:「自分を責めないでください」

プイ、蓮の肩に手を置く。

プイ:「今は仕事に集中しましょう。それが一番です」

蓮:「そうですね…」


○恵子のアパート 夜

美優が家族と夕食を取っている。

健人:「姉ちゃん、明日から就職活動する?」

美優:「まずは大学を卒業してから」

恵子:「無理しちゃダメよ」

美優:「大丈夫。勉強に集中するのもいいかもしれない」

健人:「でも、寂しくない?」

美優:「何が?」

健人:「蓮さんがいなくて」

美優、箸を止める。

美優:「…慣れるしかないでしょ」

恵子:「美優、本当にもう連絡を取らないの?」

美優:「もう終わったことよ」

健人:「でも、誤解だったらどうするの?」

美優:「誤解じゃないわ。証拠を見たもの」

家族、それ以上は追及しない。



○丸の内大学 図書館 翌週

美優が一人で勉強していると、後輩の学生が声をかけてくる。

後輩:「横井先輩! 帰国されたんですね」

美優:「ええ。事情があって」

後輩:「神崎グループのインターンのお話、すごく参考になりました」

美優:「そう…」

後輩:「専務の神崎さん、とても素敵な方でしたよね」

美優、胸が痛む。

美優:「そうね…」

後輩:「また一緒にお仕事されるんですか?」

美優:「いえ…もう関係ないの」

後輩:「え?」

美優:「すみません、勉強に戻らせてもらいます」

後輩、困惑しながら去る。美優、本に集中しようとするが涙がこぼれる。



○恵子のアパート 夜

美優の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってくる。

美優:「はい」

田中(電話越し):「美優さん、田中です」

美優:「田中さん?」

田中:「神崎グループの田中です。お元気ですか?」

美優:「はい…お久しぶりです」

田中:「実は、専務のことでご相談が…」

美優:「専務のこと?」

田中:「帰国のこと、ご存じなかったようで、とても動揺されています」

美優、複雑な気持ちになる。

美優:「そうですか…」

田中:「一度お会いして、お話しできませんか?」

美優:「でも、もう関係ないことですから…」

田中:「美優さん、何か誤解があるのではないでしょうか」

美優、迷う。

美優:「…考えさせてください」

田中:「わかりました。でも、専務は美優さんを愛しています」

美優:「田中さん…」

田中:「それだけは信じてください」


○美優の部屋 深夜

美優がベッドで横になっていると、携帯にメッセージが届く。蓮からだった。

メッセージ:「美優さんへ。帰国のこと、NGOで知りました。なぜ連絡してくれなかったのですか。話がしたいです」

美優、メッセージを見つめて涙ぐむ。

美優:「今さら何を…」

返信しようとするが、やめる。

モノローグ(美優):「もう終わったこと。振り返っちゃダメ」

しかし、心の奥で蓮への気持ちが完全には消えていないことを自覚している。



○恵子のアパート 美優の部屋 深夜

美優が蓮からもらったプレゼントを見つめている。

モノローグ(美優):「幸せだった時もあった。でも、すべて終わってしまった」

○現地アパート 蓮の部屋 同時刻

蓮が美優の写真を見ながら。

モノローグ(蓮):「美優さん、君はもう僕のことを忘れてしまったのか」

○麻里子のマンション 同時刻

麻里子がワインを飲みながら満足そうな表情。

宮下麻里子:「すべて計画通り。あとは蓮さんが帰国するのを待つだけ」



○丸の内大学 キャンパス 朝

美優が新学期の授業に向かっている。桜が咲き始めている。

モノローグ(美優):「新しい季節が始まる。私も新しいスタートを切らなければ」

教室に向かう美優の表情に、少しずつ前向きさが戻ってきている。

モノローグ(美優):「過去は過去。今は勉強に集中して、将来のために頑張ろう」

教室に入ると、クラスメートたちが温かく迎えてくれる。

クラスメートA:「横井さん、お帰りなさい!」

クラスメートB:「海外の話、聞かせてください」

美優:「ありがとう。よろしくお願いします」

久しぶりに自然な笑顔を見せる美優。

ナレーション(美優):「日本での新生活が始まった。辛い思い出を胸に、でもそれに負けることなく前進していこう。きっと新しい幸せが待っているはず──」


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