運命の契約書

第4話 再会の約束

○美優のアパート リビング 休日の朝

美優が朝食の準備をしている。高校生の弟・健人(17)が制服姿で現れる。美優よりも背が高く、スポーツをやっているらしく引き締まった体型。

健人:「姉ちゃん、おはよう」

美優:「おはよう、健人。今日も部活?」

健人:「うん、バスケの朝練があるから」

健人、トーストを頬張りながら。

健人:「そういえば、姉ちゃんがすごい会社のインターンに受かったって、お母さんから聞いたよ」

美優、少し照れる。

美優:「まだ決まっただけよ。これからが大変」

健人:「姉ちゃんならきっと大丈夫。いつも頑張ってるもん」

美優、健人の言葉に励まされる。


○病院 個室 昼間

美優が母親・恵子(48)のお見舞いに来ている。恵子は少し痩せているが、穏やかな笑顔を浮かべている。

恵子:「美優、インターンシップのこと、本当によかったわね」

美優:「お母さんのおかげよ。『諦めずに努力しなさい』って、いつも言ってくれたから」

恵子:「あなたが頑張ってるのを見てると、私も元気になるわ」

恵子、美優の手を握る。

恵子:「でも無理は禁物よ。あなたの体が一番大切なんだから」

美優:「わかってる。お母さんこそ、ちゃんと治療に専念して」

○丸の内大学 図書館 夕方

美優が一人で経済関係の専門書を読んでいる。机の上には神崎グループの会社案内や業界研究の資料が山積み。

モノローグ(美優):「絶対に他のインターン生に負けるわけにはいかない」

そこに竹内由香が現れる。

由香:「美優、また勉強? もうすっかり神崎グループの専門家ね」

美優:「当たり前よ。準備不足で恥をかくわけにはいかないもの」

由香:「真面目すぎるって。たまには息抜きも必要よ」

由香、隣に座る。

由香:「ところで、その専務ってどんな人? すごいハンサムなんでしょ?」

美優、顔を赤らめる。

美優:「そんなこと関係ないでしょ!」


美優の携帯が鳴る。画面には「神崎蓮」の文字。

美優、慌てる。

美優「え? なんで?」

由香:「出なよ」

美優、恐る恐る電話に出る。

美優:「はい、横井です」

蓮(電話越し):「お疲れさまです。突然すみません」

美優:「い、いえ、こちらこそ」

蓮:「実は、インターンシップの件で少しお話ししたいことがあります。もしお時間があるようでしたら……」

美優、由香を見る。由香は親指を立てて「行きなよ」のジェスチャー。

美優:「はい、大丈夫です」

○丸の内 小さなカフェ 夕方

高級すぎず、学生でも入りやすい落ち着いたカフェ。蓮が先に到着し、窓際の席で待っている。

美優が緊張した様子で入ってくる。蓮、立ち上がって軽く手を上げる。

蓮:「こちらです」

美優:「お忙しい中、すみません」

蓮:「いえ、こちらこそお時間をいただいて」

蓮が美優の椅子を引いてくれる。美優、そのマナーの良さに少し驚く。

美優:「ありがとうございます」

蓮:「まず、インターンシップの詳細についてお話しします」

蓮、資料を取り出す。

蓮:「期間は夏休みの1か月間。配属先は国際事業部です」

美優:「国際事業部……」

蓮:「はい。あなたの将来の希望を考慮しました。国際機関で働きたいとおっしゃっていましたよね」

美優、蓮が自分の将来の夢を覚えていてくれたことに感動する。

美優:「覚えていてくださったんですね」

蓮:「当然です。大切なことですから」

美優、胸が温かくなる。

蓮:「ただし、厳しい部署ですよ。覚悟はできていますか?」

美優:「はい。よろしくお願いします」


コーヒーを飲みながら、会話が続く。

蓮:「普段はどんな勉強をされているんですか?」

美優:「国際経済学が専門です。特に発展途上国の経済開発に興味があって」

蓮:「素晴らしいですね。私も学生時代は同じような分野を学んでいました」

美優:「そうなんですか?」

蓮:「ええ。実は、最初から商社を目指していたわけではないんです」

美優、興味深そうに聞く。

蓮:「国際機関で働くことも考えていました。でも、民間企業からのアプローチも重要だと気づいて」

美優、蓮の意外な一面を知って親近感を覚える。

蓮:「学生時代は苦労しました。家が裕福だったから甘やかされて育ったと思われがちでしたが……」

美優:「そんなことは……」

蓮:「いえ、事実です。だからこそ、実力で認められたかった」

蓮の表情に、過去の苦労が滲む。

蓮:「あなたを見ていると、当時の自分を思い出します。真摯に努力する姿が」

美優、蓮の言葉に心を動かされる。

モノローグ(美優):「この人も、私と同じように努力してきたんだ……」

会話が弾み、時間が経つのを忘れる二人。

蓮:「そういえば、ご家族のことを聞かせてもらえませんか?」

美優:「え?」

蓮:「以前、お母様が病気だとおっしゃっていましたが、体調はいかがですか?」

美優、蓮の気遣いに驚く。

美優:「覚えていてくださったんですね。ありがとうございます。少しずつ良くなっています」

蓮:「それは良かった。弟さんもいらっしゃるんでしたね」

美優:「はい、健人です。高校生で……」

美優、家族のことを話し始める。蓮は真剣に聞いている。

蓮:「インターンシップ中、何か困ったことがあれば遠慮なく相談してください」

美優:「ありがとうございます。でも、特別扱いは……」

蓮:「特別扱いではありません」

微笑む蓮。

蓮:「同じ夢を持つ後輩への、先輩としてのアドバイスです」

美優、その言葉に安心する。

美優:「先輩……そう言っていただけると心強いです」

蓮:「それと」

蓮、少し照れたような表情で。

蓮:「もしよろしければ、今度からもう少しカジュアルに話しませんか? いつも敬語だと、なんだか距離を感じてしまって」

美優、驚く。

美優:「で、でも……」

蓮:「無理にとは言いません。ただ、そうしていただけると嬉しいです」

美優、迷った末に小さくうなずく。

美優:「わ、わかりました……蓮さん」

蓮、嬉しそうに微笑む。

蓮:「ありがとうございます。美優さん」

名前で呼ばれて、美優の心臓が高鳴る。

モノローグ(美優):「名前で呼んでもらった……なんだかドキドキする」

蓮:「それでは、来週月曜日からよろしくお願いします」

美優:「こちらこそ、よろしくお願いします」

○丸の内駅 夕方

二人が改札前で別れる。

蓮:「お疲れさまでした。気をつけてお帰りください」

美優:「ありがとうございました。月曜日、頑張ります」

蓮が去った後、美優は胸に手を当てる。

モノローグ(美優):「なんだか、今日はいつもと違った。蓮さんも、もっと身近な人みたいに感じられて……」



○美優のアパート 夜

美優、インターンシップの資料を見直しながら。

モノローグ(美優):「明日からが本当のスタート。絶対に頑張って、蓮さんに認めてもらいたい」

○神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻

蓮、窓から夜景を見ながら。

モノローグ(蓮):「美優さん……彼女と話していると、なぜか心が軽くなる。明日から、また新しい日々が始まる」


美優が帰宅すると、健人がリビングで宿題をしている。

健人:「おかえり、姉ちゃん。今日は遅かったね」

美優:「インターンシップの準備で」

健人:「そっか。なんか嬉しそうだね」

美優:「え?」

健人:「いつもより表情が明るいよ。きっといい職場なんだろうね」

美優、鏡を見る。確かに少し頬が上気している。

美優:「そ、そうかな……」

健人:「姉ちゃんが頑張ってくれるおかげで、俺も安心して勉強できる。ありがとう」

美優、健人の言葉に改めて決意を固める。

美優:「健人も頑張って。お互い、夢に向かって」

ナレーション(美優):「新しい世界への扉が、ゆっくりと開かれようとしていた。まだ不安もあるけれど、今は期待の方が大きかった──」




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