運命の契約書

第3話 偶然という名の必然

○丸の内大学 経済学部棟 朝

桜並木の美しいキャンパス。学生たちが教科書を抱えて歩いている。

美優、友人の竹内由香と一緒に歩いている。由香は明るい性格で美優の親友。

由香:「美優、今日の就職説明会、一緒に聞きに行かない? 神崎グループよ!」

美優、はっとして足を止める。

美優:「え? 神崎グループ?」

由香:「そうそう! 日本でもトップクラスの商社でしょ? まあ、私たちには高嶺の花だけど、話だけでも聞いてみたいじゃない」

美優、複雑な表情で蓮からもらった名刺を思い出す。

モノローグ(美優):「神崎グループ……まさか、あの人が来るなんてことは……」


○丸の内大学 大講義室 昼間

200人収容の階段教室が学生でほぼ満席。就活スーツを着た学生が多い中、美優は普通の服装で後ろの席に座っている。

司会の教授が壇上に立つ。

教授:「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。神崎グループ専務取締役の神崎蓮様にご講演いただきます」

学生たちがざわめく。

学生A:「専務が直接来るの?」

学生B:「すごいじゃん、滅多にないよ」

美優、驚いて身を乗り出す。

美優(心の声):「まさか本当に……!」


壇上に現れる蓮。黒いスーツに身を包み、堂々とした立ち振る舞い。学生たちが静かになる。

蓮:「皆さん、こんにちは。神崎グループの神崎です」

会場を見回す蓮の視線が、後ろの席の美優を捉える。一瞬、表情が和らぐ。

美優、蓮と目が合って慌てて俯く。

モノローグ(美優):「気づかれちゃった……」

蓮:「今日は『グローバル社会で求められる人材』というテーマでお話しさせていただきます」

蓮の講演が始まる。流暢で説得力のある話に学生たちが聞き入っている。

蓮:「技術や知識だけでは不十分です。最も大切なのは『人としての誠実さ』と『困難に立ち向かう勇気』です」

美優、その言葉に心を打たれる。

蓮:「例えば、理不尽な状況でも相手を思いやり、最後まで責任を果たす。そんな人材を我が社は求めています」

美優には、蓮が自分との出会いを思い出して話しているように感じられる。

モノローグ(美優):「あの日のこと、覚えていてくれるのかな……」


教授:「それでは質疑応答に移ります。どなたか質問のある方は」

数人の学生が手を挙げる中、美優も迷った末に手を挙げる。

蓮:「はい、後ろの方」

美優を指名する蓮。会場の視線が美優に集まる。

美優、立ち上がって緊張しながら。

美優:「あの……経済的に恵まれない家庭の学生でも、実力さえあれば平等に評価していただけるのでしょうか?」

会場がざわめく。現実的で切実な質問に学生たちも関心を示す。


蓮、美優の質問に真剣に向き合う。

蓮:「素晴らしい質問ですね。我が社では出身や経済状況は一切関係ありません」

間を置いて、力強く続ける。

蓮:「むしろ、困難な状況を乗り越えてきた人材こそ、真の強さを持っていると考えています。実際に、奨学金で大学に通いながら弊社で活躍している社員も多数います」

美優、蓮の言葉に感動し、目を潤ませる。

蓮:「大切なのは、どんな環境にあっても諦めずに努力し続ける姿勢です」

会場から拍手が起こる。

説明会が終わり、学生たちが帰り始める。美優も立ち上がろうとすると、

アナウンス:「横井美優さん、横井美優さん、恐れ入りますが壇上までお越しください」

美優、驚いて周りを見回す。由香も驚いている。

由香:「美優、知り合い?」

美優:「え、えーっと……」

仕方なく壇上に向かう美優。学生たちの視線が痛い。

壇上で蓮と二人きりになる美優。

蓮:「来てくれたんですね。嬉しいです」

美優:「あの、偶然で……まさか本当にいらっしゃるとは思わなくて」

蓮:「偶然ですか」

微笑む蓮。

蓮:「先ほどの質問、とても良かったです。あなたのような学生にこそ、弊社に興味を持ってもらいたい」

美優:「でも私なんて……」

蓮:「また『私なんて』ですか?」

優しく首を振る蓮。

蓮:「自分を卑下する必要はありません。あなたには素晴らしい可能性があります」

蓮、美優に近づく。

蓮:「実は、提案があります。弊社でインターンシップをしませんか?」

美優、目を丸くする。

美優:「インターンシップ?」

蓮:「夏休み期間中、実際に弊社で働いてみませんか? もちろん、きちんと給与もお支払いします」

美優、戸惑う。

美優:「でも、私みたいな者が……特別扱いしていただくわけには」

蓮:「特別扱いではありません。あなたの実力を正当に評価してのことです」


美優、俯いて考え込む。

モノローグ(美優):「インターンシップ……憧れだけど、この人だから特別に声をかけてもらったんじゃ……」

蓮:「無理にとは言いません。ただ、考えてみてください」

美優:「……少し、時間をいただけますか?」

蓮:「もちろんです。いつでもお待ちしています」

蓮、自分の名刺を渡す。今度はプライベート用の名刺。

蓮:「こちらに直接ご連絡ください」

美優と由香が並んで座っている。

由香:「すごいじゃない! 神崎グループの専務に個人的に声をかけられるなんて!」

美優:「でも……」

由香:「でもじゃないよ。こんなチャンス滅多にないよ!」

美優、名刺を見つめる。

美優:「本当に実力で選んでくれたのかな……」

由香:「美優の成績、学部でもトップクラスじゃない。自信持ちなよ」

○美優のアパート 夜

美優、携帯で母親と話している。

美優:「お母さん、体調はどう?」

母(電話越し):「ありがとう、美優。少しずつ良くなってるわ。あなたこそ、無理しないで」

美優:「実は、インターンシップの話をもらったの」

母:「それは素晴らしいじゃない! どちらの会社?」

美優:「神崎グループって言うところ」

母、驚く。

母:「神崎グループ? あの有名な……美優、それは大変なことよ!」

美優、机に向かって何かを書いている。便箋に丁寧な字で。

モノローグ(美優):「お母さんの治療費も、弟の健人の学費も……この機会を逃すわけにはいかない」

書き終えて、蓮の名刺を見る。

美優:「でも、甘えるつもりはない。実力で認めてもらう」

携帯を手に取る美優。

○神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻

蓮、残業をしながら書類を見ている。携帯が鳴る。

蓮:「はい、神崎です」

美優(電話越し):「あの、横井です。今日はありがとうございました」

蓮、表情が明るくなる。

蓮:「お疲れさまでした。いかがでしたか?」

美優:「インターンシップの件……お受けさせていただきたいと思います」

蓮、微笑む。

蓮:「本当ですか? ありがとうございます」

美優:「ただ、一つお約束させてください」

蓮:「何でしょう?」

美優:「特別扱いは一切なしで、他のインターン生と同じように接してください」

蓮、美優の真剣さを理解する。

蓮:「承知いたしました。ただし、手は抜きませんよ」

美優:「はい、よろしくお願いします」

通話を終えて、それぞれが新たな展開に期待を込める。

モノローグ(美優):「これが私にとって本当に良い選択なのかわからない。でも……」

モノローグ(蓮):「彼女がどんな成長を見せてくれるか、楽しみだ」

ナレーション(美優):「運命は、私たちを再び同じ場所へと導いた。今度は、もっと深いつながりの中で──」




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