死んじゃうなら、その命くれない?

ep18:帰り道

「結構遅い時間になっちゃったな。みんな帰りは大丈夫?」

 思いのほか話が盛り上がってしまい、時計は夜9時を回っていた。

「私は駅近(えきちか)だから大丈夫。明日香は春人と同じ方向でしょ? 送ってもらったら?」

「何言ってんの彩奈。まだ、9時過ぎじゃん。一人で全然平気だよ」

「いやいや、俺送ってくよ。——それより、眞白の家は遠いよな。自転車で帰るんだろ?」

 眞白が一人だけ自転車で家まで来ていた。ここからだと、40分は掛かるだろう。

「眞白は俺が送ってくよ。最近、自転車買ったとこだから」

「いっ、いいよ。往復したらめちゃくちゃ時間かかるじゃん」

「気にするなって。じゃ、とりあえずエントランスまで降りようか」

 私たちはマンションを出ると、週明けの校外学習で会おうと約束をして別れた。


***


「なんか、眞白と二人きりになるの久しぶりだな」

「ハハハ、ホント。私もバイト始めたりとか、前より忙しくなったからね」

 二人でゆっくりと自転車を漕ぎながら眞白の家へと向かう。眞白の自転車のキコキコという音が夜空に響く。

「あれからどう? お母さんはどんな感じ?」

「私が元気になったからって、また新しいパート見つけてきたよ。フフ、本当に行動が早いんだから。——あ、あとね。今度来てくれる時は、お土産とか気にしないでねって。また来て欲しそうだったよ、お母さん」

「そっか……今度は手ぶらで行くようにするよ。とにかく良かった、元気そうで。——もしかしてだけどさ、お母さん俺のこと彼氏だとか思ってない?」

「どうだろうねえ……一応、私は全力で彼氏じゃないって言っておいたけど、お母さんはどう思ってるかな」

「ハハハ、そっか。——そういやさ、春人と映画観に行くらしいじゃん」

「そうなの。沙耶から借りた漫画が面白くって、それを春人に話したの。そしたら、春人もその漫画が大好きらしくって。いまその漫画の映画やってるから、一緒に観に行こうかって、盛り上がっちゃって。——え? もしかして、悠真ヤキモチ焼いてたりする?」

 眞白はニヤニヤと笑ってそう言った。

「うーん……ヤキモチっていうか、二人がどんどん仲良くなって嫉妬なのかな……? こんなこと、眞白にしか言えないんだけど、正直に言えばそんな感じなんだ。自分でもよく分かんないんだけど」

 あまりにも正直に答えてしまったからか、眞白は驚いた顔をした。

「それはきっと、悠真が眞白だった時に、春人のことを好きだったからじゃない? どう? 当たってる?」

「そうだね……でも、好きだったっていうよりは、憧れだったっていう方が近いかな。——ああ、そうか。そんな憧れだった人が、今の眞白と仲が良いから嫉妬しちゃってるのかもしれないな」

「ハハハ、なるほどね。——もしかして、今も春人と一緒だとドキドキしたりするの?」

「いや……不思議とそれはないな。——眞白は?」

「うーん……逆に私は、少しあったりするかも。私が好きになっちゃったのか、眞白の時の記憶が残ってるのか……もしかして、私たちの感情や気持ちって、体に合わせて変わっていくのかもしれないね。——フフ、これからどうなるんだろう、私たち」

 眞白は夜空を見上げて、そう言った。
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