嘘つきな天使
「尾上 莉里、当時は伊藤だったが、この女五年前も千尋が講義をしている学生だった。調べによると、当時好きだった同じ大学生の男子生徒が千尋に想いを寄せていて、それが気に食わなかったようだ」
「そんな理由で……?」
ぎりぎりと握った拳が爪が食い込んで痛い。
「まぁ理由なんて小さなもんから発生するもんだ」と天真が無表情に言う。
「天真はそれでいいの!大切な千尋さんがそんな理由で亡くなっちゃったんだよ!」
思わず勢い込むと
「良くないさ!できればその女をこの手で絞殺してやりたいぐらいだが、それは流石にできない」
天真――――
天真は私の知るもうずっと前から一人で闘ってたんだ。
殺したい、でもできない。
キッカケは由佳の暴行事件から始まったけど、ホントは誰よりも復讐したかった筈。
「千尋の死因は未だ特定はされていないが、尾上と加納を締め上げたらそのうち分かるだろう」と西園寺刑事さんが淡々と言ってのけた。
「あ、そうそう、これ彩未さんのコート。証拠押収される前に回収してきたよ。監視カメラと言うか、ボスである西崎 祥が女性を物色する際に撮ってたカメラ映像、こっちも彩未さんの所だけ消去しておいたから」と現場に残してきたコートの存在をすっかり忘れていた私。確かにこれが見つかったら私が現場に居たこと疑われる。西園寺刑事さんには感謝だ。
私はまだ俯いている由佳の方を見た。
「由佳……大丈夫?」
「うん?私は思ったより平気」由佳は気丈に笑う。由佳……
長い付き合いだから分かる。由佳は辛いときこそ無理やり笑う癖があるってことに。
「無理しなくていいんだよ」
「無理……してないよ……尚くんの気持ちが離れて行ってることぐらい分かってた。浮気してることも薄々感づいていた。でも目を逸らしてた。いっときのことだよって諦めてもいた。彩未には見栄張っちゃって。ほんとクダラナイよね」
「くだらなくなんてない」私が強めに言うと
「くだらないよ!高校生活一緒に過ごして、東京行って成功した私、勝手に勝ち組だと思ってた。その思い上がりがこのツケなんだよ!私、どこかいつも彩未と比べてた。彩未より可愛くなりたい、彩未よりステキな彼氏が欲しい、彩未より輝きたい、っていつもそればかり。そんなことばかり考えてたから罰が当たったんだよ」
由佳――――
そんなこと考えてたなんて知らずに、能天気に由佳の友達を気取っていた私がきっと一番―――悪い。
思わず俯くと
「それに関しては彩未も金田さんもどっちも悪くない」
天真が頬杖をつきながらのんびりと言った。
「そうそう、悪いのはあの自己顕示欲の塊の莉里って女で」と西園寺刑事さんも肩をすくめる。
「元はそうかもしれねーけど、きれいになりたい、幸せになりたいって思うのは誰でもあるんじゃね?それを金田さんはいち早く叶えた。それだけのことだ。結果はどうであれ、あんたは加納と出逢ってそう言う気持ちになったんだろ?悪いことだけじゃない。
それに人と比べることなんて当たり前のことだ。長く一緒に居りゃその分その気持ちは大きくなる。俺だって小学校からずっと優等生だった西園寺に比べられて嫌な思いはたくさんしてきたけれど、友達辞めたいなんて思ったことねーしな」
天真が西園寺刑事さんを見上げて、西園寺刑事さんはちょっと苦笑い。
「僕はいつも問題児だった天真の尻ぬぐい役」
「友達なんてそんなもんだろ?金田さん、今回の事件で一番あんたを心配してくれてたのは彩未だろ?」
天真の言葉で由佳が目を潤ませて私を見てくる。
「彩未、こんなひどい私だけどこれからも友達でいてくれる?」
酷い、なんて思ったことない。由佳は私が知坂に捨てられたとき本気で怒ってくれたし、天真との仲を応援してくれた。私が変わっても受け入れてくれた。
「私たち、ずっと友達だよ」