嘘つきな天使
次の日、病院が休みなのをいいことに西園寺刑事さんと由佳が揃ってうちにやってきた。珍しい組み合わせだな。
由佳は私を見ると
「何で一言私に相談してくれなかったの!彩未にだけそんな危険なことさせて!」と泣きながら私に抱き着いてきた。
「もう由佳をこれ以上巻き込みたくなかったから……」と言い訳めいた言葉以上何も返す言葉がなく言葉に詰まっていると、天真がぽんぽんと私の頭を優しく叩いた。
「だからって……」と由佳は泣きじゃくっていたが、西園寺刑事さんに優しく引きはがされると目に涙は浮かべたままのもの、ほんの少し笑顔で「でも、私の為にありがとうね」と囁くように言った。
「こいつは言い出したら聞かない意外に頑固なとこあるみたいだ。金田さんの為にって鼻息荒くしてたぞ」と天真。
「ちょっとぉ。頑固とか鼻息荒く、とか」
「分かるー。彩未って昔からそうだったよね。私が高校時代いっときクラスメイトに苛められてたときも一人で庇ってくれたし。だから私たち陰キャ同士で仲良くしてな、って逆に呆れられてそれ以来苛められなくなったよねー」
由佳……そんなこと覚えててくれたの……?
じーん…としてる間もなく(てかむしろ黒歴史)
西園寺刑事さんは仕事が早いのかその後の調べで、色々分かったことがある。
「ええ!?莉里ちゃんと加納くんが浮気!」
その事実にも驚かされたが、ことの発端は莉里ちゃんが全部計画したものだと言うことが判明した。加納くんはそれに乗っかっただけ。莉里ちゃんは加納くんとどうしても付き合いたくて、由佳を陥れようとしたようだ。
そう言えば二度目に莉里ちゃんを訪ねて行ったとき、最初は知らぬ存ぜぬで通していたのに、加納くんが現れて『由佳が居なかったら口説いてたかも』って発言を聞いてから急に態度を急変させた。だから教える気になったのか……ホント腹黒い女だ。
「莉里ってどこかで聞いた名前だと思ったが、五年前の捜査線上でもその名前はあがっていた。でも当時の苗字が尾上 ではなく伊藤だったから最初は気づかなかった」と西園寺刑事さんが説明をくれた。
「そう言えば莉里ちゃん大学卒業してから両親が離婚したとか何とか言ってた」と由佳が目をぱちぱち。
「俺もその名前には引っかかるものがあった」と天真も言う。ああ、だから莉里ちゃんの名前、どこかで聞いたことがあるって言ってたんだ。
「まぁ僕は早い段階でこの女と加納が怪しいと踏んで部下に張り込ませていたんだよ。まぁ怪しいって言い出したのは天真だけどね」と西園寺刑事さんはスマホを取り出した。天真が――――?
「あの男?加納?何か胡散臭かったんだよな、まぁ金田さんには失礼な話かもしれねーけど。それに千尋が亡くなったとき、西園寺に頼み込んで捜査資料を一部見せてもらってたんだ」
それって駄目なことじゃ??
西園寺刑事さんが見せてくれたスマホは動画で、莉里ちゃんと加納くん二人が腕を組みながらラブホテルから出てくるものだった。画像は割と鮮明でピンポイントに加納くんと莉里ちゃんを狙っている。それに気づかない二人は談笑しながら歩いて行った。
加納くんが莉里ちゃんと浮気……未だに信じられないよ。由佳も未だ現実を受け入れられないのか俯いたまま下唇を噛み、スカートをぎゅっと握っている。
『あーあ、せっかく由佳先輩を”A”に連れてったけど、結局元気になって残念。あのまま絶望して自殺でもしてくれればよかったのに』
『そうだな、それだったらあと腐れなく俺らは堂々と付き合えたのに』
何それ!酷い……酷すぎる!!
由佳!加納くんと結婚するつもりだったけど、絶対こんなクソ男と結婚なんてダメだよ!!