嘘つきな天使
天真の過去。

■天真の過去。


天真がジョギングに行ったことをいいことに、私はチェストの引き出しを開けた。いけないことと分かりつつ、天真があの写真を捨てるとは思えなかった。

案の定、三段あるチェストの引き出しの一番上の引き出しに、元カノの写真が伏せて仕舞われていた。

天真をここまで想わせる人ってどんな人だったんだろう。

写真一枚じゃ分からないけれど明るくて、きっと優しい人だったんだろうな。(ついでに美人だし)

しばらく写真を眺めていたけれど、名前も知らない彼女のことをいくら考えたって分からないものは分からない。

諦めて朝食作りを開始させることにした。

最近、コンビニだけど徐々にコンビニで買える食材が増えつつある。

よし、今日はサンドイッチにするぞ。

ゆで卵を潰して卵サンドを、ツナ缶もあった(これは以前からあった。良かった賞味期限切れてないみたい)でツナサンド、あとはチーズとハムでハムサンド。

天真は一時間と言っていたがそれより早く帰ってきた。

まだサンドイッチ作り途中だった私はちょっとびっくり。

帰ってきてからびっくりさせたかったのに。

「今日はサンドイッチか!」天真は汗だくの額を拭いながら目をきらきらさせた。

「うん、でもコンビニのよりおいしくないかもしれないよ」と一応くぎを刺しておくと

「バーカ、手作りってとこに醍醐味があるだろ」

また人をバカ扱いして。でも天真の『バカ』はいつも悪意がなくて。いつも私を気遣ってくれる優しさに気づく。

天真がシャワーから上がったらちょうどサンドイッチを作り終えた。

相変わらず濡れたままの髪を乾かそうとせず、すぐにテーブルにつくと「いただきます」と言ってサンドイッチにすぐ手を伸ばす天真。

あんたは欠食児童か、とツッコみたくなるぐらいその手は素早かった。

「うっまぁ!」天真は卵サンドからはみ出した卵サラダを口の端にくっつけて破顔。

子供みたいで可愛いし。

「てかついてる」と天真の口の端についた卵サラダの欠片を親指で拭うと、自然自分の口でパクリ。

「「…………」」

は!しまった!いくら天真が子供みたいに見えたからって相手は私のたぶん五歳は上!立派な大人のオトコ。

「何か恋人同士みたいだな、俺ら」と天真が意味深に笑い

「違っ!!これはくせで」

「へー、じゃぁ”知坂”にもやってやってたの?」と天真が面白くなさそうに目を上げる。

「と、知坂はそんな子供っぽいことしないもん」

って、知坂の話蒸し返すなーーー!!
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