嘘つきな天使
朝食を食べ終えて、出勤時間にはまだ時間がある。私はせっかく天真が買ってくれた化粧品たちを顔に塗ることにした。
は、はじめて自分でする化粧。
昨日化粧品会社のおねーさんにレクチャーしてもらったのを思い出しつつ、某有名動画サイトをスマホで見ながらチャレンジ。
くっ!意外に化粧って難しいんだな。世の女子たちは毎日これをしてるのかと思うと尊敬するよ。今度由佳にも教えてもらおうかな……特にアイライン。これがきれいに書けなくて悪戦苦闘していると
「貸してみ」と見かねた天真にアイライナーを奪われた。
「目、閉じて」と言われ大人しく閉じると「最初からうまくやろうなんて無理なんだよ。ゆっくりでいいんだから」と言って、アイライナーが私の瞼を縁取っていく感触を感じた。
「ほら、できたぞ」と言われ目を開けると、昨日化粧品会社のおねーさんがやってくれたのと同じラインがきれいに描かれていた。
「凄っ!何でこんなにきれいにできるの」産婦人科からメイクアップアーティストに転向しては?と思ったが
「最初、千尋もそうだったから」
千尋―――って誰……
天真は口が滑ったと言う感じで不自然じゃない程度で視線を逸らし、
「じゃぁ俺、先に下に行ってるから」と言って、さっさと階下に降りていく。
千尋って初めて聞いた名前。もしかして天真の五年前に別れたって言う彼女―――
天真こそ、まだ忘れられてないじゃない。
あんな大事にチェストに写真を仕舞うぐらい。
ん?何か私怒ってない?
べ、別に天真が他の女性と仲良くしてても何も感じないもん。
何も―――
何だか色々もやもやを抱えて、私も時間になったから一階に降りて行った。
香坂さんはすでに出勤していて、今日の予約の患者さんのカルテを探してる最中だった。
「お、おはよーございます」と声を掛けると
「え、誰!」と香坂さんはそれはそれは秒の速度で後ずさり。
あ、そっか。香坂さんは昨日のこと知らないんだ。
「あ、私です。麻生 彩未」と自分を指さすと
「麻生さん!?ホントだわ、よく見たら」と香坂さんは目を丸めた。
そうだよね、当然の反応だよね。昨日の自分とは別人だもん。