嘘つきな天使
「すっごい垢ぬけちゃって、すっごく似合ってるわよ」と香坂さんの反応は上々だった。
「ホントですか?」アイラインだけは天真にやってもらったけど他は自分だし、大丈夫かなーってちょっと心配だったけど
「ええ、こっちの方が断然いいわよ」
ってことは前の私は相当ダメだったわけで……ガクリと肩を落とすと
「ね、麻生さん、もしかして恋した?」
なんてとんでもないことを香坂さんが言い出した。
こ、ここここここ恋ーーーー!!!?
「いえ!そんなことは」
「じゃぁ何でそんなイメチェン」
「これは昨日天……じゃなくて先生に色々連れ回されて、こうされました」
「ああ、恋したのは麻生さんじゃなくてあっち」
と、香坂さんは何を納得をしたのか一人うんうん頷いている。
”あっち”って天真のこと!?
そ、それはないない!
「あのひと気に入った子は最初すごく地味なんだけどね、先生と付き合っていくうちにどんどんきれいになってくのよ。あ、私と天真先生って前の病院でも先生と看護師って関係でね」
へぇ、そんな前からの付き合いなのかぁ。だったら天真のこと良く知ってるよね。
「それって千尋さんのことですか?」
言った後になってはっとなって口をつぐんだ。香坂さんは目を開いて
「その名前どこで?」と声を潜めた。
「あ、さっき天……先生がぽろっと……」
「そう……その名前、あの先生の前でタブーだから絶対言わないようにね」と香坂さんはいつになく厳しく言い放った。
私はうんうん、慌てて頷いた。
タブーって。天真相当酷いフラれ方したんだな。
私も相当だけど、それ以上?
ダメだ。口に出しちゃいけないと言われると気になるのが人間のさがって言うのかな。
この日私は天真と千尋さんの仲が気になり過ぎてあまり仕事に身が入らなかった。それでも香坂さんのアシストで何とか午前診察を終えることができた。
あの天真にそれほど強烈に爪痕を残して行った千尋さんのことが
気になる。