嘘つきな天使


Pi……PiPiPi

「うーん……もうちょっとこのまま」と機械音が鳴る音から顔を逸らして目の前の分厚いけれど固い何かに顔を埋めると

「お、朝から大胆だな♪」と天真の声が聞こえてきて

へ!?

慌てて顔を離して声がする方を見ると天真が片方の肘を枕について私を見ろしていた。つまり私は裸の天真の胸に顔を摺り寄せてたわけで……

わぁ!!

どうやら私は昨日致した後、そのまま眠ってしまったようだ。それはそれで恥ずかしいが…

「しまったぁ!メイク落とすの忘れてた」

「大丈夫だって。一日ぐらい落とさなくても死にゃしねーよ」と天真はのんびり言って、顎が外れるんじゃないかと思うぐらい欠伸を漏らした。

もう、他人事なんだから。

てか昨日あんなにロマンチックだったのに、この変わり身の早さ。ま、天真らしくてこれはこれでありかな?

それから慌ててシャワーを浴び、交代で浴びに言った天真に朝食を作ろうとしていると

「簡単でいいぞ。疲れてるだろうし」と天真が私を指さし。

天真ってやっぱ優しいなぁ……知坂とは大違い……って昨日誓ったばかりじゃない!知坂のことはもう忘れるって!


その日から約一か月間、今までの嵐のような出来事は去って行って、(とは言っても相変わらずトレーニングとウォーキングは続けてるけど)平和な日々を過ごした。

由佳は本来の元気さと可愛さをすっかり取り戻して今はもう復職している。加納くんとの仲も順調みたいだ。二人いた刑事さんの警護も一人になった。

もう事件は収まりつつある。このまま忘れてしまえば一番いいんだけど。

天真とは―――相変わらずの暮らしが続いている。ちゃんと恋人と言う立ち位置じゃないけれど、お互い気があったらたまにセックスをして、でもそうゆうのが楽。

変に結婚とか意識しなくていいから。

考えてみたら知坂のとき何であんなにこだわっていたんだろ、って思うぐらい私の心は穏やかだった。

そうなると心の余裕ってのが生まれてくる。最初の二週間は目まぐるしく回る日々の出来事で天真のことあまり見えてなかったけれど、

天真は雨が降ると必ず寝室の窓枠に腰掛け、タバコを口に含みウィスキーのロックグラスを傾けている。ほんの僅か開けた窓から雨特有の匂いが香ってきた。

タバコに火は灯ってない。ただ咥えているだけの状態。

別にタバコ嫌いじゃないからいいけど、昔からお父さんが吸ってたし慣れてるっちゃ慣れてる。

「タバコ、吸わないの?」と聞くと

「もう何年も前に辞めた」と答えが返ってきた。

「じゃぁ何で咥えてるの」

洗濯物を畳みながら意味もなく聞くと



「忘れないため」



天真のいつになく寂しい声が聞こえてきた。
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