嘘つきな天使
準備はいい?
■ 準備はいい?
『いいか、”A”は拠点をいくつも点々としている。長く居つくと足がつくからな。何としてでも今の拠点を知る必要がある』
天真の言葉を思い出しながら、ぼんやりとホットコーヒーを飲んでいた。
私は以前、由佳と行って莉里ちゃんを呼び出してもらったキッチンカ―が並ぶオープン広場でカップに入ったコーヒーを飲んでいる。
本格的な冬が到来してきたのか、屋外のテーブルには人が少なくカップからは淹れたてのコーヒーが湯気を立ち上らせている。吐く息ももやがかかっていた。むき出しのコンクリートから素足にパンプスはきつかったかな。
呼び出して数分後、莉里ちゃんは白いコートに身を包み寒そうに首をすぼめて私の元にやってきた。他にも数客居たが私が呼び出したことすぐに理解してくれたみたいだ。
「あの……麻生さん?」疑うような目で見られたのは、以前会いに行ったときと姿が変わったからかそれとも他の理由からか。
「麻生です、ごめんね急に呼び出して」
「お昼休みなんで大丈夫です。あの、今日……由佳先輩は…?」
「今日は私一人。由佳に聞かれたくない話したくて。勿論由佳にも今日二人で会ったこと言わないでね」と念を置くと莉里ちゃんは少しだけ怪訝な顔をした。
「話って何ですか……”A”のことなら私知らないって前……」
莉里ちゃんが顎を引く。
「その”A”の場所、知らない?」
「……どうして…私、知りません」と莉里ちゃんは目をきょろきょろと忙しなく動かす。
これは―――知ってるな。でも単に関わりたくないからなのか、それとも他の理由があるのか。
「そっか、残念だな。私由佳の話聞いてちょっと興味があって」
「興味?」莉里ちゃんが目をちょっと上げる。
「うん、私も彼氏と別れたばかりでマッチングアプリとか試したけどさっぱりダメで、こうなったら手っ取り早く出会いを探したいな~って思って」全くの嘘だったが、淀みなく口からすらすらと出た。
「手っ取り早くって……由佳先輩がどうなったか知ってるでしょ?そんな危険なとこ行きたいなんてあなたちょっとおかしくないですか?」莉里ちゃんが怪しむように眉間に皺を寄せ、そうでると踏んでいた私はテーブルに両手をついてちょっと腰を上げた。莉里ちゃんが何か奇異なものを見る目で私を見上げてきて胸の前できゅっと手を握る。
「私は由佳みたいなへましない」
にこり、と笑って言ってやると
「あ…そうさんて由佳先輩と仲良しなんじゃないですか?」
「仲良し?やめてよね」ごめん由佳。これ全部嘘だから、と心の中で由佳に謝りながら「私は毎回可愛い由佳の引き立て役だった。でも私がイメチェンしたら由佳ったら急に距離を置いてきて、酷いと思わない?」と言いながら席に戻ると
「まぁそういうとこある人でしたよね~」と莉里ちゃんがノってきた。由佳は莉里ちゃんは可愛い後輩だと言っていたが、この女腹の中真っ黒じゃない。人のこと言えないけど由佳も人を見る目がないな。