MYSTIQUE
Cruel Days
 ――90年代。

「一郎くん、ちょっといいかしら?」
 養護施設の職員が声をかけると、この施設で暮らす鈴木一郎は、一生懸命読んでいた教科書から顔を上げた。
「あのね。あなたのお母さんがいらっしゃっていて⋯⋯」
 その言葉に、一郎の表情は翳った。
「どうする?会う?」
 職員の問いに、暗い表情のまま、
「はい⋯⋯」
 一郎は、小声で答えると、職員のあとをついて行く。
 面談室では、一郎の母親がスパスパと煙草を吸っていた。
「あの⋯⋯ここでの喫煙はご遠慮頂けますか」
 職員が言うと、一郎の母は露骨に舌打ちし、
「灰皿がないじゃない!」
 久々に再会した息子を前に、産みの母の第一声がそれだった。
 職員が、灰皿代わりに飾り物の貝殻を彼女の前に差し出し、母親は苛立った様子で煙草を押し付けながら、
「何なのよ、その辛気臭い顔は。ママが迎えに来てあげたのに、嬉しくないわけ?」
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