MYSTIQUE
 嬉しくないのかと問う彼女のほうこそ、全く嬉しくなさそうどころか、ずっと苛立っている。
「ううん、嬉しいよ⋯⋯」
 一郎は小声で返す。
「だったら、もっと嬉しそうにしなさいよ。人前でママに恥をかかせないで!」
 そのような母親の言動に、職員は自分の表情が険しくなるのを堪えきれず、一郎はただ俯くだけ。
「鈴木さん。ご用件をお願いできますか?」
 職員の問いに、
「は?さっき言ったわよね?迎えに来たって。日本語が通じないの?」
 母親は、職員を睨みつける。
「そうですね⋯⋯。失礼ですが、今、お仕事はなさっていますか?」
「これから探すわよ!なんで他人のあなたにそんなことを言われないといけないの?」
「これからですか。では、現在の生活費は⋯⋯」
「うるさいわね。それを言わせるの!?感じの悪い人ね!」
「現在は、生活保護を受給中ということでよろしいでしょうか?」
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