きっとそれは凪いだ時

第二章 異形の悪神

八島の旅は過酷だった。島は壊滅し、食料も水もほぼない。枯れた森、涸れた川。かつての豊穣は跡形もない。それでも、彼は歩みを止めなかった。復讐だけが彼を支えていた。
黒い塔に近づくと、空気が異様に重くなる。まるで世界が彼を拒絶しているかのようだ。塔の入り口に、ダズが立っていた。異形の姿は人間とはかけ離れている。漆黒の鱗に覆われた体、鋭い爪と牙、背には翼のような突起が揺れる。目には冷酷な光が宿り、口元には嘲笑が浮かぶ。
「八島、よくぞここまで来た」とダズの声は低く、響く。
「だが、お前の旅はここで終わる」
八島は短剣を構える。言葉は不要だ。ダズが爪を振り上げると、空間が裂け、黒い炎が襲いかかる。八島は素早く回避し、反撃に転じる。だが、その瞬間、別の気配。背後からキラが現れた。
キラの姿もまた異形だった。蛇のような下半身、枯れた蔦が髪のように揺れ、目は毒々しい緑に輝く。彼の周囲には、動植物の残骸が漂い、まるで命を吸い尽くした証のようだ。「八島、復讐なんて無意味」とキラは囁く。
「私と手を組めば、新しい世界を創れる」
「黙れ」と八島は吐き捨てる。
「お前もダズも、俺のすべてを奪った。死で償え」
戦いが始まった。ダズの黒い炎は空を焼き、キラの毒の霧は地面を侵す。八島は二人の異形の悪神を相手に、かつての保安官の技を駆使して戦う。短剣がダズの鱗をかすめ、キラの蔦を切り裂く。だが、二人の力は圧倒的だ。八島の体は傷つき、息が乱れる。
「なぜだ！」ダズが咆哮する。
「なぜそこまで抗う！ お前にはもう何もない！」
八島の目が揺れる。だが、彼は答えた。
「お前が奪ったのは俺の日常だ。仲間、愛、希望。だが、俺はまだ生きている。お前たちを許さない」